くりこ姫『花やこんこん』感想
同人誌時代からファンになった作家さんですけど、商業作品もすごく好きです。BL作品だけど、ラブだけに偏らず、生真面目できちんとしたストーリー展開で読んでてせすじが伸びる感じがします。変な表現だけど、向こうからストーリーを語りかけてくる力が真っ直ぐなので、こちらもちゃんと読まないと!というイメージ。
この『花やこんこん』は、地方都市(もっと小さいかな?)を舞台に、古い商店街と新規に建てられるスーパーマーケットというテーマの中で登場人物たちが動きますが…彼らの「恋愛だけが行動動機じゃない」様子が好感が持てます。
むしろ、自分の意志と考察にしたがって動こうとするのに、ときどき「好き」という感情の爆発が思わぬ行動を呼び起こしてしまって戸惑ってる。
ラブストーリーって、「とにかく恋愛するために行動する」という話が多いので、リアリティあるくりこ姫さんの小説は珍しく感じちゃうんですよね。さっぱりしてて心地いい。
攻めと受け(あんまりそういう感じしない…)の咲樹と里。鋭い感じのイケメンの咲樹もいいけど、芯の強い、気も強い、愛想はないけど人にすごく好かれる、という里の造形がいいです。ラブシーンも「そういうこともあった」と描かれるくらいであとはキスしかないんですけど、里がこんな風だけに「これほど折れない心の男の子が恋するなんて…」と感慨が湧くというか。
二人が街の運命を大きく変えるとか、そういう派手な話じゃないんですけど、青年時代に入っていく年頃の彼らが街を真摯に考える、そういうラストが心に響きました。
『花やこんこん』というタイトルのように花びら舞い散るようなふわふわしたお話じゃないけど、彼らの生き方そのものが花みたいですね。
イラストはえみこ山さんです。「黒くて意思の強い瞳」の里がイメージ通り…というより、このお二方の場合もう、キャラクター造形は共有されてるようなものかな?