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誰も電話に出んわ、はもうやめよう  ~電話の取り方テクニック~

オフィスに鳴り響く外線。
「お電話ありがとうございます、株式会社○○、上田でございます」自分が話しはじめると、もう一本。同僚がPCから目を離さずに素早く受話器に手を伸ばし、真顔のまま応対をはじめる。
さらに続けてコール音が響き、5コール待っても誰も取らないからか定年再雇用のベテランが「大変お待たせしました」と電話に出る。うちのフロアのよくある光景です。

このフロアには大体20人くらいが働いていて、上は64歳から下は23歳までいるんですが、ずっと気になっていたことがあったんです。それは、電話に出る人間の偏り。
何人もいる20代が積極的に電話を取ろうとしない。

直属の部下というわけではないので過度に指導しないようにしてきましたが、つい気になって先日、彼らに聞いてみました。どうして電話を取らないのか、手が伸びないのか。

答えで多かったのは「不安だから」、「まだ仕事が分からないから」「電話が苦手なので」……といったところでした。中には「自分は性格悪いんで電話出たらトラブルになると思うんですけどいいんですか?」と答える剛毅な人もいましたが……。

最後のはさておき、それ以外の思いは仕事を続けていればいずれ慣れていくものですが、電話が取れない人にとっては「今」困っていることですよね。

私も電話がキライでした(今でもやや苦手意識があります)。ただ、いくら苦手といっても若いうちは上司に電話番をさせるわけにはいきません。ですから、自分なりに対策を講じてなんとか切り抜けてきました。
その結果気づいたのは、「電話は慣れの部分もあるけど、準備とテクニックが8割」というものです。
これから皆さんに、「こうしたらどうでしょう」というヒントをお伝えできればと思います。今日は、今からでも業務に活かせて効果を実感していただける「電話の受け方・繋ぎ方」です。


対策1 事前準備に勝るものなし


そもそも皆さんは「電話の受け方」について研修を受けたことがありますか?ビジネスマナー講習の一環で説明を受けたという方が多いかもしれませんが、誰に教えられることもなく先輩の見よう見まねで、という方も多いと思います。

「『もしもし』は×」、「外線に応対する際は同僚を『さん』付けで呼ばない」など、基本的なルールとされているものはよく耳にしますが、そもそも電話に出る前の準備について習った、という方はあまり多くないのではないでしょうか。

取引先に伺う場合、または営業に来た会社の話を聞く場合のように、外部の人と会う場合にみなさんならどんな用意をして臨みますか?
名刺…そうですね。筆記用具…必要ですよね。話し合いの記録を残すためのメモ…プレゼン用の資料…どれも大事なものです。
でもこれらを使うのって、面と向かって会う場合だけでしょうか。

そうです、電話だって、外線への応対は社外の人に会うのと同じこと。
しかも大抵の場合は「予告なく」「誰なのか、何の用事か分からない状態で」「即座に」対応を求められるものですから、何の準備もせず外線に出ていたらそりゃ上手くいきませんし、上手くいかないとますます緊張したり嫌な気分になったりと悪循環です。

私もはじめのうちは電話に出るだけで相手がいきなり怒ったらどうしよう、知らないことを訊かれたらどうしよう、そんな色んな不安がぐるぐる渦巻いて、ワァ~っとなっていました。

そこで、このままでは自分がキツい!と気づき、どうにかしてもっと気楽に、自信を持って、淡々と電話に応答する手段はないかと考えた結果が、電話をテンプレ化することです。

よく考えると、会社に掛かってくる電話って、内容の幅が狭いんですよ。
「いや、そんなことはない、うちは総合商社だからお客様から色んなお問い合わせをいただく」という方、ちょっと待ってください。その「色んな」お問い合わせの前の段階です。

膨大な種類の問い合わせは、おそらく担当する部署ごと、内容ごとに振り分けられて回答することになるでしょう。つまり電話を受ける最初の段階では「○○について訊きたい」という【質問】に集約されます。
【質問】の他に掛かってくる電話といえば、「○○さんいますか?」という【繋ぎ】、大きく分けるとこの2つのどちらかです。どちらにせよ、自分が分かる(担当している)ことならそのまま回答し、そうでないなら適切な相手にトスすることになります。

