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「すべての子どもに気軽に泊まれる親戚のお家を作りたい」 地域の中で孤立する親子を「一歩手前」で受けとめるために

リビングではゲームで対戦する子どもたちの歓声が上がる。隣のキッチンでは、手分けして今日の夕食の炒め物を作っている。

「小学生から高校生まで集まって、週3回、こんなふうに遊んだり一緒にご飯を作って食べています」

そう説明してくださるのは「NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」事務局長の天野敬子さんだ。

プレーパーク(冒険遊び場)の運営や子ども食堂、学習支援など、豊島区内でさまざまな子ども支援を行っている同団体。
その中でもここ「WAKUWAKUホーム」は、近隣の子どもたちが集まる居場所であると同時に、いろいろな事情で自宅から一時的に離れたほうがよい子どもが、保護者の許可を得て宿泊することができる場所だ。

「子どものために地域で出来ることをやりたい」

もともと「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の成り立ちは、2004年に現理事長 栗林知絵子さんが、豊島区内の冒険遊び場「池袋本町プレーパーク」の運営に関わり始めたことがきっかけだった。

そこに遊びに来ていた当時中学生のT君のために、自宅を解放する形で無料学習支援を始め、また高校受験に合格するための費用として、周囲の人たちに1000円カンパの呼びかけをおこない、約100人から必要な費用を集めることが出来た。
T君が無事に高校へ合格したことでそのお金は使う必要がなくなったのだが、出資された方は返金を望まなかった。
逆に「今回のことで出来た繋がりとお金をもっと他の困っている子どもへ向けてほしい」という声が上がり、その声を受ける形で支援の受け皿となりうる団体が立ち上がることになった。

栗林知絵子さん(中央)

「私が栗林さんと会ったのは、当時自分がふたつほどやっていた地域サロンに訪ねてきたのが最初でした。この時自分もスクールソーシャルワーカーをしながら任意団体を作って不登校・ひきこもりの支援活動をすると平行して、他団体のホームレス支援の活動にも参加していたのですが、関わる子どもの背景にも経済的な困難さが垣間見えていたんです。

栗林さんと会って自団体で企画したホームレス支援をテーマにしたドキュメンタリー映画の上映会にお誘いしたことをきっかけに、東京アンブレラ基金で協働しているTENOHASIさんとお引き合わせするなどしました。
そんな前提もあって、T君のカンパ呼びかけの折にも、自分も協力していたんですね。それをやっている中で栗林さんと『やっぱり子どもの貧困問題って難しいですよね』『なかなか何ともならないんだけど、出来ることを地域でやりたいね』と話しているうちに『じゃあ、団体立ち上げを一緒にやってよ!』と言われて、うっかり頷いてしまいました(笑)」

緊急宿泊で一緒になった子ども同士も良い影響を

法人化前、2004年のプレーパーク運営参画から実質の活動が始まって、2012年の団体設立・2013年の法人化後の無料学習支援「池袋WAKUWAKU勉強会」、2013年の「要町あさやけ子ども食堂」を嚆矢とする複数の子ども食堂の開設など、地域の親子にニーズに寄り添う形で事業を展開してきた同団体。
そんな中で、天野さんは団体設立当初から子どもが安心して宿泊できる場所の必要性を考えていたという。

「WAKUWAKUを設立する時に作る設立趣意書に、私が『夜の児童館』と『子どものシェルター』という文言を入れていたんです。『夜の児童館』については2014年に実現出来たのですが、宿泊については宿題になっていました。ただ、活動が広がっていく中で『安心して宿泊できる場所』の必要性についてより切実に思うことが増えていきました」

「WAKUWAKU設立初期の頃に関わっていた子で、ご家庭の事情があって児童相談所に保護され、そのまま知らない地域の知らない施設に行ってしまった子がいたんです。でも、本当はその子は地域で育ててあげたかった。
当時その子は、すでに地域のいろいろな人と繋がっていて、支援してくれる大人もいたし、学校にもお友達がたくさんいたんです。

ひどい虐待があったわけではなかったので、状況的に地域でそのまま育つ方が良いのではないかと考え児童相談所へ交渉にいったのですが、結局ダメだったんですね。こんな風に、逆に子どもが不利益を被ってしまい育つ権利が守られない状況があります。
もしその時、WAKUWAKUに安心して宿泊できる場所があったらもう少し出来ることがあったのではないかと、この子のことは今でも心に引っかかっているんです」

このような思いから、遂に2017年より子どもの居場所兼保護者了承のもと宿泊することが可能な場所「WAKUWAKUホーム」が開設された。

子どもたちの居場所としてオープンしているのは毎週水曜・金曜・土曜日。また別の日で子ども食堂も開催されている。ただ、宿泊の対応はSOSがあれば都度対応しているという。

「利用するのは豊島区内の子ども達が中心ですが、ちょうど区界にあるので文京区や板橋区から来る子もいます。利用のきっかけは、もともとWAKUWAKUネットワークの他事業で繋がっている場合が多いのですが、子ども家庭支援センターよりショートステイ事業も委託されているので、要支援状態の子も来ています」

WAKUWAKUホームのリビングでは子ども達がおもいおもいに過ごす

「基本的にここはオープンハウスなので、いろいろな大人が出入りします。プレーパークのプレーリーダーも来るし、地域のお母さんや学生もやってきて、いろいろな世代や立場の大人達が集うことで交流の場になっていることが面白いです。関わる家庭の状況が『親一人子一人』の子どもも珍しくないので、狭い世界ではなく多様な大人がいるんだということを知ってもらうことが、すごくよい影響を与えています」

