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ひとり出版社1年目日記⑰ 作った本をどう売っていく?

2024年3月にできた出版社 Studio K。「年内に1冊、木下晃希さんの画集「KOKI ZOO」を出版することを目指します」と公言して、自分にプレッシャーをかけてきたのがよかったのか、12月1日、無事に刊行しました。

でも、ほっとできるのは束の間。作った本は売らなければなりません。ところが、じつは私、「ものを売る」ということをしたことがないのです。学生時代のアルバイトは家庭教師や塾の講師、働くようになってからは翻訳者、ライター、フォトグラファー。商品を売るために依頼を受けて文章を書いたり、写真を撮ったりすることはありましたが、あくまでも受注があっての仕事。

というわけで、今日は、刊行後どういう売り方をしてきたのか、いまどういうところでひっかかっているのかを書いておきたいと思います。


物流と決済はトランスビューさんに代行を依頼

書店さんへの物流と決済は基本的にトランスビューさんに依頼しています。出版社でもあるトランスビューさんは、書店から注文を受けた本を直取引で納品するシステムを、他の出版社も利用できるようにしています。利用させてもらう出版社は、そこで発生するコストを分担して負担します。

取次のように自動配本はなく、書店から注文があった分だけ、納品します。
トランスビューさんのしくみについては『まっ直ぐに本を売る: ラディカルな出版「直取引」の方法』という本に詳しく書かれているので、興味のある方はぜひ。

いつか小さな出版社を立ち上げようと考えている人。すでに小さな出版社を興す準備をしている人。これらを、漠然と思い描いている人。本書は、そうした人たちに向けて書いたものである。新刊書籍を扱う書店を開きたい人、すでに出版業や書店業に携わっていて、流通・販売の現状に課題があると考える人にも参考にしてほしい。近年、「出版不況」という言葉が盛んに流布されている。それでも、本をつくる人、本を売る人が、世の中からいなくなる気配はない。その情熱を下支えする「方法」を伝える。これが、本書の目標だ。


石橋毅史著『まっ直ぐに本を売る:ラディカルな出版「直取引」の方法』「はじめに」より

トランスビューさんでは、書店さんへのFAX DM送信、郵送DM発送などもしてもらえます。書店さんはFAXあるいはBOOK CELLAR経由で発注、トランスビューさんが発送してくれます。Amazonや楽天ブックスなどのオンライン書店にも対応しています。

DM発送から受注、発送、決済まで、書店さんとのやりとりの基幹部分をお任せできるのは、たいへん助かります。費用はかかりますが、FAXを送る、自分で倉庫を手配する、梱包材を準備する、発送する、請求書を発行する、決済の管理をする……などが自分でできるかといわれれば、少なくとも私には無理。

費用については、『まっ直ぐに本を売る:ラディカルな出版「直取引」の方法』に具体的に書かれています(当時より少し高くなっています)。

原画展での販売は好調

原画展での販売は、これまで2回行いました。第1回は、2024年11月7日(木)から12月15日(日)、作家の地元の神戸、fruit cafe Saita! Saita!さんで。ここで本の先行販売をしました。

第2回は、2025 年1月12日(日)から19日(日)、新宿の本づくりハウスさんで。ここでは、本づくり協会さんのご協力で、木下晃希さんの絵を表紙にしたオリジナルノートが作れる製本ワークショップ(トップ画像は使用した製本道具など)、手製本の様子がわかるパネル展示なども実施、「もの」「プロダクト」さらには「工芸品」としての本の魅力もアピールしました。

どちらも大変好評で、本の売れ行きも実際によかったです。やはり、直接届けられるのは強い!と痛感しました。

余談ですが、東京の展示では、キャッシュレス決済に対応するため、Squareターミナルも導入しました。これから、文芸イベントなどにもどんどんチャレンジしていきたいと思っています。

一方、書店では……

一方、発売から1ヶ月が経ち、書店さんからの注文は一段落したように思われてきました(トランスビューさんから毎日、注文内容の報告があります)。

本が発売になり「木下晃希さんの画集が出た!欲しい!」と思ってくださった方には、だいたいお求めいただいたのかもしれません。

先輩出版社さんに話を聞いて、書店営業(!)なるものもしてみましたが、なかなか難しいなと感じています。

ある書店で「これは木下晃希さんを知っている人、ファンの人が買う本ですよね」と言われたことがあります。

おっしゃるとおりだと思います。書店では、「芸術」分野に入り、しかも手製本だけに保護のためOPP袋に入っています。通りかかって、「これ面白そう」と手に取って、レジまで持っていく方は少ないでしょう。

中のページを全部見ることができるYouTube動画のQRコードを袋の外につけていますが、そこまで手をかけてくださる方が、どれだけいらっしゃるか?(でも、東京の展示で、そうやって買ってくださった方にお目にかかり、感激しました)

書評などに取り上げてもらえることにわずかな望みをかけて、新聞社やアート系の雑誌社、一部テレビ局には本を送りました。得意ではないSNS発信もなんとか途絶えないようにしつつ、いま、いろいろ悩み中です。

「特定多数」に届けるということ

悩んでいる途中で『ゆっくり、いそげ カフェからはじめる人を手段化しない経済』(影山知明著、大和書房)という本に出会いました。

著者は最近、この本から思想をさらに発展・深化させた『大きなシステムと小さなファンタジー』という本を発表していて、これも面白かったのですが、いまの私には前作の方が直接的に響きました。

『ゆっくり、いそげ』で著者は、「不特定多数」ではなく、「特定少数」でもない、「特定多数」を対象として、経営を成り立たせることを説いています。

著者が経営する西国分寺のクルミドコーヒーでは、1キロ3000円の国産クルミを使用しています。よくある考え方では、それでは1キロ1000円の輸入クルミより不利。でも、「同じ土俵に立たず」「お金だけではない価値」を届けるには?

私の本づくりについても、同じことがいえると思いました。原画展での試みでうまくいったことが、ヒントになりそうな気がしています。

それに、すぐに読まれなければ意味がない本ではありません。時間を経ても愛されて、そこでまた価値が生まれるかもしれません。『ゆっくり、いそげ』の意味を噛み締めています。

いま、考えているのは、書店さんで言われたように「木下晃希さんのことを知っている人が本を買う」のではなく、「この本をきっかけに木下晃希さんのことを知ってもらう」流れを作れないか、ということです。

そんなこんなで試行錯誤は続きそうです。これからも話を聞いていただければうれしいです!


あ、ここでも一応……全ページが見られる動画はこちらです!


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