たった2つなら、大体の流れはあらかじめイメージできますよね。
できればなんとなく頭に浮かぶだけでなく、実際にWordなどのテキストエディタに、典型的な流れを想定して書き出してみましょう。
というのも、多くの人は話すとき、その内容を無意識のうちに頭に浮かべてから発声しているからです。そのため、話す内容をきっちりイメージできないと、「言いたいことはあるのだけれど」「なんとなく考えてはいるんだけど」言葉にできない、ということになってしまいます。

例:
「お待たせしました、株式会社○○、△△部の上田が承ります」
「お世話になっております、□□株式会社の▲▲と申しますが、竹本部長はいらっしゃいますか?」
→「竹本ですね、ただいまお繋ぎ致します」
→「竹本ですね、申し訳ございません、あいにく午後から外出しておりまして戻りは16時頃になる予定です」

⇒「そうですか、ではまたお電話します」
「恐れ入ります。▲▲様からお電話があった旨、お伝えします」

⇒「竹本さん戻ったら連絡を頂けますか」
「かしこまりました。念のためご連絡先を伺ってもよろしいでしょうか」

この作業をしていると、流れを書き出すうちに「この状況ならどうしよう」「こう言われたらどう返そう?」と疑問が沸いてくることがあります。相手が脈絡もなく騒ぎ出したら、とか深追いしすぎるのは考え物ですが、浮かんでくるシチュエーションへの回答を想定しておくと安心感や自信に繋がるのでお勧めです。

私は仕事上、法令に違反しかねないクライアントに対して注意勧告を行うことがありますが、伝えづらいデリケートなことや相手に不利益のあることは今でも事前に会話の流れや想定問答をシミュレーションしています。
こうすることで事前に「話の持っていき方に無理があるから別の切り口で攻めよう」とか「こう返されたらマズいから資料を揃えておこう」とか、効果的に準備を進めることができるのです。


対策2 「ただのメモ」が侮れない理由


皆さん電話を受けるときはメモを取ってますよね。このメモですが、どんなものを使ってますか?ポストイット?市販のメモパッド?チラシの裏……は無いかもしれませんが廃棄予定の古紙の裏面をメモに再利用している会社はあるかもしれませんね。

このメモですが、ほぼすべての会社員が携わった経験があるにも関わらず、人によって書き方はてんでバラバラ。
この人のメモは分かりやすい!というものもあれば、これでどうしろっての?というもの、下手をすると何が何だか分からないものも……。

私が経験したものだと強烈だったのは「上田 様 14:30 TELあり 詳細不明。おじいさん?だいぶ怒ってました」というもの。

いや、それで私にどうしろと…。そもそも誰から?と聞き返しても「あー、一方的に喋ってガチャン!だったので」とのこと。身に覚えがなかったので最近やりとりしていたクライアントのうち年嵩の人にカンを付けて恐る恐るTELしてみたもののすべて空振りで、一体何だったんだと頭を抱えました。

結局このとき電話を掛けてきた方は36歳の男性でした。思わずずっこけましたが、風邪で喉の調子が悪かったことが年配と勘違いされた原因かもしれません。さらに、特にお叱りの電話ではなかったので、最初に電話を受けた人に確認したところ、ボソボソ話されて内容を聞き取れなかったため自分が怒られている気分になったかもしれないとのことでした。

この事例からも分かるとおり、メモをするうえで大事なのは、メモを貰った人が「電話の目的が分かる」「何をすればいいか分かる」こと。そして「事実だけを書き、印象や推測は書かない」ことです。

でも「焦っている様子」「怒ってました」という電話を受けた人間にしか感じられない情報があれば、こちらから連絡を入れるときに気構えができていいのでは?という考え方もあるかもしれません。

本当にそうでしょうか。電話に出た人が感じたマイナスの印象はあくまでもその人の感覚的なもので、事実とイコールではありません。
先に紹介した私の経験のように、風邪で声がおかしくなっていたり、単に声が低かったり、場違いにボリュームが大きい方を「怒っている」と捉えてしまっているだけかもしれない。

それに、苦情を目的として電話をかける人は、果たして誰とも知れぬ相手が電話に出た瞬間に怒り出すものでしょうか。むしろ最初はフラットに入り、相手の非が明らかになった瞬間に激発する方が多い気がします。

そう考えると、電話を受けたときに感じた「感情的には問題ない」という印象が誤った情報として担当者に届いてしまうかも知れません。繰り返しますが大事なのは「客観的な事実」です。

