今年の抱負、あるスロースターターの場合
1/2(木)にアップした2025年最初のnoteは、2024年のやり残しを消化するような内容になってしまった。
今回の記事では、2025年をどう生きていきたいのか、2024年の振り返りも交えながら真剣に考えたい。年末には、ここに書いたことをちゃんと実践できていたかどうか検証して、その翌年に繋げられるように。
2024年の振り返りと現状
ハイライトその1 勉強と、自分自身を向上させる取り組み
2024年の私は、大学の学芸員課程の勉強(通信課題の提出)に取り組んだ。十数年ぶりに教科書とノートを広げ、机に向かって勉強する日々を送った。ただ、課題には展覧会のレポートが多かったので、未だかつてないほど美術館巡りができた。レポートを書きやすい展覧会を選ぶという縛りはあったものの、それでも楽しかった。
勉強の合間を縫って、三田文學新人賞の関係で知り合った編集者・岡英里奈さんが講師をつとめる全5回の小説教室に通い、小説をブラッシュアップする術を学んだ。
この時に知り合った方の何人かとは現在でも交流があり、励まし合いながら執筆できる仲間ができたことは大きな収穫だった。
また、プロのカウンセラーによるカウンセリングを初めて受けたり、気になりつつ挑戦できていなかったまつげパーマや脱毛に行ったりして、自分にとって心地良い精神状態とビジュアルをちまちまと模索していた。
(この経験によって得られた諸々の気付きは、また改めて書きたい。)
10月に提出物をすべて出し終えてからは、実家の断捨離をして住環境を整えるとともに、会社員時代に読めなかった難しめの本を読んだり、美術館や映画館に行って文化に触れたり、今後の執筆活動の方向性を考えたりして過ごした。
パレスチナで起きている民族浄化についても学び、スタンディングやデモ、署名、BDS(イスラエル産の農作物や親イスラエル企業製品のボイコット)に少しずつ参加するようになった。
2023年に会社を辞めるまでは、日々仕事に追われ、自分が今どういう時代に生きていて、自分の行動が世界にどういった影響を与えているのかを学ぶ余裕がまったくなかった。
キャリアの仕切り直し・学び直しのための時間を持ったことで、自分の現在地を昔より広い視野で捉えられるようになった気がする。
ハイライトその2 ZINEを世に放ち、手応えを得る
昨年に勢いで50部刷ってから放置してあったZINE「あるデミロマンティックの本棚 恋愛を遠巻きに眺めながら読んで、考えたこと」を、クィアに関する本やZINEが充実している書店・loneliness booksに置いてもらえることになったのも、2024年の大きな出来事だった。
あるデミロマンティックの本棚 恋愛を遠巻きに眺めながら読んで、考えたこと | loneline...
※上記ウェブショップでは品切中ですが、再入荷通知メールの設定が可能です。実店舗(東中野platform 3内のloneliness books)には、1/10現在なら在庫がある可能性あり。
私はデミロマンティック(アロマンティックの人ほどではないが恋愛感情が希薄な体質)で、日本社会における恋愛観・恋愛文化全般に違和感を覚えることが幾度となくあった。
2023年、「陰気なクィアパーティ ZINE交換会」というイベントがあると知り、これまで心の支えになった本を紹介しながら当事者として考えてきたことを綴った「あるデミロマンティックの本棚~」を作って参加した。
会場にいた数人とZINEを交換し、初対面にもかかわらず深い交流ができて嬉しかったので、もう少し沢山の人に届けてみたくなった。
2024年半ばに業者に印刷を頼んだところまではよかったのだが、どう届けたらいいか考えがまとまらず、50部のZINEは段ボールに入ったまま一冬を越した。
4月、大久保にあったloneliness booksに客として訪れた際、迷惑に思われるかな……と緊張しつつも勇気を振り絞って「私、ZINEを作っているんですが……」と店主の潟見陽さんにサンプルを差し出した。もちろん会計を終えてから。
お時間のある時にご一読いただき、お店で販売する価値があると思っていただけたら巻末のメールアドレスに連絡をください、と言って帰るつもりだったのだが、潟見さんはその場でパラパラっと中を見るなり「とりあえず10部買います」と言ってくれた。嬉しさ以上に、この人そんなにあっさり決めて大丈夫!? とのけぞってしまった。
しばらくして、私のSNSのフォロワーがじわじわ増え始め、熱い感想を寄せてくれる人も現れた。品切れになった時には、再販してほしいとDMをくれた人もいた。ジェンダー研究者として著作を出しているような人からフォローが来たこともあった。
ある時、デミロマンティックを「自分が特別だと思いたくて自称してるイタい奴ら」「中二病みたいなもの」などと揶揄するポストがXに投稿され、これに対する当事者やクィアからの反論が過熱した。
