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日没を見た/『aftersun』の感想
『aftersun/アフターサン』を観た。
去年話題になっていて、パンフレットもZINEのようでおしゃれだと盛り上がっていたのを覚えている。
しかし、私はそこまで興味が引かれていなかったのだが、今月になってアマプラに配信がくるというので「この夏絶対観るべき!」みたいなコメントとともにシェアされていた。
ちなみに私はこの手の情報についてツイッターで収集することが9割である。
去年この自身のnoteで夏映画を紹介したが、今年もあらたな夏映画のウォッチリストでも作るかと思っていたところでタイミングよく配信され観ることになった。
はじめてこの作品のポスターを目にしたときはホラー映画かと思っていたのだが、実際のストーリーはホラーではないが時折“死”をよぎる瞬間があった。
若き父は夏休みに娘とリゾートへ行く。
楽しいバカンスのはずなのに、どこか不安定でそれでも非日常を楽しむ親子の姿が映る。
娘のソフィが当時の父親と同じ歳になって、大人になった自分の視点からかつて録画したビデオテープを再生していくのだが、他人の思い出を見ているのにあたかも一緒にいたような、でも観る側として心配になるような部分もあったり、終始“楽しいバカンスの思い出”ではないのだ。
ちなみに外国なので余計に心配してしまうのだが、ソフィはけっこう父と別行動する。
女の子がリゾートの敷地内とはいえひとりで歩いているのはさらわれて襲われてしまうのでは、と内心ハラハラしてしまった(アメリカドラマの見すぎ)。
序盤で出会った大学生らしき年上の若者たちに混ざってみたり、ゲームコーナーで競ったマイケルという少年とふたりきりのプールでキスしたり、そういうちょっと背伸びしたような体験が、まだ11歳の少女が大人の入り口に触れた瞬間だと思っている。
父はソフィが自衛できるようにと手をつかまれたときに振りほどく練習をさせたり、大人になっていく過程でキスをしたり酒やタバコ、薬など絶対に触れる部分をやめておけといわず、なんでも話してほしいというあたりが娘に寄り添う父として描かれていた。
この作品でも評価されている点だが、子どもが小さい頃に離婚してしまった父親は、女関係がだらしないとか、酒や薬に溺れているとか、借金があるとかろくでもないイメージが強かったのに対して、ソフィと父は良好な関係であるように見える。
リゾートに来て間もないとき、父は元カノと復縁したようなことを話していて、ソフィの母のほかに女性がいることがわかっていたが、何日も時間を作って娘と過ごして優しい父だった。
しかし、これだけ限られた時間を大事に過ごしているように見えて、父が死にとりつかれているというのがこの作品の見せどころであると思う。
それに気がついたのは、海に入ってソフィが落としたゴーグルを拾おうと海の底に向かって潜っていくシーンだ。それから、ビデオテープを回してソフィが、パパは免許はないけどどこかでダイビングをしている、といったところで、死んでしまうのでは? と思わせている。
ソフィが誕生日を祝おうと周りの観光客にサプライズを手伝ってもらって歌を歌っても心からの笑みではなかったり、別行動になったときに海へ入っていくところもそうだ。
極めつけはバカンスの終わり、ベッドに座りながら嗚咽するほど泣いているシーンで、ソフィからもらったポストカードには「パパ大好き」と書かれていたので感動して泣いているのかと思いきや、あれはきっと死をにとりつかれた自分と、そんな自分を愛してくれている娘いることのあいだでせめぎあって泣いていたのだと感じた。
つくづく私はこういう暗さの垣間見える作品が好きなのだと思った。
おそらくこれは、高校生から大学生のあいだに近代文学を読んでいたことによるものだと思う。
どうしようもない無頼漢たちの物語、あの報われないもやっとした雰囲気が当時の私はめちゃくちゃいいと思ってのめり込んだものだ。
フィルマークスなどでレビューを見ると、複数回視聴すると理解が深まるというコメントがいくつかあったので、そのうちまた観てみようと思う。