ではメモはどのように残したらいいか。難しいことはありません。予め書くことを決めておけばいいんです。
市販のメモ帳には予めガイドラインが記入済みのものもありますし、色や形も様々なものがありますから、自分好みのものを選ぶのも楽しいでしょう。ただ、そんなことをしなくても、次のように書き込んで電話機やデスクマットの下にでも貼っておけばいいのです。

①いつ 
②誰から 
③誰に 
④内容 
⑤折り返し(TEL)・伝言(内容)・また電話します

この5項目こそが、最低限聞いておくべきことです。これを電話を受けたとき目の届く位置に置いておき、順番に穴埋めする要領で訊いていけば漏れなく重複なく確認するとができるでしょう。

とはいえ、「さあこれで大丈夫!」とはなりませんよね、分かってます。そもそもこの程度の内容はインターネットでちょっと検索すればいくらでも出てくる内容と大差ありませんからね。

電話を不安に思うシチュエーション、「相手の名前を聞き返すのが怖い」「自分の担当外の話を一方的にまくし立ててくる」「相手が早口すぎて何を言っているか分からない──」大丈夫、すべて対策がありますから、一問一答形式でお答えします。


対策3 シチュエーション別、これでバッチリQ&A


Q1:
相手がドスの利いた声の男性だと、名前を聞き返したら怒られるんじゃないかとビビってしまいます。

A1:
気持ちは分かります。珍しい名前の人もたくさんいらっしゃいますし、ダミ声の人やボソボソ話す人だと困ってしまいますよね。怖そうな相手でなくても、何回も聞き返すのはためらわれる気持ちも分かります。

そんなとき使えるテクニックを紹介しましょう。
ズバリ、あえて聞き返さず、電話の最後に「恐れ入りますが、もう一度お名前を伺ってもよろしいでしょうか」と付け加える、というものです。

名前を聞き返される、というのは電話をかけた側からすれば、自分の目的とは何の関係もないわけです。そのため、最初の段階で聞き返されると「そんなことはどうでもいいだろう」とイライラさせてしまう結果に繋がります。例え名前が分からなくてもまずは相手の「目的」を聞き取り、最後に「念のため確認」のつもりで付け加えれば、相手にとっても答えやすくなります。

それでも聞き取れなかったときはどうするか。
完全に何を言ってるか分からない場合は仕方ありませんが、
「タカダだと思うけどタケダかもしれない」
「シナガワかイナガワか分からない」
「マツダかもしれないしマスダかもしれない」という風な、
『ハッキリしない』、ケースも多いと思います。
この場合はいっそ、
「タカダ様、高い低いの高いに田んぼでよろしいですか?」と訊いてしまうのも手です。
「タカダじゃなくてタケダです」と否定されてしまうかもしれませんが、それなら名前が確定しますからしめたもの。最悪なのは「タカダ様ですか、タケダ様ですか?」と尋ねたら、「タ○ダです」と肝心の文字が聞き取れないことですから。

また、用件の最後に「復唱致します」と宣言し、誰宛に何の用事だったかを繰り返したうえで申し訳なさそうに「お名前をもう一度伺ってもよろしいですか?」と付け加えれば、内容はバッチリ伝わっていることが分かりますから向こうも安心してお話ししてくれます。

そもそも聞き取りづらい名前、間違いやすい名前はだいたい決まってますから、電話の主も聞き返されるのは初めてではないことが多いんです。
こっちとしては申し訳ないと思っていても向こうにとっては「いつものこと」の可能性もありますから、必要以上に恐れる必要はないでしょう。

Q2:
相手がよく分からないことを一方的にまくし立ててきて名前や用件を聞くタイミングが分からない。

A2:
経験上、年配の方や障害をお持ちの方に多いパターンですね。
芯を食ってない話を延々と続けられて、聞いてるこっちが参ってしまうということも。さりとて会社員として電話を受けている以上ガチャンと切ってしまうこともできない……。

こうなったら、相手が満足するまで相づちを打ちながら聞き役に徹するしかありません。
相手が言いたいことを話し尽くして声が止まったタイミングで、
「今のお話ですと○○が担当と思われますからお繋ぎします」と答えればいいのです。

中には、「あなたはどう思いますか?」「どうすればいいですか?」と意見や説明を求められることもあるでしょう。
これはこれで会話が止まるタイミングですから、
「恐れ入りますが私ではお答えできかねますので、担当へお繋ぎします」と電話を打ち切るチャンスです。