「デミロマンティック」という言葉が局所的にトレンドになった結果、それをタイトルに含んでいる私のZINEがいきなり売れ出し、2024年末までに1度の増刷と3度の追加納品が発生した。
2025年頭の時点で、少なくとも75部のZINEが読者の手に渡った。
自分の書いたものが誰かに届き、同じように苦しんできた当事者をエンパワメントしたり、既存の恋愛観や恋愛文化を問い直すきっかけを作ったりしていることが、心底嬉しい。間違いなく、2024年最大の成功体験だった。
また、年初には完全予約制の書店だったloneliness booksは、8月から東中野「platform 3」の中に移転し、予約なしで行ける店に変わった。
platform 3は、潟見さんと、TT pressという出版レーベルを主宰する丹澤弘行さん・ともまつりかさんが共に始めた店舗。
以前より気軽に行けるようになったことで、新たな読者との出会いも期待できるかもしれない。
platform3(@plat_form3) • Instagram写真と動画
私にとって2024年とは何だったのか
2024年が始まった頃は、今年は自分の足場を固める年にするという意識があった。
しかし一年が過ぎてみると、足場を固めることと並行して、ZINEの発行とデモ・スタンディングへの参加という、2タイプの社会運動を始めた年でもあった。
自分を掘り下げたり本やカルチャーを通して学ぶことは一見すると内向きな行為だが、巡り巡って外向きな活動にも繋がってゆくのか……と不思議な気持ちになる。
2025年をどう生きるか
2024年にやってきたことや得られたものを踏まえ、2025年の自分に課したいことを考えた。
最終的に、下記の4つの目標を掲げることにした。
①自信を持って書き、届ける努力をする
②学芸員課程を修了する
③自分が活きる職場・ライフスタイルを見つける
④会社員になっても持続可能な形で、社会運動を生活に取り入れる
以降、各目標の具体的な内容を書いてみる。
①自信を持って書き、届ける努力をする
2024年は、ZINEの販売を通じて、自分が言葉を発することで誰かを助けられるという実感を持つことができた(もちろんZINEが沢山の人に届いたのは潟見さんとloneliness booksのお力添えあってのことで、決して私一人の実績ではないけれど)。
また、小説教室で知り合った書き手に、「あなたは書き続ければ絶対デビューできるよ」と力強い激励をもらったこともあった。
執筆というのは孤独な作業で、創作意欲は「世界には既に本が溢れているのに、私がわざわざ書く意味なんてあるだろうか……」という無力感に簡単に飲み込まれる。
しかし、今の私には、2024年に読者になってくれた人たちがいる。現時点での私は「三田文學新人賞佳作」しか実績と言えるものがないが、2024年に沢山の人が送ってくれた追い風を受けて、2025年は自分の書いたものがもっと遠くまで届くよう頑張りたい。
具体的には、今年の中旬までに、2つの公募に小説を出す。そして、次のZINE発行に向けて、noteに定期的にエッセイをアップする。
②学芸員課程を修了する
今年の2月に、学芸員課程の最終関門・博物館実習が控えている。
応募が多すぎる場合は参加を断られることもあるらしいが、参加に必要な他の授業の単位はすべて取り終えているし、かなり気合いを入れて応募書類を書いたので、よほどのことがなければ参加できると思う。
1年強ずっと取り組んできたことの総まとめなので、しっかり単位を取り、転職活動に繋げたい。
③自分が活きる職場・ライフスタイルを見つける
2月の実習で単位をもらえれば、晴れて学芸員課程修了となり、転職活動がスタートする。
日本の平均的な定年の年齢を考えると、私はあと20年強働く計算になる。これまでやってきたことが生かせるか、将来的な体力の衰えやライフスタイルの変化を加味しても働き続けられるか、よく吟味して転職先を選びたい。
④会社員になっても持続可能な形で、社会運動を生活に取り入れる
デミロマンティック当事者としてZINEを発行したり、クィアやLGBTQ+向けのイベントに参加したりする中で、セクシュアルマイノリティを含む様々なマイノリティが差別されたり不利益を被ったりする社会構造が変わらないのは、マジョリティがこうした問題を自分事として引き受けないからだと痛感した。
そして、現状を変えたければ、マジョリティが目障りと感じるぐらいアピールをし、無視できない状況に持っていかなければならないことも多いのだと、#MeTooをはじめとする様々な事例から学んだ。
正直、これまではデモやスタンディングなどの泥臭い社会運動を怖いとか過激だとか思っていたところがあったが、自分の生きづらさを解消したければ、同じように失われた尊厳を取り戻そうとしている人たちとともに声を上げなければならないと気付いた。
そして、マジョリティに問題を引き受けろと迫る以上、自分がこれまで引き受けてこなかった問題も引き受けなければならないと自覚した。
