プラットフォームエンジニアリングが拓く開発者中心の世界#1【徹底解説篇:前篇】
みなさんこんにちは、@ultaroです!
シリーズ「プラットフォームエンジニアリングが拓く開発者中心の世界」と題し、プラットフォームエンジニアリングと関連テーマについて、数回にわたり紹介や解説をしていきたいと思います。今回はその第1回です!
さて、「プラットフォームエンジニアリング」という言葉、最近いろんなところで耳にする機会が増えていませんか? アプリケーション開発におけるアジリティと品質の両立が求められる中で、クラウド利用やDevOps導入だけではカバーしきれない領域を埋めるアプローチとして注目を集めています。
ガートナーのハイプサイクルでもプラットフォームエンジニアリングは新たな注目領域として位置づけられています。ガートナーによると、「プラットフォームエンジニアリングは、2026年までにグローバル2000企業の80%に採用される」と予測されています。また、書籍「チームトポロジー」ではプラットフォームチームを含む4つのチームの考え方と役割が紹介されていて、プラットフォームチームは「ストリームアラインドチーム(開発チーム)が最大限のパワーを出せるように、プラットフォーム/基盤を整備し続けるチーム」として定義されています。
日本でも内製化を進める企業が増えてきており、私たちウルシステムズにも支援の相談が年々増え続けています。この記事では、そんな内製化の推進に役立つプラットフォームエンジニアリングの概要から具体例まで、わかりやすく解説していきます!第1回は前篇と後篇に分けていますので、ぜひ後篇までお読みくださいね。
プラットフォームエンジニアリングとは
プラットフォームエンジニアリングとは何でしょうか? 一言で言えば、開発者がもっと効率よく、そして安心して開発に集中できる環境を提供することにフォーカスした取り組みです。ポイントは、「単にプラットフォームを構築すること」ではなく、「開発者の体験を第一に考えたサービスを提供すること」にあります。
技術が進化して便利になった一方で、開発者はコーディングのことだけを考えれば良いわけではなく、クラウドやコンテナといったインフラに近いレイヤーを扱わなければならないケースが増えています。ベテラン開発者であっても、本来のビジネスロジックを理解しつつ、さまざまな技術要素も扱う必要があり、負担が大きくなっています。そこで、開発者が本来の開発に集中できるようなセルフサービス型のインフラやツールの整備が重要になってきました。プラットフォームエンジニアリングは従来のインフラ構築やDevOpsの延長線上ではありません。企業および開発者が内製化を主導するための強力なツールであり、ただの技術的な支援を超えて、組織全体にイノベーションをもたらす戦略的なアプローチです!
主な特徴と開発者へのメリットをいくつか挙げると…
セルフサービス機能
開発者が運用チームやインフラチームなど他のエンジニアに依存せず、必要なリソースや機能をオンデマンドで利用できます。クラウドリソースの自動プロビジョニングや、CI/CDパイプラインの標準テンプレートなどがこれにあたります。セルフサービスポータルを通じて、開発者が自分で必要な環境を構築したり、安全にデプロイを行ったりできるので、開発者は環境構築やリソース調達の待ち時間を削減し、本来の開発作業に集中できます。
自動化
繰り返し行われるタスクをスクリプト化して効率化します。たとえば、インフラの管理や、アプリケーションデプロイ、セキュリティチェックなどを自動化することで、作業ミスを減らし、一貫性を保つことができます。開発者はルーチンワークから解放され、より創造的な作業に時間を割くことができます。
標準化されたツールとプロセス
開発に関わるすべてのチームが共通して使用する一連のツールや作業のプロセスを統一します。これにより、学習コストの低減だけでなく、チーム間の効率的なコラボレーションが可能になります。また、トラブルシューティングが容易になり、開発、運用、セキュリティチームなど、チームを跨いだやり取りも効率的に行えるようになります。これはDevSecOps文化の醸成にも寄与します。
