黑田依直/丘へ
星屑が記述する線の意味
光の傷が流れる意味
鳥の心が廃墟みたいに染まる世の
裏拍で聴く心音が、
筋繊維を月の文様に変える
そして、生後十ヶ月の僕が書いた紅い太陽は
現在も脳裏の雪を溶かしている
捧げながら、
崩落したと聞かされていた橋を飛び越える情動が月の血管を神さまみたいに切ることに至り、僕はあいまいで柔らかい手つきの少女のまぼろしを追って走っていた、世界から零れ落ちた言葉を集めながら、
星々は終身の息であると決めた世界の秩序を創造する老人はもういないから、きみは「祈りの廃墟の国」の底にある「翼の骨」を掘り出して、嘆きの高さで星座を創る、だから僕たちが触れる永遠はチェレンコフ光の靑で満ちている、その瞬間を見て、僕は泣いていた、泣きながら、熱が熱としてうつくしいままであるように祈っていた、街は静かに燃えている、だから走って、雪の速度で
でもさ、僕たちの街が燃えるなら、昔、鉄塔の下できみが僕の腕に刻んだ「靑く澄む失語」の傷は記憶として永遠になるから、きみがその時何を考えていたのか僕にも触れられるかもしれない、数少ない希望として、
花が花であるように祈り続ける千年の樹海は毒を溜め込んで、解毒されないまま鎮静している、僕は奥に、もっとも深いところに入り込んで愛になるまでを待つ、手の先から順番に身体が樹木に変わってしまっても(何も抱きとめられない)、夜の暗闇に呑まれても忘れない(レーテを拒否しているから)、
その速度で、その純粋さで一角獣の言葉を記すことがぼくの意味であり手紙であるとき、靑いインクが軋轢する現象
すぐに墜ちてしまう靑空を綺麗な小瓶に詰めて永遠にするように、そして、
きみが何かを喪うことは祈りじゃなくて、赦しでもないただのよろこびを欠いた唄だから、それを避けて 灰が灰であるように 夜が夜であるように
(Eternity touches eternity, like snow)
でも、
すべて偽の星座である
でも、僕たちの生の痕跡である
その高度の構造を、射抜く昏がりは存在しないから
永遠になる 灰になる 群青として
ハレルヤ、
白夜、
(星の光が褪せてゆく、海の波音も消えている、大地はない、空もない 、ここには雪しか降らない、)
そして、
永遠に触れた指先が呪われたように生から離れてゆく深夜、僕たちがまだ識らない色調の花々が「滅びの朝」という意味に変わって、街の聖者は「赦すこと」と「怒りの日」のあいだで震えている、彼は善意の隠喩の鳥の死骸を拾い、僕たちが知っている土地に埋葬する、
そして世界はリンボになる、同じ速度でアダムが笑う 崩れるところを見ていてほしい
だから、言葉の意味を呪わずに、祈りの清さの梯子を掛けて、
日が暮れる美しい土地の記憶を描いて、
歪に狂わない丘へ行こう
きみが河の向こうへ渡るとき、月光は澄んでゆくから
太陽の無い対岸で、眠りの底に沈むとき、
丘の頂上に天使の死が引きずられてゆく。
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