第22夜 ラジオからの声
一昨日(2021年10月7日)の地震で被害にあわれた方には、お見舞いを申し上げる。
第5.5夜で「今後どこかで」と書いていた話を取り上げたい。
2011年12月に、仕事の関係で仙台を訪れた。初冬の駅前は、震災後数カ月にもかかわらず、道に少しヒビがあるくらいでほとんど通常に戻っていたように見えた。しかし、仙台空港のある海岸は、ただっぴろい更地にところどころ車や墓石が積み上げられている荒野だった。
企業訪問と、丘の上の神社、打ち上げられた漂流物を展示してある体育館などをめぐり、取材して写真におさめた。そのときにあちこち連れて回ってくれたタクシーの運転手が、最後に空港へ向かう途中にこんな話をしてくれた。
【ラジオからの声】
今日は一日ありがとうございました。これからラジオを止めますが、それには訳があります。
空港に行く道は何本かあるんですけど、この道が一番早いんです。けれども、途中に高架をくぐるトンネルがありまして、ここが地面よりも少し低くなっています。ここで震災の時に多くの車、トラックが水没し犠牲者が出ました。
あの地震以来このトンネルに入るときにラジオを付けていると、声が混じるんです。苦しそうな。
お客さんはほとんど気づかれませんが、私達、一日中点けっぱなしでしょう。だから、人の声が入ったらわかっちゃうんです。
もしかしたら、津波で亡くなったあいつの声じゃないか、なんてね。それが嫌で、止めさせていただくんですよ。
震災にまつわる話は多い。阪神大震災のときもいくつも聞いたが、東日本大震災については、学問の形でまとめた書籍が多数編まれた。人の心に残された傷が癒えるのに、微力ながらも怪異が寄り添っているのだと感じた。
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