また、宿泊利用をしている子ども同士でも、たまたま一緒になった時に仲良くなり、影響を与え合うということも珍しくないという。

「二泊〜三泊利用で偶然一緒になる子が、兄弟みたいにいい感じになることもあります。たとえば、だいたいここに来る子は勉強が苦手なことが多くて『ゲーム大好き』って子が多いんです。けれど、たまに泊まりに来る子ですごく勉強が出来る子がいるんですよ。
ここに泊まっている間も真剣に勉強する姿を見て『こんな世界もあったのか』と衝撃を受けているんですね。自分の友達は遊んでばかりなのに、まじめに受験勉強なんかする子がいる世界があったのかと。それで勉強しない子がするようになるわけではないのですが(笑)、いい影響が広がる感じは伝わってきて、見守っている側としても面白く感じています」

こんな場所がもっとたくさん増えればいい

「スタッフとして長時間関わる中で、もちろん子ども達も変わっていくし、自分自身もいい意味で変わっていった自覚がありますね」

そう語るのは、WAKUWAKUホーム開設当初からスタッフをしている水島政行さん。ここでは現場の責任者として、子ども達の遊び相手から食事作り、諸々の対応まで一切を担当されている。

水島政行さん

開設から二年。さまざまな子どもたちの変化を見てきた水島さん。

「たとえば来ている子が、ここに関わりながら受験に合格し、進学していくのははすごく嬉しい変化でしたね。
2年前の開設時は、自分の方でも子ども達にどう接すればいいか迷う部分もありました。ただ、一緒に過ごしていううちに、同じ目線で見ることが出来るようになり、子ども達が今何を楽しいと感じているのか理解して、一緒に楽しむことが出来るようになりました」

「さまざまな事情を抱えた子どもがここにやってきます。あらかじめ背景を知らないで関わることもあり、全く『普通の子』と変わらないのですが、抱えた事情の深刻さを知った時に、そのギャップに息を呑むこともあります。また、そもそもこういう場所に来られない子もたくさんいるはずです。だからこそ、こんな風に遊んだり、時には泊まったりできる同じような場所が他にもたくさん増える必要性を強く感じます」

「すべての子どもに親戚のお家を」

WAKUWAKUホームでも宿泊対応は行われているものの、まだまだ潜在的なニーズと比較して足りないと感じている天野さん。
本当に緊急宿泊が必要な場合は、WAKUWAKUホームが一杯だった時にはホテルをとるなどの対応もおこなっている。
しかし同じくらい重要なのは、本当に「今夜、行き場のない」という状態になる「一歩手前」で行き場を用意することだと天野さんはいう。

天野敬子さん

「子どもがネグレクト傾向にあるお家は、家の中がぐちゃぐちゃでお料理や家事がされていないんですね。ただ、命の関わる虐待がおこなわれているわけではない。そういった場合、児童相談所は動いてくれません。
学校にはとりあえず通えていて、身体的・性的な加害を受けていない場合は保護の対象にならないんです。ただ、そういったぐちゃぐちゃの家の中だけにずっと留まって育つことは、長期的に考えた時に子どものためにならないのではないかと考えていますし、家庭の状況がさらに悪くなる可能性もあります。
だからもし、そういった子を保護者の許可を得た上でちょっと泊める、深刻な状況になるずっと手前で親子の距離を少しでも離す時間を作ることが出来たらいいのではないかと考えているんです」

必要なものはもっとカジュアルに、例えるなら近所の親戚の家のように、煮詰まった関係の時ちょっと預けることが出来る場所なのではないか。
「緊急宿泊」の一歩手前でもし対応できるなら、それが一番よい。そうした考えから、対象となる子どもがあらかじめ登録した近隣の家庭を宿泊場所として使うことができるようにするプロジェクトを計画中だ。

「大事なことは、すぐ近くに頼れる親戚の家があるような感覚です。たとえば近所に祖父母などがいれば、何か困ったことがあった時に頼むことができるわけですが、私たちが支援している多くのシングルマザーの方には、そういう存在がいない場合が多いのです。『自分が病気になったらどうしよう』と、切羽詰まった思いで生きている方がたくさんいらっしゃる。
もちろんWAKUWAKUホームがあいている場合は使って貰って、実際それで救われたといってくださる方もいるのですが、出来れば自分の家の近くに同じような場所があった方が嬉しいじゃないですか。子どもを連れた移動はすごく大変なので」

今回協働する東京アンブレラ基金では、今までWAKUWAKUホームだけでは対応しきれなかった緊急時宿泊のほか、この「緊急の一歩手前」にリーチするこの試みがスタートした折にも使わせていただく予定だ。

「地域の中で引退して比較的生活に余裕のある方のお家に繋がっていければと考えています。自分の孫みたいに『泊まりにおいて』『今日ご飯食べにおいて』や『お風呂入っていきなよ』でもいい、そういった日常的な何気ないサポートがすごく大事で、そんなことが自然におこなえるようになれば、子どもも安心して自立できる社会になるんじゃないかと思うのです」

地域に実際に住む人が中心となり、困っている人を地域で支えるための活動を広げていく豊島子どもWAKUWAKUネットワーク。
代表の栗林さんがいつも言う「目の前の子どもをほっとけないでしょ」という素朴な思いそのままに、目の前の課題をひとつひとつ解決するため、その傘を広げてきた。
そんな思いの傘が豊島区全体を覆うことになる日も、そう遠いことではないだろう。


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【編集協力】松島摩耶
【取材・執筆】 佐々木大志郎:つくろい東京ファンドにて広報&資金調達担当。東京アンブレラ基金事務局。そのほか複数のNPOやプロジェクトで広報やファンドレイジングを掛け持ち。

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