退屈しない
山口百恵の歌で『碧色の瞳』というものがある。この時点で英文学に造詣が深い人ならばピンと来るのかもしれない。作詞は阿木耀子なのだが、印象的な台詞パートで「嫉妬は碧色の瞳をもっているという言葉を知っていますか?」と語りかけてくる。私はこの言葉の意味がてんで理解できずにいた。
後年シェイクスピアの『オセロー』に「嫉妬は緑色の目をした怪物」という表現があり、英語圏においては慣用表現にもなっているらしいことがわかった。と、ここまでならただのトリビアで終わるのだが、ここで余計な閃きが働き、別の歌を連想してしまった。杏里の『CAT'S EYE』だ。
杏里の『CAT'S EYE』もサビでやたらと「緑色に光」っている。作詞は作詞家の三浦徳子とある。三浦氏の作詞した歌である宮里久美の『背中越しにセンチメンタル』にも「瞳に緑のパワーが走るの」という歌詞がある。この曲は『メガゾーン23』というバイクがロボットに変形するアニメの主題歌だ。故にタイトルの「背中越し」とは想い人のバイクの後ろに乗っている情景を表している。「スピードあげたら二人の世界は近くて遠くなる」とあるように、バイクで加速すると会話もできなくなる。そこで感傷的になり、瞳に「緑のパワー」つまりは嫉妬を帯びるということだったのか。
『碧色の瞳』から始まってシェイクスピアや杏里を経由して、『メガゾーン23』の主題歌の歌詞の読解に至ってしまった。なんの利益も生まないことかもしれないけれど、知識があると世界は瑞々しく発見にあふれて、退屈しない。