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くちなしの花/渡哲也



私が幼少期の頃に今は亡き父が歌ってくれた昭和の名曲たち

当時の私には歌詞の意味も歌手の素晴らしさも分からなかったので
30歳の節目に思い出とともにつらつらと書き留めていく



くちなしの花/渡哲也

作詞 水木かおる
作曲 遠藤実

父は昔から歌が下手だった
でも歌は大好きだったようで、機嫌が良い時や酔っ払うとよく鼻歌で色んな曲を口ずさんだ

歌詞も一番と二番がごちゃごちゃで
原曲を聞くとメロディもはちゃめちゃだ

それでも子供の私にとっては、それが音楽であり、
今思うと[味]だったのかもしれない


くちなしの花は、任侠映画や刑事ドラマで有名な渡哲也が歌った名曲
今から49年前の1973年に発売された

渡哲也をはじめ高倉健、石原裕次郎など日本の映画シーンを支えた役者たちが
父も含めて当時の男性の憧れの存在だった
インスタグラマーやYouTuberなど一般人からのし上がっていくスターが多い昨今、
高度経済成長期、映画スターたちが民衆の憧れだったと父は言っていた


父が、この曲を口ずさむのは、たいてい風呂だった
幼少期にまだ親と風呂に入っていた頃

思い出されるのは
雑な洗い方のシャンプー、リンスは使わずバッサバサ
長湯できない父と幼少期の私
100まで数えなさい!と台所から叫ぶ母

そんな時に気を紛らわすためか、
風呂に入ってさっぱりして気持ちが良くなったためか、
くちなしの花を歌う父

父の歌うあやふやな音程で覚えた私は、30歳になる今の今までこの音が全て合っていると思っていた

時は進み、サブスクリプションでさまざまな名曲たちが気軽に聞ける時代になった

Apple musicで昭和の名曲というプレイリストをダウンロードし深夜にドライヤーしながらなんとなく聞いていた

今でも色んなアーティストたちにカバーされている名曲や今まで知らなかった名曲たちがたくさんあり、鼻歌まじりで上機嫌だった

そして聞き慣れない渋いイントロから流れたのは
あの日、あの時、父が歌ってくれたくちなしの花だった。

昭和ならではの渋すぎるイントロから始まり、
渡哲也の話すように歌う絶妙な低音
「今では指輪も回るほど」
というセンセーショナルな歌い出し

今は亡き父との思い出が蘇って涙が出てくると思いきや
渡哲也の歌声の格好良さに痺れてそれどころではなかった

話すように歌い、詩の一つ一つを丁寧に歌っている
本気で歌っているとは思うが、それを微塵も感じさせない良い意味での気怠さと、ちょっと飲み屋で気分が良いから歌ってます。のような雰囲気が
平成生まれの私には衝撃で度肝を抜いた

渡哲也と言えば日本酒のCMに出ていたのしか知らず、こんなにも歌がうまいとは知らなかった。
そもそも、くちなしの花の歌は知っていたが誰が歌っているのかも知らなかった。

なんでも簡単に検索できる時代なので若かりし渡哲也を調べたが、そりゃ当時の憧れにもなるだろうし、令和の今見てもイケメンだった

そして何よりも衝撃だったのは
父が歌ってくれた音と原曲が違うこと

ベースの音は大体合っているが、大サビで一番良いところであろう、
「くちなしの白い花 お前のような花だった」
の部分の音が全然違うことに驚き、ドライヤーの手を止めて10回は聞き直した

「パパは音痴だから」
と笑って言う母の言葉が深く理解できた瞬間で同時に笑えた


あの頃の名曲たちも当時ではセンセーショナルだったであろうし
今の流行りの曲もいつかは懐かしい!懐メロ!と言われ若者たちには、知らなーい。と言われる時が来るだろうと思うとなんだか寂しいが
私のように平成生まれが昭和の名曲を聴きながらドライヤーをしている日々もあっていい

令和生まれの若者がいつの日か、ドライヤーしながら平成の名曲を聴いて度肝を抜かれてほしい

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