「学びは楽しくなきゃだめなんだよ」FBI/CIA/SS/軍関係者に体術指導する野口大師範77歳(武神館No2)に教わったこと
「人間って意外と弱いからさ」そういって齢77のおじいちゃん(野口大師範/武神館のNo2)が欧米系の大男を転がしていく光景は不思議だった。僕より小柄で力を入れている様子もない。「自分から倒れてるんじゃないか?」と疑うくらい弟子たちは簡単に倒れた。
師範曰く「外国人は上のチカラは強いけど、下(下半身)が弱い。指1本で倒せる」。「そうですよ」と2m近くあるフランス人が畳に倒れながら言ってたのでたぶん本当だろう。「(老人が大男を指1本で転がせる)これだから77になってもやめられないんだよなあ笑」と先生は楽しそうだった。
先生によれば、人を倒すときに力は要らないらしい。間や呼吸・タイミング(その他諸々)を合わせれば大男でも膝から崩れる。相手の筋力量は関係ない。この戦うときに”脱力する"という発想は日本独特のもの。欧米の人達にはあまり馴染みがなく。上半身の力に頼る傾向があるらしい。
とはいえ、身体を鍛えないと精神的に弱くなるから"剛"も大切だし、若いうちは剛だけで何とかなるのも事実。大師範自身も未だに筋トレをしている。80近いが背筋が伸びていて声もよく通る人だ。
武神館の生徒はほぼ外国人。FBIやCIA・SSを始めや軍関係者、その中でもポジションの高い人たちが学びに来る。みな社会的地位の高い人たちで、体術においてそれぞれ得意分野がある。大師範の言葉を借りれば、道場に訪れた時点で彼らは「心技体」をすでに備えた人達だが、それでも飽き足らず、最後に日本の「妙技」を求めてやってくる。心技体”妙”。日本文化のミステリアスな所に惹かれるらしい。
道場の稽古は、”とにかく楽しそう”だった。武神館で教える内容は「目つぶし」「金的」といった思いっきり殺人術だが、教える側は常に口角が上がっていてユーモアたっぷり。弟子たちも楽しそうに学んでいた。大師範曰く「(弟子たちは)真面目で素直だから、こちらがあえて高圧的になる必要はない」。また、初見宗家(武神館の創設者)も野口先生に同じようにやってくれたそうだ。「学びは楽しくなきゃダメなんだよ」と。
先生が弟子たちに教えるときに気をつけるのはケガをさせないこと。「殺人術を教えてるのに矛盾するようだけどね笑。下手な指導者にかぎって生徒に怪我をさせるんだよ」。あとは講座を休まない。「(弟子たちは)はるばる外国から訪ねて来てくれているのに講座に穴を空けたら気の毒。それでは指導者失格」野口先生は77歳の今でも週3回、月に12回道場で体術を教えているが、去年1度も自己都合で休んだことがないと言っていた。自己管理も指導者の大切な務めだと。
野口先生の弟子たちは10年~20年学んでる人が多い。上記に述べたフランス人はもう30年野田に通い続けている。「武神館の免状をもらうとFBIやCIAでの昇進に有利」と聞いていたので「出世目的で学んでる人達が多いのかなあ」と思っていた。そういう人も少しはいるかもしれないが(商売っ気の強い師範もいるそうなので)、稽古風景を見る限り、みな格闘技が大好きで、稽古や学ぶことが大半だと思う。昇進のためだけに数十年の時間と多額の旅費を費やすのはどう考えても割に合わない。
先生が組み手をやってるときビデオカメラを回している弟子がいたので、問題ないんですか?尋ねてみたところ「他の師範は皆、ビデオとか写真一切ダメみたいだけど、俺はOKしてる」。彼らは遠い国からはるばる来て母国に普及したいと思っている。「でもね、写真とか動画じゃ伝わらないんだよ。本で読んだり口で説明しても絶対わからない。やっぱり自分の身体で受けてみないとね。俺だって47年もやってんだからさぁ」。
ちなみに野口先生は、海外への体術指導が評価され、「騎士」(ドイツ国立歴史文化連盟より)、ニューオーリンズ名誉市民、東久邇宮文化褒章を始め、各国から友好証や感謝状をもらっているスーパーおじいちゃん「キッコーマンの社長だってもらえないよ笑。ははは」。30歳から宗家に学んだ格闘技がきっかけで、80才近くになっても世界中の多くの人から必要とされるようになったその生き方に敬意を表します。