見出し画像

プラットフォームエンジニアリングが拓く開発者中心の世界#1【徹底解説篇:後篇】

みなさんこんにちは、@ultaroです!

シリーズ「プラットフォームエンジニアリングが拓く開発者中心の世界」、第1回の後篇になります。まだの方はぜひ先に【徹底解説篇:前篇】をお読みください!

さて、前篇ではプラットフォームエンジニアリングがどのように開発者体験を向上させ、組織全体にとって重要な役割を果たすかをご紹介しました。後篇では少し視点を変えて、他の概念との比較や、組織文化の在り方に関わる解説を加えていきます。


SREとの違いは?

プラットフォームエンジニアリングとSRE(Site Reliability Engineering)。似ているようで実は大きく異なるこの二つの概念。「え?違うの?」と思った方も多いのではないでしょうか。この二つの違いを通じて、プラットフォームエンジニアリングをより深く理解していきたいと思います。

まずはSREについて簡単におさらいしましょう。SREはGoogleが提唱した概念で、システムの信頼性を向上させるための手法です。主な特徴は以下の通りです。

  • システムの安定性と信頼性に焦点を当てる

  • エラーバジェットの概念を導入し、リスクを定量化

  • インシデント対応の効率化を図る

  • モニタリングとアラートの最適化

  • トイル(繰り返し行われる手作業)をなくすことを重視

つまり、SREは「いかにシステムを落とさないか」と「トイルをなくすこと」を主眼に置いて改善していく手法です。

一方で、プラットフォームエンジニアリングは草の根的に発生した概念で、「開発者の生産性を最大化すること」に主眼を置いています。この違いをざっと表にまとめてみます。

SREの主な目的はシステムの信頼性を高めることで、システムの安定性を維持することを通じて達成されます。一方、プラットフォームエンジニアリングの大きな特徴は、「能動的に攻めのプロダクト開発」に関わることです。つまり、新しい機能や改善を積極的に提案し、開発者の生産性を継続的に向上させ、開発スピードを加速することを目指します。SREもシステムの改善活動を行いますが、それは主にシステムの信頼性を高めるためのものであり、プラットフォームエンジニアリングのように直接的に開発プロセスの効率化を目指すものではありません。

とはいえ、プラットフォームエンジニアリングとSREは対立する概念ではありません。むしろ、相互に補完し合う関係にあると言えます。例えば、プラットフォームエンジニアリングによって開発速度が向上すれば、SREの負担が増える可能性があります。逆に、SREによってシステムの信頼性が向上すれば、開発者はより安心してイノベーションに取り組めるようになります。

成功のカギとなる組織文化

プラットフォームエンジニアリングの成功は、技術的な取り組みだけでは実現できません。実は、組織文化の醸成が非常に重要なポイントです。どんなに素晴らしいプラットフォームを作っても、それを活用する文化がなければ意味がありませんし、逆もまた然りです。ここでは、特に重要な要素をいくつか挙げてみます。

オープンなコミュニケーション

まず欠かせないのが、透明性のある情報共有です。チーム間の壁を取り払い、オープンに意見交換できる環境があれば、プラットフォームの改善や活用がスムーズに進みます。特に開発者からのフィードバックを積極的に受け入れる姿勢が重要です。

継続的学習を奨励する文化

技術の進化は速いので、組織全体が学び続ける姿勢を持つことが大切です。社内勉強会や技術トレーニングを定期的に実施することで、チーム全体のスキルアップを促す環境を作りましょう。

失敗を恐れない挑戦の精神

新しい技術や手法を試す中で、失敗することは避けられません。重要なのは、その失敗から何を学び、どう活かすかです。これを前向きに捉える文化があれば、チーム全体のチャレンジ精神が高まり、結果的にイノベーションが促進されます。

クロスファンクショナルな協力体制

開発チームやインフラチーム、さらにはビジネス側とも密に連携することが、効果的なプラットフォーム構築には欠かせません。異なる専門性を持つメンバーが協力することで、より包括的で実践的な解決策が生まれます。

