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続く『ワンダーエッグ・プライオリティ』12話までの感想

ワンダーエッグ・プライオリティが3月31日、一応の最終回を迎えた。一応と書いたのはまだ厳密にはこの作品は完結していないからで、6月29日に「ワンダーエッグ・プライオリティ 特別編」が放送されるからだ。

ワンエグの次クールのアニメ、いわゆる春アニメという作品が終わる頃の放送だが、本編完結後の後日談というストーリーではないと思う。なぜならこの作品は全12話であるが事実上11話しか制作されていないからだ。

生命が燃えてる

11話しか制作出来なかったという監督の言葉。
思えば8話が総集編。しかもメインヒロイン4人の担当回2週目の途中というあまりにも不自然なタイミングで挿入されていた。プロデューサーが過酷な現場の状況ツイートしてはいたが、私は「うわー制作現場は過酷なスケジュールの中頑張ってるんだなぁ」などと呑気に構えていた。しかし上記の若林監督のツイートを見て8話が総集編となったのは納品が間に合わなかった故の苦肉の策であったのだろうと考えるのは想像に難くない。6月の特別編が本来の最終回で、12話は11話と考えた方が良いだろう

納期が間に合わないという話で思い出すのは、今シン・エヴァンゲリオンが上映しているということもあってやはり『新世紀エヴァンゲリオン』最終2話と、言いたいところだが、実はあれは計算のうちだったという説もあるようで。
おそらく前例として適切なのは『メルヘン・メドヘン』というアニメだろう。2018年1月から放送していたが作画クオリティの担保のため、1、2話の再放送をするも間に合わせることが出来ず作品を10話で終了させ、約1年後の2019年4月に11、12話を放送し、無事完結となったのだ。

こんなに頑張ってたんだとしても、間に合わないのはダメと言い切るのは簡単だ。
しかしギリギリの状態の中、それでもクオリティの高い映像、作画(たしかに終盤ん?となる作画があったが、それでもこれまでの高クオリティから比較すればであり、作画崩壊というレベルまでではない)が作られていたのは事実であり、主題歌ユニットのアネモネリアの「anemos」の歌詞になぞらえ「生命が燃えてる」とまでプロデューサーが比喩したその熱意は無視出来るものではない。

なので作品そのものの最終的な評価は特別編まで一度委ねるとして、現状の12話までの思ったことをパッケージングしておこうと思いキーボードを叩く。

ファンタジー?→SF!?→ホラー!?

ワンエグを視聴している時これは所謂ファンタジーものだと思った人は少なくないはず。ワンダーエッグとは?ワンダーキラーとは?アカ、裏アカの正体とは?そこは比喩的な意味合いこそあるだろうがその正体は明かされることはないだろうし、その必要性も別に無いものだろうと思っていた。
しかし9話、青沼ねいるがデザイナーベイビーであり、彼女の親友で天才学者で臨死実験を繰り返し脳死状態となった少女阿波野 寿(あわの ことぶき)がワンダーエッグとして出てきたことがアカ、裏アカにより操作されたこと、しかもねいると寿が所属する頭脳集団、Jプラティのメンバーとアカ、裏アカが繋がっていることが判明した時、「え?これはファンタジーだと思ってたけどSFなの!?」という驚愕に包まれた。

そして11話。裏アカにより語られた事実。
アカと裏アカはれっきとした人間だった。Jプラティの創始者で常に監視の目があった2人は14歳の肉体を持つAIの少女、フリルを創造した。
感受性豊かに、本当に人間のように成長していくフリル。そんなフリルを娘のように可愛がるアカと裏アカ。
そんなアカに言い寄るあずさという女性がいた。彼女とアカは惹かれあい、結婚した。
しかしフリルはその女性を殺害した。アカは怒りからフリルを地下に監禁した。あずさは妊娠しており、彼女が残した女の子をひまりと名付けた。
しかし14歳にひまりが成長した時、彼女は自殺した。
裏アカは動機が全く思い浮かばないことからフリルが何かしらで追い込んだのではないかと考えたが、彼女は監禁されたままモニターやケーブルを監禁場所に引き込んでいた。まるで触手のように。

裏アカはフリルの肉体を焼却し、他の14歳の少女の自殺事件を調べた。環境苦だけではない、自殺に至るトリガー、"死の誘惑(タナトス)"があるのではないかと。エッグもフリルに対抗する為に開発し、死の誘惑と戦う為に生の衝動(エロス)の戦士としてアイたちを集めたと。

おそらくフリルが肉体を失った後も少女を自殺へいざなう死の誘惑そのものとしてどこかに残り続けているということなのだという見立てが出来る。

「面白いけど、いや面白いけど、思ってた話と違う!!」

ワンダーエッグ・プライオリティ、もしかしてSFホラーアニメだったのか?9話のえ!これSFか!?からの桃恵回を挟み、開示される情報に実況ツイートをしていた楠木ともりさんと矢野妃菜喜さんが困惑していたのは面白かった。

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いや、サイコホラーって。

そして12話、アイのエッグから生まれたのはなんと9話でも可能性が示唆された並行世界の小糸と出会わなかった世界のアイ、そしてそれを襲うワンダーキラーは並行世界のアイの担任、沢木先生だった。「ラストは小糸ちゃんがエッグで出て来て沢木先生がワンダーキラーとして出てくるんじゃないの~?」という大本命をすり抜け、まさかのチョイスだった。
アイは並行世界のアイに語る。自分は大幸せだと。12話かけてアイの成長を観てきた自分はそれだけで一つの満足感を得られるほど。
アイはワンダーキラー沢木を打倒す。直後フリルの使いの化け物が襲い掛かる。並行世界のアイがアイをかばい意識が現実に戻る。
アイは「ありがとう……」と呟き12話は終わる。

え?え?

