『死にたがりの君に贈る物語』綾崎 隼 レビュー
ミマサカリオリは天才だった。
ミマサカリオリだけが特別だった。
ミマサカリオリは残酷な小説家。奇跡みたいな物語を書けるのに、続きをよませてくれない。
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『死にたがりの君に贈る物語』は、人気小説の物語を再現しようとファン七人で共同生活を始めるのですが、次第に"ある謎"が浮き彫りになっていくミステリーです。
ミステリーとして謎解きをする楽しみだけでなく、推しや誹謗中傷についてがテーマの今風の作品で、色々と考えさせられることがありました。
あらすじ
本作は人気小説家"ミマサカリオリ"が亡くなった場面から話が始まります。自身の小説が炎上して誹謗中傷を受けた結果、自殺したのです。
ミマサカリオリの死を知り、物語の続きを読めなくなったファンは嘆き悲しみます。
「こんなに素晴らしい小説が読めないなんて、死んでいるのと一緒です」
小説の結末を読めないなんて生きている意味がない。大好きな小説家の死が悲しすぎて、後追い自殺を図るファンまで現れます。
ミマサカリオリが急死して数日経ったある日、熱烈なファン七人が集まって山奥の廃校で生活することになります。未完のまま終わったミマサカリオリの物語をなぞった生活をして、自分たちの手で結末を創り上げようとするのです。
しかし、七人はそれぞれ嘘をついていました。その嘘が徐々に暴かれ、不穏な空気が漂い出し、ある事件がきっかけとなり、七人の仲が決裂していきます。
皆の胸の中に生まれた疑念が、集団生活の空気を緩やかに汚し始めている。
一人一人がなんの意図を持って嘘をついているのか。最後はハッピーエンドなのか、それとも……。
どんな結末を辿るのか最後までわからなくてドキドキしっぱなしで、最後のページでは涙が止まらなくなるほど感動しました。
推しがいる方には絶対に読んでほしい一冊です。
誹謗中傷
悪意を抱いた言葉は、砂時計のように蓄積し、心に負荷をかけていく。
本作は現代の深刻な問題である"誹謗中傷"に鋭く切り込んでいます。
ミマサカリオリは作品が炎上し、厳しい批判に晒された結果、物語を紡ぐことができなくなり、亡くなってしまった。人気になればなるほど誹謗中傷の声も届きやすくなる。それは有名になる者の宿命なのか。
九十九人が誉めてくれたって、たった一人の批難が頭から離れない。
それが、どれだけ的外れでも、私怨に満ちた声でも、駄目なのだ。
多くの声に賞賛されても、少しの悪口に心を引き裂かれてしまう。誹謗中傷とは、他人が思っているよりもずっと残酷に人の心を苦しめるのです。
他者への誹謗中傷。この問題はミマサカリオリに限った話ではなく、私たちを取り巻く環境にも同じことが言えます。
SNSで好きなことが呟ける現代、誰もが自分でも気づかないうちに、愛のある批判と誹謗中傷の境目がわからなくなる可能性があります。
しかし、無意識だった。では済まされません。自分の発言で人の命を奪ってしまうほど、言葉は心に傷をつける威力を持っています。
「世の中にはナイフで刺されるよりも痛いことがありますから」
言葉は人を救う道具にもなるし、傷つける武器にもなる。本作を読んで、改めて言葉の扱い方を見直そうと思いました。
本作の豆知識
「蜘蛛の巣にはタンパク質がある」
終わりに
あなたがいるから、私は小説を書こうと思います。
『死にたがりの君に贈る物語』は謎解き要素があるミステリーですが、暗い話ではなく、最後にはしっかりと感動できる物語となっているので読後感が心地よかったです。
推しの存在は尊く、人生に活力を与えてくれる。本作は人を応援することは素敵な行為なのだと再確認させてくれました。
私もより一層、言葉の扱い方には気をつけて
楽しい推し活ライフを過ごそうと思います。
『死にたがりの君に贈る物語』綾崎 隼