「担当じゃなくあなたの考えを聞きたい」となおも粘る場合もあり得なくは無いですが、ここで安易に自分の意見を披露するのはおすすめしません。
担当者の考えと異なっていた場合に、
「組織内で意思統一ができていない」
「最初に電話に出た○○さんはこう言っていた」
と隙を与えてしまう恐れがあるためです。

やはり何を言われても、
「自分にはよく分かりませんから担当から回答します」
「組織としての回答をお示しするため、個人的な意見を申し述べることは致しかねます」
とはっきりNOを伝えましょう。

Q3:
相手が早口すぎて何を言っているか分からない。

A3:
他にも、声質の問題から聞き取れない、モゴモゴ喋るせいで聞き取れない、外国の方がつたない日本語で話している、方言やイントネーションの違いからも何を言っているか聞き取りづらいなんてこともありがちです。

もちろん聞き取れた単語から前後の流れを予測できれば一番いいのですが、難しい場合もあろうかと思います。
そんなとき使える聞き直しテクニックとしては、
「電話の調子が悪いようで雑音が入ってしまって…」
というものがあります。

機械のせいにしてしまえば「どうも途切れ途切れになっているようですからゆっくりお話しください」ということもお願いしやすいですし、
「お声が掠れてしまっていますので……」と言い訳もしやすくなります。
これをきちんと聞き取れるまで続ければいいわけです。

それでもどうにもならない場合は最後の手段として、
「こちらから折り返しましょうか?」という手段も使えます。それまでにいくらかでも「相手が誰なのか」、「用件は何なのか」が聞き取れていれば、担当者に繋いでしまえばあなたの仕事はひとまずそこまでです。


Q4:
自分は口下手で、緊張して上手くしゃべれないんですがどうしたらいいでしょうか。

A4:
まず誤解を解いておきたいんですが、電話の対応で口が上手い必要は一切ありません。

なぜなら電話対応は当意即妙が求められるものではなく、決まりきったテンプレートをこなすだけで済むからです。
などと言ってみても、苦手意識はなかなか消えないかもしれませんね。緊張してしまう、という人に「緊張しなくていいんですよ」と声をかけても意味が無いように。
ですからいくつかのテクニックと考え方を紹介させてください。

まず、ビジネス電話で使われる言い回しは完全に暗記してしまうか、いつでも参照できるように控えておくのがおすすめです。このnoteにもカッコ書きでいくつか挙げていますが、これらはシチュエーション別にそのまま使えるものばかりです。

「恐れ入りますが」「申し伝えます」「お名前を頂戴できますか」「○○が戻り次第折り返させます」等、最初は自分の口から出る言葉ではないように感じられるかもしれませんが、ビジネス電話に求められるのは失礼のない無難なやりとりであり、あなたの個性や人間性ではありませんから、どうかお気になさらず。

また、声の出し方に悩んでいる方。巷の本では「半オクターブ高い声は感じが良く聞こえる」というアドバイスを目にすることが多いのですが、特に拘わる必要はありません。
声が高くても逆にキャンキャン耳障りということもありますし、逆に低く落ち着く声というものもあります。

大事なのは声の高さではなく、相手が聞き取りやすいかどうかです。具体的には自分の手をまっすぐ前に伸ばした指先の位置に座っている相手に話しかけるように、ということを心がけていただくといいと思います。経験則になりますが、このくらいが声のハリと聞き取りやすさのバランスが一番優れていると思います。

最後にひとつ。
仮に上手く聞き取れなかったり担当者への繋ぎ方が上手くいかずお叱りを受けても、それはあなたの責任ではありません。というよりも、責任の取りようがないんです。

もちろん雑な仕事はいけませんが、電話は一期一会。失敗したら反省して次に活かせばいいだけです。電話は反復業務であり、やればやるほど上達する一方、不安に駆られて受話器に手を伸ばさないうちは決して成長しません。

一方で誰よりも早く電話を取ってくれる人は事務所内で一目置かれますし、黙示の感謝を集めているものです。これはあなたが困ったときに援助を得やすくなったり、有形無形のベネフィットを得られることになるでしょう。



次回はこれも苦手な人が多いであろう電話営業についてお話する予定ですが、別のトピックになるかもしれません。いずれにせよ、電話が嫌で困っている人の助けになりますように。

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