自分を褒める夫、自分にダメ出しする私。

スマホでぽちぽちネットニュースを見ていたら、「夫に家事や育児をやってもらうコツ」みたいな記事が目に入った。

「やってもらったらとにかく褒めましょう。褒めてもらったら旦那さんはやる気が出るはず」というような内容だったと思う。

一通り読んだあと、「そういやうちの夫、家事やっても『褒めて褒めて』ってならんなぁ」とふと思った。私に「褒めて!」って言ってくることもないし、そもそも「褒めてほしい」という空気を夫から感じないのだ。

わが家は、家事も育児も「できる方orやりたい方ができることをできる時にやる」ことを基本にしている。なので明確な家事分担は無いのだが、ありがたいことにいい感じのバランスが保たれていると思う。

ある日、乾いた食器を水切りカゴから食器棚に片付けていく夫に聞いてみた。

「夫って家事やっても褒めて褒めてってならんよね~」

夫は手を止めることなく「あー、ならんなぁ」と言った。

私「それってなんで?」

夫「自己肯定感高いからね、がんばってる自分えらいわー!すばらしいって自分で褒めてる」

私「ふむふむ」

夫「こんだけがんばったらええことあるはずや。平日の野球観戦もOKが出るはずや!って」

いわく、家事に限らず大体のことは自分で自分の行動を褒めて満足するので、他者から褒めてほしいとは思わないらしい。もちろん褒めてもらったら嬉しいけどね、とのこと。
衝撃だった。そんな人おるんか、と。

私は褒めてほしくなる。
思い付きで作った料理が案外いけるとき。
長女の水筒の茶渋汚れをピカピカに磨いたとき。
珍しく昼間に掃除機をかけた時も、「今日は掃除機かけたんよ♪」と夫にアピールしたくなる。というか、する。

褒めてほしいと思うことは悪いことじゃないと思う。でも、自分でその欲求を満たせる夫を見ていると、人として成熟している…大人ってこういうことなのかもと思う。

ある晴れた日の日曜日。
夫と子どもたちは朝から出かけていて、私だけ10時過ぎまで寝ていた。あまりにもスッキリと目覚めて気分がよかった私は、布団を干して掃除機をかけようと思い至った。

布団を干したあと、いざ掃除機をかけようとしたときに夫の言葉が脳裏をよぎった。

“がんばってる自分えらいわー!って自分で自分を褒めてる”

そうよね、まずは自分が自分を褒めてあげないとだよね。私は掃除機をかけながら、意識して自分を褒めてみることにした。

掃除機かけてる自分、えらいわー。
布団まで干すなんてすごい!
いやぁ、対したもんだ!

掃除は15分ほどで終わった。
役目を果たしてくれた掃除機をしまいながら、私は呆然としていた。

気付いてしまったのだ。
私を褒める声とは別の声があることに。
私が自分を褒める声のおよそ5倍はあるだろうか、自分にダメ出しする声が聞こえてくるのである。

掃除機かけてる自分、えらいわー。
(もうちょいモノよけたら?)
(テレビとかのホコリ拭いてないじゃん)

布団まで干すなんてすごい!
(こないだも晴れてたし干したらよかったのに)
(布団にカビ生えるで)

いやぁ、対したもんだ!
(もっと出来ることあるでしょー)

厳しいダメ出しの声は、以前から聞こえていた。が、それが普通だったから特に意識したことはなかった。
今回、自分を褒めよう作戦を決行したことで、その対極にある「自分へのダメ出し」がハッキリと浮き彫りになったのだ。

ひょえええと思った。
私、普段からこんなにもナチュラルに自分を監視してダメ出ししていたのかと。そりゃ夫に褒めてもらいたくなるわ。自分が自分を褒めるどころか、自分に文句ばっか言ってんだもん。

このままじゃ嫌だなぁ。私も意識せずに自分で自分を褒められるようになりたいな、と思いながら数ヶ月経った頃。
家事に関する話ではなかったのだが、夫が私にこう言った。

「もりこはよく自分を責めるけどさ、それって木の末端を見てるみたい。末端を見ながら私はダメだ…って言ってるの見てると、もっと根幹の根っこや幹の部分があることを認めてあげたらいいのにって思うよ」

私ははっとした。

夫「もりこはちょいちょいイベントやったりしてるやん。僕はそういうのやろうって全然思わへんからすごいなって思うよ」

夫「イベントのこととかで『どうしたらいいんだろう』ってよく悩んでるけどさ、もうちょっと”行動を起こしたこと”自体を認めてあげたらいいのになーって

その通りだと思った。

私は枝の先についている花のつぼみがなかなか咲かないのを見ながら悩み、自分にダメ出しをする。「あんたの力不足じゃない?」と。
でもそもそも、木が根を張り幹が太く成長したからつぼみができたのだ。
夫は普段から、まず根や幹を成長させる力を持っている自分をしっかり認め、褒めているのだ。つぼみが咲いたならきっとことさらに「ああ~僕がんばったなぁ」と思うのだろう。

この会話をきっかけに、私は行動を起こしたことを褒めるように意識した。ご飯を炊いたとき、朝から置きっぱなしにしていた食器を夕飯作りの前に洗ったときなど。
私自身へのダメ出しは少しずつ減ってきたように感じた。

そして今日。
夕方少し頭が痛くなってきたので「お母ちゃん、ちょっと横になるね」と子どもたちに言って寝室でウトウトした。気付けば2時間が経っていて、いつも晩ご飯を食べ始める時間になっていた。

「そんなにお腹すいてないし軽く作ろ」と台所に立ち、完成した味噌汁と炒め物をぼんやり眺めながら私は思った。

「あー…晩ご飯作った私、えらいな~」

あっ!!!
今私、自然に自分を褒めてた!

味噌汁からもわもわと立ち上る湯気みたいに、胸の中がほわっと温かくなった。

夫と同じステージに、私も足を踏み入れた気がする。

自分へのダメ出しがゼロになることは無いだろう。
でもたぶん大丈夫。私自身が持っている、根っこと幹を成長させる力を、私は認めることができる。


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