行動主義の系譜 - ヴント、パブロフ、ソーンダイク、ワトソン、ハル、トルーマン、そして B.F.スキナー
行動主義には、1.要素主義 →2.行動主義 →3.新行動主義 →4.徹底的行動主義という批判的発展の流れがあります。
1.「要素主義」(elementalism) ー ヴント
ドイツのヴント(Wundt、1832-1920)は、1879年に世界初の心理学実験室を開設しました。彼の理論は精神・肉体の二元論で、観察手法は個人が自分の精神の内面を観察するという手法(=内観、禅の内観法・吉本以信の内観療法とは別ものです)によるもので、要素主義と呼ばれました。
心理学の哲学からの分離を果たしたヴントの貢献は偉大ですが、「人の”意識”は客観性に欠けるもの。それより、外から観察可能な”行動”を分析しよう」という行動主義の旗手が...
2.「行動主義」(behaviorism) - ワトソン
米国心理学者のワトソン(J.B.Watson、1878-1958)です。彼は、その昔、帝政ロシアのパブロフ(Ivan Pavlov)が行った犬の実験(ベルの音で犬がよだれを流すという、有名なあれ)にヒントを得て、刺激(Stimulate)と反応(Response)のつながりに注目する「S-R理論」を提唱しました。
要素主義に疑問を持っていた当時の学者たちにとって、行動主義は新たな拠り所となったわけですが、ワトソンは「私に10人の子供を預けてくれたなら10人とも望み通りの職業に育てて見せよう!」と豪語するような極端なキャラだったので…(そんなことされてたまるか、て思うよね)
3「新行動主義」(neo-behaviorism) - ハル、トルーマン
それは環境要因を重視しすぎだよ!学習意欲とか個人差とかも考えようよ、と、人間の目に見えない認知要因を媒介変数=Oとして説明しようとした流れが、新行動主義と呼ばれます。
このグループには何人かの学者がいますが、キャリコン試験で新行動主義の学者として良く出題されるのは、人間の感情や心の動きをモデル化しようと試みたイェール大学の心理学者のハルと、カリフォルニア大学バークレー校のトルーマンです。トルーマンは、パールズのゲシュタルト療法と親和性の高い「サイン・ゲシュタルト説」を提唱したことで知られています。
余談ながら、トルーマンは自分の著書に「ネズミにこの本を捧げる」と書いたくらいネズミ大好きだったみたいです。下にまとめていますが、その大好きなネズミを使った実験で名を残したのだから幸せな人ですね!
※ S-O-R理論はハル、あるいはトルーマンによるものとする解説もあるが、O=有機体(Organism)をS-Rの間にはさんだ数式そのものを最初に提唱したのはウッドワース(Robert. S. Woodworth 1869–1962)という心理学者。ソーンダイクとも共同研究をしていた学者のようだが、キャリコン試験でその名を見たことはない。言われてみれば、刺激と反応の再現性を追求する行動主義は、ソーンダイクの理念「すべて存在する物は量的に存在する。量的に存在する物はそれを測定することができる」に通じる。
しかし!!!そんな新行動主義に対して…
4「徹底的行動主義」(radical-behaviorism) - スキナー
「認知や感情は随伴性の結果。確かに個体差はあるが、有機体”O”を媒介変数にするのは仮説演繹的だ。あくまでS-Rで説明していこう。」と言ったのが、スキナー。「”自由意志”なんていうものは幻想だ。人の行動は、過去の行動結果に依存する」だって。ラディカルですね!
スキナーはそれまでの行動諸理論を体系だて、生体の自発的な行動に報酬・嫌悪刺激を与えてその頻度をコントロールする「オペラント条件づけ」(Operant conditioning / Instrumental conditioning)と、パブロフの犬のように先行刺激を与えて生体の条件行動を促す「レスポンデント条件付け(=古典的条件付け」(Respondent conditioning / Classical conditioning / Pavlovian conditioning)とを整理しました。
※LECのキャリコン養成講座の教科書には「レスポンデント条件付け」「オペラント条件付け」「S-R理論」「S-O-R理論」がざくっとまとめられすぎていてていて講義でも混同がみられたのだが、割と肝心なところなので、是非改善してほしい。教科書には英語も乗ってないけど、S=Stimulate=刺激、R=Response=反応ときたら、O=Operation?レスポンデント=S-R、オペラント=S-O-Rって思うじゃん?でも、O=Organism=有機体。レスポンデントもオペラントもどちらもS-R理論。S-O-Rはスキナーが棄却した。
…つまり、オペラント条件付けとS-O-R理論は別物なのです。自分で学者マップを作ってようやく理解できた行動主義の系譜。養成学校の教え方が悪いからだと思いますが、キャリコン系blogでもここらの混乱が散見されて理解に時間がかかりました。
ちなみに、スキナーは「世に最も影響を及ぼした心理学者」の栄光の第一位です。彼の理論は、今、わたしたちが当前のようにその恩恵に浴しているCBTやWBTなどのコンピュータ学習の発達にも関係しているんですよ。
さらに、以前紹介したバンデューラの社会的学習理論やクルンボルツのプランド・ハップンスタンス理論も、オペラント条件付けの応用。パールズのゲシュタルト療法やウォルピの系統的脱感作法なんかも、まさに、オペラント条件付けに着目した行動療法なのです。
「心理学では理論の曖昧さを残した方がよい」という論陣もあるようですが、スキナーは再現性のない人の心理や個性そのものを否定したわけではありません。SOR理論に反対したのは「それを行動理論の媒介変数としたらブラックボックスになってしまって、もう理論と言えないでしょう」という指摘なのです。そういう厳密さこそが理論を汎用的なものにするんですよね、というわけで、いきなり個人的な趣味になりますが、気難しそうな顔しているスキナーが好きです。
5 動物を使った実験一覧
以上、流れ整理優先で、行動主義の学者さんたちを駆け足で紹介しました。最後に、彼らの有名な実験をまとめてご紹介します。
▽クリックで拡大できるよ▽
こうして並べると「アルバート坊やに白ネズミをみせながら金槌で大きな音を鳴らし中したら、白ネズミをみただけで坊やがおびえるようになった」というワトソンの設定の鬼畜さが際立ちますね!(なんと、その実験動画がYoutubeにあった)
それから、スキナーが行った「スキナー箱」の実験は、ソーンダイクの実験生体を猫からネズミにかえただけのようですが、その目的は19世紀の試行錯誤学習の実験 vs. 20世紀の行動理論の体系化ということで進化しています。やはり、先人の知恵の積み重ねがあっての理論の進化なんですね。
6 巨人の肩の上に立つ
最後に(完全に余談ですが)、私が好きな言葉を紹介します。”Stand on the shoulders of giants”、もともとはラテン語のことわざですが、私は Google Scholer の標語として知りました。「わたしたちは、先人たちの積み重ねた発見に基づいてこそ、新たな何かを発見できる。」という考え。
Giantsというのは複数ですが、私のイメージの中では、いつも、それはとびきり背の高い一人の巨人です。その肩に立てば、凄く遠くまでが見渡せる。きっと、気持ちよい風が吹いている。
最近は脳科学の分野で、見えない人の心を解き明かすアプローチが進んできているようですが、それに真剣に取り組んだ昔の天才たちの考えを辿るのって、楽しい作業です。
特定のアカデミックな分野においてだけではなく、科学・技術・経済ということだけではなく、共に社会をつくり、互いに支えあうものとして、そして、他の生物とも共存するものとして、人類は小さな知恵を合わせ、少しづつでも進化していっていると信じたいです。
どなたさまも、ハッピーなライフ・キャリアを。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?