ビー玉の中の夕焼け。~夏の思い出~
あの夏の思い出は、今でも脳に鮮明に焼き付いている。
海岸沿いの下り坂を、自転車で下って行った。
初恋の彼の漕ぐ自転車の後ろに乗って、長い長い坂道を下って行ったのだ。
潮風が肌をかすめて、磯の香りが鼻腔を刺激する。
ごうごうと風の音が耳いっぱいに響くので、彼が話す声も聴こえなかった。
なので、話すときはお腹から声を出して叫んで会話した。
それでもうまく聴こえなくて、私たちは笑い合った。
坂を下りきって、山の方に向かって伸びる一本道を走る。
すると次第に大きなが見えてくる。
山の中に入っていくと、景色が川沿いになるのでそこで自転車を停めた。
森の中の清流で、私たちは涼しい思いをしながら川遊びをした。
当時は高校生だったが、いくつになっても楽しかった。
暑い時間帯を川で過ごし、日が暮れる前に私たちは帰路についた。
知り合いの駄菓子屋さんで、ソーダ味の棒アイスを買った。
そしてラムネを飲んで、石の上で瓶を割ってビー玉を取り出す。
外の水道で洗ったビー玉を、二人で夕日に向かって透かした。
逆さに映った夕日がきれいで、手放したくない風景だと思った。
「今日は楽しかった。またね」
またねという言葉に、次を期待した私は頬が熱くなるのを感じた。
そのまま彼に自転車で送ってもらった。
家に帰ると、夕食に冷えたそうめんが用意されていた。
お母さんとお父さん、それにおじいちゃんと食卓を囲んだ。
「今日はどこに行ってたの?」
お母さんの問いに答えるのが少し恥ずかしく感じられた。
「別に。ちょっと川に行っただけ」
そっけなくしてしまったことを、今では少し後悔している。
夏休みは彼とたくさん会った。
いつも自転車で迎えに来てくれて、私が後ろに乗って走った。
時々私が漕いでみると、なかなか上手く出来なかった。
力も必要なのだと思い、女子と男子の差を感じてドキドキした。
夏休みの終わり、私は思い切って彼に告白をした。
シンプルに「好きです」と一言伝えた。
彼は「僕も」とだけ答えた。
私は嬉しくてその場で泣いてしまった。
海岸沿いの下り坂。森の中の清流。ビー玉の中の夕焼け。
どれも素敵できれいな、私と彼の夏の思い出。
忘れられない、夏の思い出。
まあ、全部嘘なんですけど。