Under the brownstone
English follows
今住んでいるロンドンの家は二重窓に床暖房で内装は新しく住心地は良いのだけど、月に一度は何かが起きる。
煉瓦造りで見た目が可愛いのは、つまり古いということなのだ。8月末に越してきてから、
9月 巨大な納戸の扉が落下
10月 ボイラーから漏水
11月 暖房パネルの劣化が判明
12月 嵐の日に庭の壁の一部が倒壊
1月 大雨の日に天井裏から漏水
それでも、前のフラットより広く、大家さんに相談したらすぐ対処してくれるので、私の幸福度は高かった。
茨木のりこさんの「廃屋」の一編をしみじみ噛み締める余裕があった。
しかし。実は先週、そんな情緒もぶっ飛ぶ大事件があった。
先に言っておくと汚い話である。
共に闘った古い靴と服とが命を落とす壮絶なバトルだった。その手の話に耐性のある人だけ、読み進めてほしい。
いくよ!
先週、天井裏の漏水チェックに来てもらったお直しさんの帰り際に、
「こないだ大雨が降った後からずっと、敷地内のマンホールから水が滲み出てるんだけど・・・これ、異常?」と、ついでに聞いてみた。
彼は「異常だね」と言って、その場で、大きなまな板を二つ並べたくらいの四角いマンホールの蓋をひょいと持ち上げた。(私にはそれを開ける発想がそもそもなかった。)そしてそこには、
恐ろしい池があった。
二人同時に「Oh…」と声が出た。
縁までタプタプの泥水…うにゃ、泥より悪いもの…棒を突っ込むと、溶かけた白いものがフワァと巻き上がる…重い液体。
ああ、これはトイレからきたやつ。
そういえば一番よく使うリビングの横のトイレ、しばらく前から流れにくかったよ…。
お直しさんの指示で、家のあちこちの水道を流しどこがつながっているかを検証したら、やっぱりトイレだった。これ、どうしたらいいの。
「行政に電話かな?」と聞くと、
「いや、これは自分でどうにかするしかない」とお直しさん。
「カウンシルに電話しても敷地内だから何もしてくれないよ。この状況をみたら、紙を流したのが悪いって責められる。ロンドンの古い家は水道管も細いからティッシュは流さずにゴミ箱に入れるんだ。実は、うちもそうしている」と。
えええー、そんな話聞いたことない。
ここは山か?山小屋だったのか?!
しかし、選択肢がないことは理解した。
知ってしまった以上そのままにしておけない。教えられた通り、すぐに大きなショベルとゴム手袋を買ってきて、マスクを二重にして、1時間ほどかけてその重いドロドロを掻き出した。
掻き出したブツはある程度水分が抜けて扱いやすくなるまで置き、黒い丈夫なゴミ袋を3重にして詰めた。そして、ポーチと家の前の歩道を流水で綺麗に掃除して終わるまでに、黙々と約2時間半。
その日は最高気温が3度の寒い日だったが、ちっとも寒さを感じなかった。むしろ匂いが比較的抑えられたのは不幸中の幸いだったかもしれない。
しかし次のステップとして「水量が減ったら下の排水管が見えるから、その穴を棒で突っついて開通させる」というのが、まったく捗らない。
奥が深すぎる。完全に詰まってる。トイレを流しして1時間くらいたつと水は半分くらいに減るけど、それでもパイプの上あたりで澱んでしまう。
その日は力尽き、マンホールの蓋を閉め直して1階のトイレに「使用不可」の張り紙をした。2階のトイレやお風呂、キッチンの排水もすべて別ルートで流れていくのは不幸中の幸いであった。
そして一晩寝て朝起きたら、思いついた。
「そういえば、家の前の反対側にあるもうひとつのマンホール・・・そっちにつながってるんじゃない?」と。
で、子供達を学校に送り出してからそちらを開けたら、大当たりー🎵
水は溜まっていなかったが、昨日のマンホールから続く穴から、パイプの太さの白と茶色の巨大な虫の幼虫みたいな塊がにゅるっとのぞいていた。悲鳴を上げなかった私を褒めて、誰か。
「2つのマンホールの間の5メートルくらいの排水管が詰まってるのでは」という、自分の(ものすごく嫌な)推理が当たっていたことを確認できて、私は嬉しいくらいだった。
一軒家に住み慣れている人にとっては当たり前かもしれないが、私は長らく、東京でもロンドンでもマンションとかフラットとか都会の集合住宅の便利さの恩恵を受けっぱなしてきたので。庭の敷石の下になにがあるかなんて想像したこともなかったよ。
で、そこからがまた汚仕事。固形物をシャベルで掘り出そうとしたけど今回は細いパイプの幅の仕事だったので、ゴム手袋に分厚いビニールを重ねてつかみ出し、直接ゴミ袋に放り込んでいった。
見えているところをとりきってから、上流のマンホールからポットに沸かした熱湯を流した。
実は、昨夜の間にロンドンでハウスに住んだ経験のあるお友達の奈津希さんに相談したら、「お湯よ!まずは熱湯で流すの。うちもしょっちゅうトイレが詰まってたけどお湯が一番効くからやってみて」とアドバイスされたので。
2リットルのポットに1杯分を流しても変化は見えなかったが、2杯目を流したら、太い幼虫が、ゆっくり、むにむに〜って蠢き出てきた。
それを逃すものかと捕まえ、またお湯を沸かしては流し、出てきたむにむにを捕まえ、を繰り返す。
8杯くらいやったらさすがに流れてくるものがバラけはじめ、上流に水もたまらなくなったので、あとはホースで流水をドッドドーっと。
効いた!熱湯が効いたよ!ありがとう!と奈津希さんに連絡すると「よかったね。あとは、週に1回はお布施のつもりでドメストするといいよ」と言うので、いや家の中のパイプじゃなくて庭の下水管やねんというと、流石にそれは想像していなかったとびっくりされた。けど、効いたよ、お湯。
トイレを流しても滞ることなく綺麗な水がるいるいと流れる下水管をみて、ああ、私がどんなに嬉しかったことか。
私はやった!自分で直したぞ!と、達成感に溢れながら風呂場に直行してシャワーを浴びた。自分史上最悪の仕事をしたのに、なぜか晴々した気分だった。
前日の時点で大家さんには、「こういうことって今までにもあった?ティッシュ、流しちゃダメなの?どうするのがいい?」と質問を投げていたが、「自分で解決しました!」と報告する。
いつもはすぐに返事をくれる大家さんだが、今回はちょっと返事が遅かった。呆れてたのか、言いにくかったのかも。
裏庭のマンホールは古い鉄製なのに、前庭の2つだけやけに新しい軽い蓋に変えられていたことや、下のトイレにはあらかじめラバーカップが装備されていたことを考えあわせると、実は前にも似た事件があったのではないかと思う。
そして今回のトリガーは、最近何発か、大勢人をよんでパーティーした時に通常の数倍量のトイレットペーパーが流れ、かつ、直後に最低気温氷点下となる寒い日が続いたために、パイプの中の残留物が凍りついてたんじゃないかと推測。
つまり、日常生活の中で、気をつけながら常識的な量のトイレットペーパーを流すのは、多分問題ないはずだ。
さらに、最初にアドバイスをくれたお直しさんは「集めたブツは燃えるゴミで出していいけど、庭に穴を掘って埋めたらいい肥料になるよ。」とも言ってたのだが、私にはそれを実践する勇気はなかった。
ただ、彼があまりに大真面目だったのでネットで調べたら、確かに夏場など1ヶ月くらいでバクテリアが綺麗に分解してくれるらしい。コンポストだね。そういえば遥か昔、子供の頃、日本の伝統的な「肥溜め」の実物をどこかで見たことがあるような、朧げな記憶も思い出した。
けど、やっぱり、お庭に埋めるのは抵抗があるなあ。
せっかくだから、私がつい真剣に読み込んでしまったいくつかのリンクを紹介しよう。あまりに恐ろしい闘いの最中、ちょっとでも前向きになるためにこういう視点が必要だったのだ。
こんな話に最後までおつきあいくださったあなた。
ありがとうございました。
あなたに、良き運が開けますように。
★
I’ve been living in this lovely brownstone house in London for a few months now. While the double-glazed windows, underfloor heating, and modern interior are comfortable, there has been something unexpected that happens every month. I guess that’s what you get with an old English property.
