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【ゲーム感想文】『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』~限界に挑んだ志高き●作~


評価:★★★☆☆

先日、Nintendo Switch『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』をクリアーしました。
本作は名作と名高いアドベンチャーゲーム(ADV)シリーズのなんと35年ぶりの完全新作であり、敢えて『ファミコン』の名を冠したレトロな世界観を継承しながらも、グラフィックや演出は最新クオリティという、ちょっと変わったゲームです。

前二作『消えた後継者』と『うしろに立つ少女』はオリジナルこそファミコンのディスクシステムのゲームですが、『うしろに立つ少女』はスーパーファミコンで、そして両作ともにSwitchでフルリメイクされ、自分はそのリメイク版をプレイしました。
ゲーム自体は昔ながらのコマンド式ADVで、物語の舞台も昭和の時代なのですが、どちらも名作と呼ばれるに相応しい作品で、なればこそ完全新作となる『笑み男』には発表当時から期待していました。
そして絶対にネタバレを喰らわないようにと、最後まで一気に遊び通したのですが……非常に困った事に、今作『笑み男』は一本の推理ADVとしては「駄作」としか呼べない出来栄えでした。

ところが更に困った事に、自分が本作を「駄作」と評価する理由を省みればみるほど、どうしようもない理由が見えてきてしまうんですよね。
間違いなく制作陣は酷評される事を承知の上でこのゲームを世に送り出しており、プレイヤーが不満を覚えるのを承知の上で制作陣が描きたかったものを描いたとしか思えない。
それを好意的に受け止めるなら本作は駄作などではなく、刺激的で挑戦的なゲームとして称賛されるでしょうが、逆に否定的に捉えれば日和った駄作と貶されても仕方がないと思います。
またシリーズの世界観を踏襲したコマンド式ADVという「形」が、令和の今になっては色々と限界を迎えており、ストレスの溜まる一面もある事から、本作の評価は星3の「汎作」としました。

でも俺自身はこのゲームに関して、リスペクトしかないんじゃよ!!
よくぞやってくれた任天堂!!




コマンド式ADVの限界が露呈したゲーム進行

さて本作『笑み男』は昔の推理ADVゲームの定番である、コマンド式のADVです。無数のコマンドを手あたり次第、或いは推理しながら選択することで物語が進んでいきます。
ちなみに「手あたり次第」と書いたのは、よほどこのゲームに慣れている人以外はフラグが立つまでコマンドを総当たりして「当たり」を積み重ねていく事でゲームが進行するスタイルだからです。
もちろん難易度自体はさほど高くないですし、「まぁこれだろう」と思うものを選んで行けば大丈夫なので、前作・前々作に比べれば作業感も減って進めやすくなっていたように思います。

とは言え、よほどこの手の推理ADVゲームが好きな人でない限りは、楽しい作業ではないですし、時にはくだらないギャグややり取りを積み重ねながら、やっと本筋の話が進む仕様には苛立ちを覚えても仕方ないかなと。
なぜコマンド式のADVがこんな仕様になっているのかと言うと、昔はゲーム自体の表現の幅がずっと狭くて、くだらないギャグややり取りもこの手のゲームの楽しみの一つだったからです。
プレイヤーが探偵となって事件を捜査していく、というシチュエーションを味わう為に積み重ねた工夫や演出の集合体が、本作『笑み男』が採用しているコマンド式のADVだったんですね。

但しそれはファミコン時代までの話で、それからどんどんゲームは表現豊かになり、今ではフル3Dの箱庭世界と実写さながらのグラフィックで描かれる推理ADVは珍しくないですし、コマンド式推理ADV自体も『ダンガンロンパ』や『逆転裁判』と言った名作によってゲームシステムごと進化していきました。

映画やドラマを意識したカットシーンや演出も入るのだけど……

『笑み男』でも細かなアニメーションで動くキャラクターや、ダイナミックで臨場感あふれる演出が取り入れられていますが、基本は昔ながらの総当たり式コマンドADVなので、前述した作品に比べるとテンポが悪いし、如何にも作業的で「やらされている」感が強い。
もちろんそれは名作と称された『ファミコン探偵倶楽部』の世界観を引き継ぐために、敢えて古臭い「形」を採用している――とは思うのだけど、ではその「形」に懐古趣味以上の意味はあるのか? とは思ってしまうんですよね。

かつては数少ない表現の中でもそれを感じさせないようにと生まれた演出や工夫の結晶が、技術の発展に伴い逆に表現や遊びの幅を狭めてしまっていると感じてしまう事。それこそがコマンド式ADVの限界なのではないか? とも思うのですね。



【ネタバレ有】やってはいけないことをやってしまった『笑み男』

ここからはネタバレ有なので、それを喰らっても平気だと言う人以外はこの先の記事を読まないでくださいね?
直接的な名前やあらすじこそ避けていますが、仕様的なネタバレにはガンガン言及しているので悪しからず。










では、ここから書きますよ?

