やっちゃんがいる世界はすばらしい。
今日は世界自閉症啓発デーだった。
あなたには自閉症の友達がいますか?
わたしにはいました。
小学校4年生の時です。
やっちゃんというその友達は、わたしが当時住んでいた同じ社宅に住んでいました。
わたしが仙台から東京に戻ってきたばかりのころ、やっちゃんはわたしの家に勝手に上がり込んできて、お菓子を食べてしまう。
そんな突然やってくる男の子のことを最初わたしは怖いと思っていました。
何かちょっと違う。
彼は話をしない。
わたしの方を見ない。
どうやらやっちゃんは私たち家族が住む前にこの部屋に暮らしていた人たちに可愛がられていたようで、なので、やっちゃんにとっては、彼らが引っ越してしまっても、うちに来ておやつを食べることは当たり前のことのよう。
やっちゃんは本当はわたしよりひとつ年上だったけれど、4年1組の仲間だった。
担任の佐藤先生は、やっちゃんが小学校に入る時に学校が入学を認めるかどうかで迷った時に、「ぼくが1年から6年まで責任をもってみるから」と啖呵を切って、やっちゃんの入学を認めてもらったそう。
だからやっちゃんはずっと佐藤先生といっしょ。
やっちゃんは紙をちょきちょき切るのが好き。
はさみがやっちゃんの友達。
やっちゃんの机にはいつも、ちょきちょき切る用の紙がちゃんと用意されていて、そして、は・さ・み という文字を書く練習をしたり、は・さ・みと言う練習をしてみたり。
うまくできると、はさみでちょきちょきすることができるので、やっちゃんもがんばることができた。
クラスにはやっちゃん当番というのがあって、いつもみんな何気にその当番がまわってくるのを楽しみに待っている。
やっちゃんはいつの間にか教室を抜け出して、校庭をひとり走っていたり、職員室に行って、そこで紙をちょきちょき。
だからやっちゃん当番は、仕方がないな、と自分たちも教室を出てやっちゃんを迎えに行く。
実は、授業中に堂々と教室を出ていけるので、わたしたちはこっそり嬉しい。
やっちゃんの手にはたこがある。
怒ると自分の手を噛む癖がある。
わたしたちはそれをやめさせるのに一生懸命。
やっちゃんのことが好きだらか、やっちゃんが痛い思いをしてほしくない。
でもやっちゃんはどうしたらいいかわからなくなると、自分の手の甲を噛んでしまう。
やっちゃんは自転車に乗るのが好き。
いつも風のように自転車に乗る。
わたしたちはやっちゃんと遊ぶのが好きだから、放課後も遊びに誘いにいくことがよくあった。
そして、公園に連れ出す。
ある日やっちゃんが見慣れぬ自転車に嬉しそうに乗っている。
あ。。。しまった。。。とわたしたちは思う。
誰かよそのひとの自転車に乗ってしまっていたのだ。
悪い予感がした通り、「あいつ変じゃね?」と隣の学校のこどもたち、自転車の主人に言われてしまう。
そして事もあろうにわたしたちは気が動転して言ってしまう、「そうだよ、変だよ」。
だから?それがどうした?と言わんばかりの応戦をしたけれど、内心早速悔やんでいた。
ほんとはそうじゃない、やっちゃんを変だなんて言いたかったわけじゃない。
やっちゃんが他の人の自転車に乗らないように見守ってあげられなかった自分たちにがっかりしていただけ。そんな風にとっさに言ってしまったことが情けなかっただけ。早くその状況から立ち去りたかっただけ。
やっちゃんは、本当は「変じゃない」。
うまく伝えてあげられなくて、ごめんね、やっちゃん。
わたしたちはスキップするやっちゃんといっしょに、誰も何も言わずにとぼとぼと帰る。
ある日やっちゃんがわたしの後頭部に顔をくっつけてきた時があった。
一瞬のこと。
ちょっとびっくり。
ちょっとどっきり。
だって、やっちゃんはわたしたちとは目をなかなかあわさないから。
お話しないから。
いっしょにいるようだけれどいっしょにいないような時があるから。
それなのに、、何かを伝えたかったんだな〜〜〜〜と思うと不思議な嬉しい気持ち。
ありがとう、やっちゃん。
やっちゃんがいると、慌てるようなことも、びっくりするようなこともあるけれど、わたしたちはみんな自分たちのクラスが好きだった。
ちょっといばった男の子も、生意気な女の子も、いろんな子がいたけれど、やっちゃんがいてくれたおかげで、わたしたちはみんな優しい気持ちを授かることができたから。
そんな自分たちのクラスのことをこっそり誇りに思っていたから。
その後わたしは転校してしまってそれっきり。。。
やっちゃんとは会っていない。
風のようなやっちゃんは、まるで社会の中に消えてしまったようだけれど、本当はそうじゃないね。
やっちゃん、今、どうしているかな。
やっちゃんがいる世界はすばらしい。