見出し画像

【12月読書記録】川端康成 みずうみ

寒い。
朝の底冷えがとにかく辛くなってきました。冬のほうが生きやすいので、「冬期うつ」という言葉とは無縁と思っていたけれど、今年の冬は、いつもよりも寒い気がしています。登山にも行きたいけれど、どうしても早起きがつらくて、言い訳をしては行けていません。

ピン、と冷え冷えと張りつめた空気の中で読みたくなるのは、私にとっては川端康成で、暖房も入れずに、部屋の中で(寒い寒い)と思いながら厚着をして読んだのが短編『みずうみ』でした。

主人公は、美しい女を見ると後をつけてしまう癖のある桃井銀平という男。銀平は教職者という身でありながら教え子・久子と恋愛関係になり、職を追われることとなる。久子と銀平の恋愛を密告したのは、久子の親友・恩田であった。失職してもなお、美しいもの、若いものに対する執着は消えず、他の女のあとをつけていく…というお話。

「先生は不潔です。」と恩田はぷつりと言った。
「君こそ不潔だ。人から秘密を打あけられて、その秘密をほかへもらすほど、不潔なことはないじゃないか。君のはらわたのなかを、なめくじか、さそりか、むかでが這っているのか。」

『みずうみ』より

小説の中で語られる出来事は、事実と幻想(銀平の幻覚のような思い出)が混ざっており、行きつ戻りつしています。
銀平が蛍狩りの日にあとをつけた少女、町枝のベルトに、蛍の入った籠を引っかけて帰る場面は、なんともいえないダサい気持ち悪さを感じますし、町江が恋人と蛍を見に来ていることと対比すると、銀平の哀しさがもっと引き立つでしょう。

少女のあの黒い目は愛にうるんでかがやいていたのかと、銀平は気がついた。とつぜんのおどろきに頭がしびれて、少女の目が黒いみずうみのように思えて来た。その清らかな目のなかで泳ぎたい、その黒いみずうみに裸で泳ぎたいという奇妙な憧憬と絶望とを銀平はいっしょに感じた。銀平はしょんぼり歩いて行ったが、やがて土手にのぼると、若草の上に寝ころんで空を見た。

『みずうみ』より

この本を読むにあたっては、巻末の角田光代さんの解説にかなり助けられました。

ここで銀平は、みにくさから逃げる必要もなく、うつくしさを、若さを、追いかける必要もない。無意識と死の予感に苦しめられることもない。ここでは銀平は、此岸に引き上げられている。

『みずうみ』解説

話は大きく変わってしまいますが、今年はnoteを書くより読むことのほうが多い1年間でした。自分のなかで消化できなかったり、あるいは発散したり、まとめたりすることができず…な日々が多かったです。簡単にいうとパワーが出なかった!これにつきます。

来年はもうちょっと記事を書いたり、公募に出せたらいいなぁ。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集