エンパワーメントとフィードバックの循環

開発者が主体的に行動できるよう、適切な権限を与えることも重要です。また、プラットフォームの改善には、ユーザー(開発者)からのフィードバックが欠かせません。これを反映し続けることで、より使いやすい環境を提供できます。

これらの取り組みは、一朝一夕で実現できるものではありません。小さな成功体験を積み重ね、それを組織全体に広げていくプロセスが大切です。技術と文化の両輪が噛み合うことで、プラットフォームエンジニアリングの真の価値が発揮されるのです。最高のプラットフォームを構築しても、それを活用する文化がなければ意味がありません。逆に、素晴らしい文化があっても、それを支える技術基盤がなければ、理想と現実のギャップに苦しむことになりかねません。

プラットフォームエンジニアリングの導入を検討する際は、技術面での準備と並行して、こうした組織文化の醸成にも十分な注意を払うことが、真の意味でのデジタルトランスフォーメーションを実現する鍵になるんです。

現場での実践例

ある企業で進行中の取り組みをご紹介します。この企業では、従来からインフラチームが運用や管理を担い、開発チームはそのインフラに依存する形でプロジェクトを進めていました。直接的な不満の声は上がっていなかったものの、第三者から見ると、リソースの調達や環境設定に時間をとられ、インフラチームに負荷が集中しすぎている場面が見られました。これが、開発スピードや効率を妨げている要因と判断し、プラットフォームエンジニアリングの導入が検討されることになりました。

最初のステップとして、既存の組織構造を大きく変更するのではなく、インフラチームの一部を再編し、プラットフォームチームとしての役割を徐々に担わせる形で進めることにしました。その過程で、「チームトポロジー」に登場する4つのチームとその役割についても理解を深めました。この新しいプラットフォームチームは、まず開発チームにとって情報が散在していて探しづらい状態を解消し、チーム相互の情報にアクセスしやすくするために「開発者ポータル」の立ち上げに取り組むことを決めました。

このポータルは、現時点では開発者が必要な情報やリソースに簡単にアクセスできるようにすることを目的としています。下の図のように情報やリソース・ツールをまとめた開発者ポータルをハブとして、プラットフォームチームと開発チーム、さらには開発チーム同士が、お互いの情報を参照するためのハードルが下がり、コラボレーションしやすくなる世界観をイメージしているんです。

プラットフォームエンジニアリングの成功には技術だけでなく、チームの在り方の見直しや組織文化の変革が不可欠です。まだまだ道半ばですが、まずは小さな成功体験を積み重ねながら次のステップにつなげていくアプローチを通じて、最終的には開発チーム全体の効率化と生産性向上を実現することを目指しています。取り組みが軌道に乗った暁には、改めて得られた効果などについて紹介しますね。

まとめ

プラットフォームエンジニアリングは、単なる技術的な施策にとどまらず、開発者体験を向上させ、組織全体の生産性と競争力を高めるための包括的なアプローチです。今回ご紹介した実践例のように、初めは小さな取り組みからスタートし、チーム内での認識を深めながら、段階的に展開していくことが成功への鍵です。技術だけでなく、チーム間の信頼関係や組織文化の変革を伴う点が重要なのです。

前篇と後篇とで、プラットフォームエンジニアリングの徹底解説をしてきましたが、ぜひ下の3点だけでも持ち帰っていただければ嬉しいです!

この記事を通じて、プラットフォームエンジニアリングがどのように開発者や組織全体に価値をもたらすのか、その一端をお伝えできたなら幸いです。これから導入を検討する方々の参考になれば嬉しいですし、ぜひご自身の組織でも「開発者を中心に据えた基盤作り」に挑戦してみてください。

真の内製化を自社に取り戻す、未来のプラットフォームを一緒に作っていきましょう!


ちなみに、ウルシステムズではプラットフォームエンジニアリングサービスという支援メニューを立ち上げました。下記をご参照のうえ、ご興味あれば、ぜひご一報ください。