時空と私の往復書簡
「58」
ホテルから出たところに停まっていたタクシーのナンバー。
私は、これに発動した。
私は易学を学んでいます。
易とは、東洋の学問の一つで、帝王学ともいわれます。
色々な読み方もできますが、時空が私に発するメッセージを受け取り、読み解くということが面白くて、私は学び続けています。
これは、2泊3日の易経合宿へ行った時のおはなし。
【易 注釈】
八卦の象徴
兌(だ) 沢、湧き出てくる泉、天真爛漫な少女のイメージ
巽(巽) 風、しっかり者の面倒見のいい長女のイメージ
易経58番目の卦 兌為沢 兌が2つ重なる卦 強い兌、兌の強調
※名前は仮名です
7月7日。七夕の節句。
私は赤い列車に乗り、海岸線を目指す。
場所は、三浦海岸。
これから易の64卦を3日間で学ぶという濃密な合宿に参加する。
引越しして半年ほどの私は、知り合いもまだ少なく、今日集まるメンバーは、講師以外は初対面だった。
駅で待ち合わせ、お昼ごはんにお寿司をいただき、ホテルに荷物を置いたら、早速、課外授業。
海岸へ行き、海に入ったり、泳ぎたい人は泳いでもいいですよ。という時間。
謎。
事前に合宿の詳細をもらっていたのだが、こういった謎の時間がちょこちょこ挟まっている。
そして、私は、こういう、何の時間?というのが心配になるタチだ。
何をするんだろうとメンバーとともにホテルを出た。
「58-58」
出たところに停まっていたタクシーのナンバー。
私はこれに発動した。
時空からの押しつけ。
58という数字を与えたよ、あなたはどうする?と時空に言われた瞬間だった。
易には64卦あると先に書いたのだが、順番が決まっている。
なので、58番目の卦というのが存在するのだ。
私はまだ、番号と卦が一致していないので、海岸に着いてから58番目の卦を調べた。
「兌為沢」
私「こんにちは、時空。私は今日から三浦海岸へ易経合宿へ学びを深めにきました。どうぞよろしくお願いします。先程、58という番号を与えてくれましたね。これは兌為沢の卦でした。天真爛漫な少女の気持ちでいきなさいということでしょうか。あぁ、そういえば、参加表明した時に、自己紹介を書き込む場がありました。そこに、八卦で自分を表すと?という質問があり、私は【兌に憧れる巽】と書き込んだんです。自分のことって自分が一番わからないなぁと思い、お友達に聞いてみました。同じく易を学んでいるYちゃんから【巽をまとった兌だから、たまにはその着ぐるみを脱いでね】と言われたんでした。そういうことでしょうか。そういうことですね…」
時空「…」
そう解釈をした私は、少し、自分の巽を脱いでみる努力をしようと小さく決意をした。
なんとなく、浜辺で遊ぶ時間が流れ、その時はいきなりやってきた。
主催者のSさんが、
「64卦を順番に海に向かって叫びましょう」と言った。
ええええええええ
なにそれぇぇぇ
いやだ…いやじゃない?なんのために?
なるべく存在感を消して、やらなくていい方法はないか。
…そんなものあるわけない、その場には8人しかいない。
と、思ったら、
先生が打ち上がった流木を持ってくる。1mくらいの長さで、先が巻いている、まさに魔法の杖的なやつ。
「こんなのあった」じゃねぇ。
いつもなら、男って、長いもの、大きいもの好きだよね!冒険したいもんね!と微笑ましく見られることも、今じゃない感。
当然かのように、これを持って叫びましょうの流れがやってくる。
ああああああ。
トップバッターに先生。断るわけもなく、スムーズに始まる。優しいかな、1/3くらい読み上げてくれた。
次の人ー。
えええ。挙手制?辛くない?やりたいですの表明辛くない?