開発者ファーストのアプローチ
直感的に使いやすいインターフェースや、分かりやすいドキュメントの提供など、開発者にとってストレスの少ない環境を目指します。これにより、開発者は新しい技術やアイデアにチャレンジする余裕が生まれます。
プラットフォームを製品として捉える
プラットフォームを「単なる内部ツール」ではなく、「開発者向けのプロダクト」として設計・運用します。これには、開発者満足度・開発者体験(Developer Experience)を重視することや、定期的なアップデート、そして信頼性の確保が含まれます。社内の開発者に対し、SaaSとしてプラットフォームを提供するイメージです。開発者は高品質なサービスを受けられ、生産性が向上します。
継続的な改善とフィードバックループ
プラットフォームは製品ということで、「作って終わり」ではありません。利用者である開発者からのフィードバックを基に、常に改善を続けることが求められます。これは開発者体験を向上させるだけでなく、プラットフォームの利用率を高め、より多くの価値を生み出すことにつながります。内部顧客(開発者)の満足度や効率性向上にコミットするのがプラットフォームエンジニアリングのミッションです。
どのような価値をもたらすのか
これらの特徴を踏まえると、プラットフォームエンジニアリングは単なるツールやソリューションの実装のような技術的な仕組み作りの枠を超え、組織全体の生産性向上や、VUCAの時代において競合他社に立ち向かうための競争力強化に寄与する取り組みと言えます。先に述べたように、ただの技術的な支援を超えて、組織全体にイノベーションをもたらす戦略的なアプローチなのです。技術と戦略を融合し、開発者を中心に据えたアプローチを進めることで、組織全体に大きな価値を提供するのです。
プラットフォームエンジニアリングが開発者にもたらす最大のメリットは、「本来の開発に専念できる環境を提供すること」です。普段、開発者が直面している開発以外の作業負担や手間を減らすことで、効率アップとストレス軽減を実現します。
開発者が「作業」ではなく「創造」に集中できる時間が増えるのもポイントです。開発者は開発に集中し「プロダクト」の機能を創造する責務を担うのが本来の姿ですよね。複雑な環境構築や設定に時間を割かなくて済むようになれば、新しいアイデアや技術にチャレンジする余裕が生まれます。その結果、より多くの価値を生み出すことが可能になります。
日本のIT業界でよく言われる「2025年の崖」問題の解決にも一役買えます。古いシステムや不足する人材の課題に対して、プラットフォームエンジニアリングが提供する標準化された基盤が非常に効果的です。たとえば、複雑なレガシーシステムを整理して(それが大変なんだという声が聞こえてきそうですが…)、標準化された基盤に移行することで管理しやすくします。自動化やセルフサービス機能を駆使すれば、限られた人材でも効率よくシステムを運用できるし、新しい技術にも柔軟に対応できるようになります。「整理しつつ効率化して、未来に備える」のです。
ただし、統一された環境が「柔軟性を損なう」という懸念もありますよね。環境の統一化によって創造性が阻害されてしまっては元も子もありません。柔軟性と統一化のバランスを取ることが難しいところですが、プラットフォームエンジニアリングでは「適度な自由度」を残しながら、効率的な環境を整備するバランスが重要です。このバランス、つまり環境の統一化と柔軟性の両立を適切に保つことが、開発者体験の向上につながります。エンジニアの満足度が高まり、離職率の低下にも寄与するため、長期的に組織の成長を支える重要な要素となるのです。
後篇へ続く
ここまでで、プラットフォームエンジニアリングがどのように開発者体験を向上させ、組織全体にとって重要な役割を果たすかをご紹介しました。後篇では『SREとの違い』や、プラットフォームエンジニアリングを実現するうえで鍵となる『組織文化』の重要性について、さらに深掘りしていきます。
ウルシステムズではプラットフォームエンジニアリングサービスという支援メニューを立ち上げました。下記をご参照のうえ、ご興味あれば、ぜひご一報ください。