A giant closet door fell off in September, a boiler leak in October, a damaged heating panel in November, and one of the garden walls collapsed during a storm in December. And in January, I discovered a leak in the attic. Despite all these accidents, I've found a strange comfort in it, much like Noriko Ibaragi's poem 'Abandoned House' sentiment.
However, last week, something truly horrible happened. I had to get my hands dirty. I mean, really dirty.
When I had a plumber over to check a leak in the attic, and while he was here, I asked him about a persistent puddle of water I’d noticed near the maintenance hole cover in the garden. He lifted the square cover casually – something I never would have thought to do myself – and a truly horrifying sight greeted us.
A murky, brown pool of...well, you can probably guess. Clearly, something had been backing up from one of the toilets. Sure enough, the toilet closest to this spot had been running slowly for a while.
The plumber told me I’d have to clear the blockage myself, as the council wouldn’t help with something on the property. I had no choice.
Following his advice, I armed myself with a shovel, rubber gloves, and double-face masks and started to dig out the sludge.
After letting the sludge dry out a bit so it was easier to handle, I packed it into three heavy-duty black garbage bags.
Then, I hosed down the patio and the walkway in front of the house.
Even though it was freezing three degrees outside, I didn't feel the cold at all. I was lucky the smell wasn't worse. It was bad enough as it was.
Next, I had to try to clear the blockage in the pipe. I poked at it with a stick, but it was no use. It was completely clogged. The water only drained halfway in an hour after flushing the toilet.
Exhausted, I closed the maintenance hole cover and put an "Out of Order" sign on the toilet. Luckily, the upstairs toilet, bathroom, and kitchen were connected to different drains.
The following day, I woke up with a sudden flash of insight. What if the blockage was in the other maintenance hole on the other side of the house?
I checked it out and hit the jackpot. There, right where the pipe from the first maintenance hole connected, was a giant, slimy mass that looked like a gigantic worm.
I didn't scream, which I'm pretty proud of.
Then, using a rubber glove, I grasped the slimy mass. When the visible area was cleared, I poured boiling water from the upstream maintenance hole.
Last night, my friend advised me to use boiling water, which she had found helpful in similar cases when she lived in an old house in London. After a few rounds of boiling water and fishing, the blockage finally cleared.
It took several hours and a lot of boiling water to completely remove the blockage. I’ve never been so happy to see clear water flowing down the drain.
I did it! I felt a massive sense of accomplishment.
Who knew I was capable of such an absolute duty labour? It was quite an experience. And let me tell you, it's made me appreciate the simplicity of flushing a toilet a lot more.
The plumber who’d advised me earlier mentioned that I could bury the sludge in the garden as a natural fertiliser. I didn't have the guts to do that, though; my curiosity led me to look it up online because he was so serious about it. Now I know that earth bacteria can break down organic waste in a month or so during the summertime. It's called composting.
Well, I still wasn't comfortable burying it in my garden, but those ideas helped me keep a positive attitude during this whole mess.
Thanks for reading this far.
May all your daily plumbing be cleared out smoothly!