やらずに終わることはなさそう。
というか、もう試されているように感じる。
時空からの58のお告げに。もう、時空が押し付けてきたものは、お告げに格上げ。
はい、と手を挙げたのは、端に座っていた男性だった。と思う。何となく端から順番に行く空気ができた気がする、よしよし。
いや、よしよしとか、思ってる場合じゃない。と考えながらも、海に向かって、ただ卦を叫ぶ。そう、ただ声を出しているだけ。
意を決して立ち上がる瞬間が来る。
時空からの押し付けが来たって、その通りに行動しないといけないというわけではない。時空からのメッセージは、あくまで、自分が受け取ったものであって、その次、自分が行動するか否かは、自分で決められる。
決められるのに、私の中には、そうしないという選択肢はない。
そのくらいに易を信頼しているからだ。易が、時空が、きっと連れて行ってくれるその先を信じている。それを楽しめることも。いや、違うかな、楽しんで選ぶということも、きっと時空は知っていると思っているから。
私「なぞの杖を持ち、64卦を海に叫んでみました。いや、もうやるしかないなと思ったんです。やるときは、やる女でした、私。多分。私の巽は、少しは脱げたでしょうか。と言ってる時点で脱げてはないのでしょうか。勇気を出したのには、間違いないのですが…人には、得意不得意があるものですね。躊躇せずにできる人もいる…すごいなぁと思います。大きい声出して、スッキリしたね!って言ってました。確かにそうなんだけど、私はまだまだのようです。兌、やれたんでしょうか…」
時空「…」
午後から、一コマ講座があるので、ホテルへ戻る準備をし始めた。
「私、やっぱり、泳ぎたいので泳ぎます!みんなは戻っててください」と言って、足早に着替えに行ったのは、MJだった。
ホテルに戻る道中で着替えてきたMJとすれ違った。楽しそうに笑い、ひらひらとワンピースを揺らしながら、海へ向かって歩いていく。
あぁ。兌だ。一人、晴れてもいない三浦海岸の海で、これから彼女は泳ぎに行くというのだ。強い。兌なのに、勇者感もある。すごい。私にはできない。
15時からの講座の準備をしていると、MJが戻ってきた。
!?!?
温泉まで入ってきたの!?この短時間で!?
私は、あっけにとられるばかりだった。いや、MJは何一つ悪いことなんてしていない。講座の開始にはもちろん遅れてないし、自由時間に自由に過ごしただけで、私のかたい頭の範疇の行動なだけ。でも、それは、気づき、学びの瞬間でもあるのだ。
易では、八卦に8様の自然の象徴、色、数字、季節、人格、キャラクターなどを当てはめている。
天地自然の間に生きる人は、このすべての要素を持ち合わせ、それを出したり出さなかったり、意識せずとも出てしまったり、何をしても出しにくかったりするという世界観を持つ。
私は、私の持つ「兌」が出せる場所が限定されていると認識している。それを知っているYちゃんだから、「たまには着ぐるみを脱いでね」と言葉をくれたんだと思う。
でも、どこでもできるわけじゃない。
でも、どこでもできるわけじゃないと、世界を閉じてしまうこともしたくないと叫ぶ私もいる。
私「出会ってまだ数時間なのですが、自分の想いに素直にふるまう人が現れました。思い返してみても、やっぱりあのタイミングで、一人、泳ぎたいから泳いでからホテルに戻ります、とは、私は言えない気がします。もし、泳げたとして、時間に追われることを知っていながらも、温泉に浸かる選択を取れなかったと思います。時空は、ここから受け取れといっているのですか。先生と話していて、58の発動は、このMJの兌との出会いだと。そういわれるとそんな気もしてきます。あぁ、杖をもって叫んだのが、すごい昔のようです…そうふるまうことはできないけれど、その兌を一滴、自分に落とすのできる合宿になればいいなぁと、そんな気持ちになってきました。夜が更けてきました。おやすみなさい。」
時空「…」
返事はなかったが、
「それでいい」って言われた気がした。
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