自分が『笑み男』を駄作だと評したのは、前述したコマンド式ADVの限界やその仕様が理由ではありません。本作は推理ADVとして絶対にやってはいけない事を敢えてやってしまったからです。

それは何かというと、推理ものにおける最も美味しい謎——事件の真相や真犯人を暴くこと――をプレイヤーに解かせようとしなかったから。
もちろん推理物が好きな人なら、真相が描かれるよりも前に謎を解いていたのかもしれませんが、ここで言う「謎解き」というのはゲームプレイを通してプレイヤーに開示される情報や物語のことであり、本作『笑み男』はそこに至るまでに、いきなり出てきた真犯人がベラベラと真相を語り、プレイヤーが何もしない内に物語は勝手に終わります。

更にプレイヤーが本当に知りたかった謎については、本編終了後に介抱される追加パートにて、プレイヤーの推理も選択もほぼ存在しないままに、誰かの語りとアニメーションによって一方的に開示されるという仕様。
何だか打ち切りの漫画やアニメみたいだ……と思った方もいると思いますが、では制作的な事情で尺が足りなかったとか、駆け足になってしまったかと問われると、恐らくそれはないだろうと思います。
何故なら、物語の本編はダルく感じられるくらいに長く、しかも「それカットしても何の問題も無くない?」と感じるパートがやたらと多いから。
それらを省けばプレイヤーが自分の手で真相に辿り着く展開は充分に入るでしょうし、わざわざ視点を切り替える手法を取り入れているので、普通に考えれば「尺や容量やスケジュールが足りなくてこうなった」とはとても考えられません。
そもそも天下の任天堂がそんな作品を、過去の名シリーズの名を冠して世に出すか? という疑問も当然のように湧きます。

つまりこれは、敢えてそのような仕様にしたと考える方が妥当ですし、本作のプロデューサーへのインタビューを読んでも、やはりこの仕様は意図的だったんたろうなと思います。



【ネタバレ有】やりやがったな任天堂ッ!!


では推理ADVとしての禁忌に触れてまで、このゲームを制作した人達が表現したかったものは何だったのか。
それは敢えてプレイヤーが暴けなかった「真相」で明らかになります。

一言で言えばそれは「政治的正しさ」への、任天堂からの異議申し立てでした。
もっと具体的に言うと、任天堂のゲームを「安心安全」とブランド化したがる繊細な人達や先入観への強烈な腹パン。
年齢制限やゲーム本編とは敢えて分離させた上で注意書きまで添えるという建前を重ねた上で開示される「真相」。
これがもう「正しくない」のなんのって!

特に理由は語られない、漢字の少ない真犯人のことば。
繊細な人達が泡を吹きかねない、容赦ない胸糞描写。
勧善懲悪が娯楽ではなく精神安定剤になっている人達に真っ向から砂をかける、悪の誕生悲話。
「理解できない」と嘯きながら、共感と感情移入の手練手管を費やした語り口etc……

ここからは完全に自分の憶測になりますが、「笑み男」という存在を描くために最大の障害となったのは、『任天堂』のブランドイメージとそれを良しとする繊細な人達が多い世論だったと思います。
もし本編の真相をプレイヤーが自分で暴き立てていくスタイルであれば、そのドギツイ内容に「傷つく」人達の声は無視できなかったでしょうし、任天堂のパブリックイメージにも影響を及ぼしたかもしれません。そのくらい「正しくない」描写のオンパレードなんですわ。

だからこそ「笑み男」を世に送り出すためには、真相をゲーム本編と切り離し、丁寧な建前を重ねる必要があったのではないか。その結果、ゲームとしての出来栄えに影響を及ぼしたとしても「笑み男」を世に送り出したかったのではないか――自分はそう感じましたね。






総評「だから気に入った」


というわけで、自分の評価としては本作『笑み男』は間違いなく駄作です。やってはいけない事をやってしまっているのだから当然です。
一方で、そうまでして表現したかったものがこの『笑み男』だと言われれば、岸部露伴みたいにナアナアナアナア愚痴ったあとで「だから気に入った」と満面の笑みを浮かべるしかない。
これはそんなゲームであり、そんなゲームを世に送り出してくれた本作の製作者や任天堂に対してはリスペクトしかないんですわ。

でも、あの寒いギャグはもう少し減らしても良くない?


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