ワンエグは地上波放送が深夜1時半ごろなのだがスタートに先んじて配信サイトでは24時に配信スタートしており、いつもそこで視聴していたのだが特別篇の情報は地上波放送が終了してからの告知であり、先行で観た視聴者はテレビシリーズのエヴァの最終回でも観た時のような、何も解決してないし、投げっぱなしじゃねえか、いやでもアイの成長という意味では完結してるしな…という是非が非常に言語化しづらい感情に90分近く囚われていた。いわゆるオチがダメだったなというアニメはたくさんあるが、このアニメにはオチがついていないというか、生殺しというか、どうすんだよ……というグルグルとした空気が約90分Twitterに溢れていたことは残しておきたい。
私は朝起きて特別篇のことをしった。

4人の少女達

しかし、何度も書いているがキャラクターの表情の作りこみや作画は凄まじいものがあり、12話かけて紡がれた4人のキャラクターはとても魅力的だ。私は特にアイ、桃恵が好きで、8話の総集編で他の3人に比べれば普通とアカ・裏アカに評された桃恵は10話で男だと間違われゲイのフォロワーに告白され、ワンダーエッグから心は男性、体は女性の少女が出てくるというかなり考えさせられる展開。物語の真実より恋バナが優先される少女。

アイは6話で母親から沢木先生が付き合おうと思っていると持ち掛けられ絶句し、それは小糸ちゃんのことがあるからではなく、アイも沢木先生が好きなんじゃないの?とねいるから指摘され、自分の気持ちがぐちゃぐちゃになって視聴者すら「え?これはどういうことなの?」とぐちゃぐちゃな気持ちになるという、わざとハッキリさせずにやってるんじゃないか?とすら思える展開。

10話では沢木先生が個展で大人になったアイの絵を描き、お母さんのように素敵な女性になるよと言う展開は、大人になったら穢れる、美しいものを美しいままで終わらせようというアイを自殺へ導き最終話で出てきた並行世界のワンダキラー沢木を考えると対比が美しい。好きな女性の娘をキレイになるよというのは果たして良いのかと思わなくもないが。

しかし10話で桃恵はワンダーアニマルが殺され、死に恐怖し眠れなくなり、11話ではリカのワンダーアニマルが殺され復讐するという憎しみに囚われてしまった。タナトスに立ち向かうエロスの戦士は怒りや恐怖心からではなく、純粋な生の衝動として立ち向かわなくてはフリルには勝てないとアカ・裏アカは語る。しかし12話では冒頭でケンカ別れしてしまった状態になっており、す、救いをくれ……はやく6月になってくれ……となっている。OPの4人が4人ともお互いを認知していない状態なのが、ケンカ別れをして無視しているみたいになっててめちゃくちゃ辛い。

色々あるけど?

以前書いたnoteに「このアニメがどういう結末を迎えるのか、まだ5話時点では分からない。おそらく大傑作となるか、はたまた……な評価をくだされてしまうか、その両極端な気はする。」と書いた。
あと1話残っているが、これはどういうアニメなんだ!?とファンタジーなの?SFなの?ホラーなのか?と上で書いたが、12話まで通して観るとぼかされていた点もいろいろ明かされ、「こういうことなのね」と納得する点も多い。それでもキャラの心情は視聴者の想像に委ねている部分も多く、良い意味で考察したくなる噛めば噛むほど味わいが生まれるアニメだった。

キャストに釣られてというのがそもそもの動機だったという話をすれば、斉藤朱夏さん:川井リカはバチっとはまったというかこんなにハマる役はそうそういないんじゃないかと思う。アイ役の相川奏多さんは声の低さがアイに合っていて、ほぼデビュー作で並行世界の自分まで演じるのは壮絶すぎるし、今後も色々なところで声を聴くことになりそうだ。楠木ともりさんと矢野妃菜喜さんも前期の虹ヶ咲のキャラたちとは真逆なトーンで彼女たちの幅の深さも感じた。

ワンエグは次回予告がなく毎週「いや~次はどうなる!?」と毎週数少ない情報にドキドキさせられていた。特に6話、7話、9話、10話の「来週どうなる!?」のリアルタイムでしか味わえないはあの感覚はとても楽しく、そのことを考えるとこの結末が6月の特別編に委ねられているこの現状、不躾ながらとても美味しい気がする。

12話まででアイの成長という面では一応完了しているがそれでも特別編、やるべきことが多すぎる。だが「色々あるけど大丈夫」とEDで歌う彼女たちを信じ、6月の4人の少女たちの結末を見届けたい。


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