スイカの薫りがするんだ
小さな小さな 天然鮎の薫りに
彼女は 呟いた。
日の出の五時
日の入り前の五時
川に居る
川漁師は 堰堤で 鮎の動きを観ている
暗黙の了解がある
相手の漁場には 入らない
お互い様である
そんな二人は 川を遡る
水飛沫を立てながら
川に張り切った 綱に向かって
鮎を追って行く
日の出に 今日の宴の鮎は分けて
いただいた。
上空には 鳶が 舞っている。
川を歩くも 鮎は居ない
腐った苔石を歩くのに 緊張と緩和との
バランスが とても難しい
獲れない時ほど 難しい
話題の禅の映画で言っていた
“考えるな動け”と
頭で 考えたら 答えが出た時には
転けているだろう
リハビリ リハビリ
究極のリハビリだなって
犬の散歩がてら川に 魚を獲りに来ている
二人が居た。
爺ちゃんと 孫なんだろう。
網を持って 大はしゃぎは 爺ちゃん
帰り際 二人は 目の前に居た
魚獲れた?
獲れたけど 逃してきた。
“これ あげる 天然鮎やよ”
小さな鮎は 天然の遡上鮎 一匹しか
分けてもらえなかった。
“スイカの薫りが するんだよ”
爺ちゃんは 呟く
彼女は 鼻先に 鮎を持ってくる。
満面の笑みで呟く
“ほんとだ スイカの薫り”
彼女の 記憶に 初夏の鮎の香りが
刷り込まれた瞬間だった。
“おじさん ありがとう”
唐揚げにして 食べてあげてね
振り返ると 彼女はずっとずっと
手を振っていた。
川の神さまからの預かりもの
ギランバレーに恋をして
回復期リハビリテーション
スイカの薫りを知った日