「詳しくないから分からない」「あなたが気にしすぎなだけでしょ? 何でこっちが変わらなきゃいけないの?」と逃げることは、誰かの尊厳を踏みにじる仕組みを黙認し、それに加担することに他ならないのだ。
今パレスチナで起きている民族浄化を可能にしているのも、イスラエルの暴走を黙認する社会構造だ。そして、実はその構造に、イスラエル軍と武器供与や武器購入などの取引をしているFANUC・川崎重工などの日本企業や、イスラエル軍に無償で食事を提供したマクドナルドをはじめとする親イスラエル企業(BDSジャパンによればスターバックスやディズニーなども含まれる)、パレスチナを国として公認していない日本政府など、私たちにとって身近な団体も加担している。
こうした事態を黙認したり、親イスラエル企業の製品・サービスを買うことは、誰の尊厳も踏みにじられない社会を求める一人の人間としてあってはならない態度だと、SNSでゆるく繋がっているクィアの人たちが声を上げる姿から教えられた。そして、自分なりに勉強をはじめ、少しずつ行動するようになった。
色々なデモやスタンディングに参加してみて、私自身はスピーチやパフォーマンスをするより、書くことを通じた社会運動をやっている方がしっくりくると感じた。(スピーチによくある「日本政府は!」「国際社会は!」などの大きな主語を使うことにどうしても慣れない……。スケールの小さい主語でぼそぼそ喋る私小説スタイルが性に合っていると思う。)
ただ、主催者側になることはなくても、スタンディング、ビラ配り、知識を深めるためのイベントへの参加などは、働き始めてからも月2~3回ぐらいの頻度でやりたいと思っている。勤務条件や職場の立地に左右されることなので、どの程度できるかは現時点で分からないものの。
もちろん、オンラインのアクションにも適宜参加する。
小説やエッセイのZINEを通じた発信と並行して、様々な事情を抱えている人とともに、一人ひとりが尊重される社会の実現に向けて声を上げてゆきたい。
おわりに:補足、そして「スロースターター上等宣言」
これまで書いてきた内容は、私のことを5年以上前から知っている人にとっては意外に感じられるだろう。
ミスiDオタクとしてSNSを始めた私の新年の抱負に、オタ活の話がまったく出てこないのだから。
「ミスiDウォッチャー」として推しに関するエッセイをアップしていた頃の私は、自分が自分の人生の主人公であることにうんざりしていた。
新人賞に原稿を送っても結果が出ず、周囲は結婚して人生の駒を前へと進めてゆき、仕事はそんなに好きではなかったが代わりにやりたい仕事も思いつかず、惰性で職場と一人暮らしのアパートを往復する毎日だった。ブラック企業からまともな会社に転職できたことと、一人暮らしを始めて執筆環境が整ったことはよかったものの、貴重な20代の2年間を過酷な環境で無駄にしたことを考えると情けなかった。
ミスiDオタクを始めた頃の私の中には、どうせ自分なんて作家になれる見込みもないし、恋愛や結婚への興味も持てないし、仕事への情熱もないのだから、未来ある推しの人生の脇役になるのがお似合いだよ、という卑屈な気持ちも確かにあったと思う。
しかし、ミスiDの推したち、関係者、そして同時期にSNSで出会った一箱古本市の出店者など、なりたい自分や成し遂げたいことを掲げて積極的に行動している人たちと関わる中で、卑屈な気持ちが少しずつ消えていった。
大きな結果を出す出さないに関係なく楽しく生きることはできるし、人の役に立つこともできると教えられた。
私を一個人として尊重しなかった父親に植え付けられた「分かりやすい大きな結果を出さなければ自分は無価値」という呪縛から、少しずつ脱することができた。
そして2021年、ブラック企業時代を振り返って書いた「退職前夜」が三田文學新人賞の佳作を受賞する。
結果を出さなければという雑念が薄れ、純粋に良い作品を書きたいという気持ちで取り組めたことが、逆に結果に繋がった気がしている。
書き手としての私に期待を寄せてくれる人が現れた今は、少しでも多くの時間を執筆に当てたいと考えるようになった。
なので、今後は、アイドルのライブや特典会への参加など、誰かを推す活動は控えめにする予定だ。休止中のミスiDが再開したとしても、ウォッチャーには戻らない。
でも、人生のままならなさに腐りかけていた私に、少し文章の書けるオタクという役割を与えてくれた推したちには感謝している。あの頃に出会えて本当によかった。
まだ活動している人たちのことは、今後もゆるく応援する予定だ。
もう元旦から10日が経過しているが、せっかくまとめた抱負なので、気にせずアップする。
どうせ今までだってずっとスロースターターだったし、追い風が来るタイミングは人それぞれなのだ。
いちいち人と比べず、見てくれている人の存在や自分の可能性を信じて、新たな執筆・労働人生へと漕ぎ出したい。
ス ロ ー ス タ ー タ ー 上 等 !