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一期一会

地図が好き。ぼーっと眺めながら、ここはどんなところだろうと想像するのが好き。

カナダに来て初めての夏、最東端のニューファウンドランド島に行った。この州の正式名称はニューファウンドランド・ラブラドール(新しく発見された(土地)・ラブラドールという意味)でラブラドール犬発祥の地だそう。

地図を見ていてなんとなく惹かれて、色々と調べ出したら興味が湧いた。

あのタイタニック号が衝突したアイスバーグと言われる氷の塊が漂流していたり、地球最古とも言われる地層、それ以降の色々な年代の地層が一緒くたになっているという。なんとも不思議な場所のような気がしてきた。

美味しい魚介があるであろうことも大きな魅力だった。

いつもの旅のスタイルは、事前にある程度の情報を調べつつも、きっちり計画は立てず、その時々の気分と地元の人におすすめを聞きながら廻るもの。でもこの島はとても広い。

面積は北海道の1.3倍。そして私が行ってみたいところは東と北と西の端にある。そんな訳で、車で一日に移動できる距離を考えながら、宿泊地を決めて、東の空港に飛んで、西の空港から帰るという少々無理をした1週間の計画を立てた。

アイスバーグはこの島の場合、ほとんどのものがグリーランドの西側から来ているらしい。流氷と同じでしょ、と何人もに言われたのだが、違う。アイスバーグは、地面の上に長い年月をかけて堆積した氷河が、徐々に外に押し出されていって、最後海に落ちて漂流しているものである。だから海水ではなく淡水でできている。そして、その歳月たるや、1万5千年ほどというから途方もない。

アイスバーグビールとかアイスバーグの氷を使った商品をたくさん見かけた。そんな昔の水を口にするなんてロマンがある。

そのアイスバーグだが、季節がある。五月の終わりから七月初めくらいがシーズン。でも毎年見られるというわけではない。何せ海を漂ってくるのだから。

そんなわけで、アイスバーグが見られそうな場所まで行くことにはしたが、運を天に任せた。

Twillingateというその町に着いて話を聞いたら、みんな口々に今年はアイスバーグがすごく少ないから見られないよと言う。

結構な距離を走った後だったので、ガッカリしたけれど仕方がない。その近くで旬のロブスターをたらふく頂き次の目的地に向かうことにした。


丁度漁が解禁になっていたロブスター

でもやっぱり諦めきれない。調べてみたら、Twitterで数日前にアイスバーグを見たという投稿を発見した。写真も何もなくて、ハッシュタグに町の名前らしきものがあるだけ。Fleur de Lysとある。百合の花という意味だ。半信半疑だった。

でも、行ってみることにした。そこは350km先。これでだめならご縁がなかったと思おうと。途中から海岸線も見えなくて、ここはどこ?というような何もない内陸の一本道をひた走ること4時間。

何の標識も出ていないが、いつの間にか集落のようなところに出た。その一本道沿いに、消防署があって、シャッターにきりりとした青と黄色の百合のロゴが描かれていた。ようやく、着いたんだと思った。平家の家々の裏庭には、家庭菜園があり、洗濯物が風にたなびいている。

とにかく分岐もないその道に導かれるまま。坂を下がったり上がったりしていたら、突然、少し高いところに出て、海が一瞬視界の端に入った。

その瞬間、青く透き通った光と異様な存在感を放つ物体が見えた気がした。それが何なのか脳の処理が追いつかなかった。

心臓の鼓動が速くなった。

その道をまた下って、そうしたら湾に出た。一本道がそこで終わっていた。

確かにそこに氷の塊があった。透明ではないのに透明感がある。

湾に面したオフィスの玄関ポーチに女性が一人座って、頬杖をついて眺めている。

心臓が高鳴る。

入江にぽっかりと二つ。凹凸の凹の形とソフトクリームの最後のくるんとした先っぽのような二つが仲良く並んでいる。

すごく大きい。建物にすると10階建てくらい?ボートで近づいた人が豆粒に見えた。巨大な物体がこんな入江にどうやって入ってきたのだろう。

未だにその時の気持ちはうまく表現できない。写真を何枚も撮ったけれど、撮った先から、全然だめだと思った。その圧倒的な存在感とエネルギーが写真では全く伝わらない。人間の感覚はすごい。

アイスバーグが海面から覗かせているのは全体のたった10%だそうだ。きっと、人はその見えない部分のエネルギーも感じているんだろうなと思う。

人間の意識と無意識の割合も同じ。自分のことは10%しか分かっていない。それよりも少ないかも。だから気持ちが表現できないこともよしとする。

これだけは言える。一期一会のご縁に感謝。

アイスバーグよ、写真には何故にこんなに可愛らしく収まってしまうの

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入江の斜面と比べるとその巨大さがと異様さが分かる
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人々の生活の中に溶け込む不思議な光景
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手前のボートが豆粒のよう












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Luly
愛の循環に大切に使わせて頂きます💞いつもどうもありがとうございます!