MBAが終わりました。
イギリスでは夕暮れが日に日に早くなってきました。一年少し前にMBA留学をするNoteを始めたことが最近のように感じられますが、あっという間にカリキュラムが終わってしまいました。
感覚的には「完全にやり切った」というよりは、「できたこともできなかったこともあるな」という感じです。最終学期(厳密には3学期目のEaster Termと最後のSummer Term)と、この一年全体について、率直な感想を書きたいと思います。
最終学期の授業
Easter Termも冬学期(Lent Term)と同様、3つの選択授業があります。それらを含めた授業全体像は以下のような感じでした。
(必修)
・Advanced Strategy (応用戦略)*
・Operations Management (オペレーション管理)*
・Macroeconomics (マクロ経済)*
・Business and Sustainable Development (ビジネスと持続的成長)
(選択)
・Strategies for Energy and Climate (エネルギー・環境戦略)*
・The Art of CEO Leadership (CEOのリーダーシップの流儀)
・Disruptive Technology and Multi-sided Platforms (破壊的技術と多面的プラットフォーム)
・Concentration (集中講義) *
このうち、下記の*をつけた授業については、成績に影響するグループワーク(グループエッセーやプレゼン)があり、そこに割かれる時間が多かったです。結果的に最終学期にも関わらずだいぶ忙しく、正直、前学期のStrategyからどのような形で発展したのかもよくわからないAdvanced Strategyなどは、本当にカリキュラムに必要だったのか疑問が残るところです。では、特徴的だった授業を2つほど紹介します。
The Art of CEO
この授業は他の授業と異なっていて、2コマ/日×4日間連続という短期間の授業です。その名前の通りですが、事前にケーススタディを読み、授業の最初にディスカッションをした上で、CEO等とオンラインで繋いで質疑応答をします。例えばYahoo!のCEOや、NETFLIXの共同創業者が登壇しました。
それぞれの回のテーマは異なっており、一例としてリーダーシップ、リスク管理、ステークホルダーとの向き合い方などがありました。大企業を束ねてきたリーダーでも、自信があるタイプと謙虚なタイプ、人に積極的に頼るタイプと自分自信で判断することを好むタイプなど、多様な形があったことが印象的でした。
Concentration
最終学期には、Concentrationという集中講義を取ることになります。日本のゼミのイメージに近く、計6個の選択科目の組み合わせによって取れるものが異なります。今年は、Finance、Entrepreneurship、Strategy、Marketing、Digital Transformation、Energy and Environment、Health Strategyの7個のConcentrationが開講され、私はEnergy and Environmentを選択しました。
計4回授業があり、毎回ゲストスピーカーが来て、その後ディナーがあります(ディナーといっても学校のカフェです)。全4回の授業終わった後に、グループ単位でプレゼンを行います。Energy and Environmentはテーマの設定が自由だったので、私たちのチーム(インド人、インドネシア人、ジョージア人、私)は、インドでの結婚式市場へのクリーン(再エネ由来)バッテリーの供給ビジネスを提案しました。ざっくりしか知らなかったのですが、インド人は生涯年収の20%を結婚式に使い、80%のインド人は結婚式のためにローンを組むというデータもあるほど、結婚式ビジネスはポテンシャルのある市場です。最終プレゼンは、エネルギーの専門家やVCなどに向けて行うのですが、地に足のついた提案だったこともあり、良い評価をいただきました。
グループプロジェクトとして、1学期のCVP、2学期のGCPはすでに紹介した通りですが、CVPからGCPは、プロジェクトの規模(ケンブリッジ周辺→グローバル)や投下できるリソース(学期期間中→フルタイム4週間)に変化があったのに対し、GCPからConcentrationは、所与の課題へのコンサルティングではなく、自分達で課題を発見・設定する、受動的→能動的という点での発展があったように感じます。(どこまでプログラム側が明確に意図をしているかは分かりませんが。)
その他アクティビティなど
最終学期には、授業以外にも真面目なものからソーシャルまで、色々参加しました。
Japan Forum
直近8月に、MBA、EMBA(管理職向けMBA)、Mfinの日本人+日本にゆかりのある生徒で、新たにCabridge Japan Forumという会議を立ち上げました。このイベントは、「ケンブリッジはテッククラスターと言われるなかで、日本のビジネスと繋いでシナジーを生み出すことはできないか?」という発想から始まりました。
パネリスト候補の方々に声をかけてみると、快諾してくれる方が多く、在英日本大使館やJETRO、Arm(softbankが2016年に買収)、東芝などの組織・企業にご協力いただきました。また、 ケンブリッジの学生にとどまらず、ロンドンで働く社会人の方なども含めて、合計で100人ほどの方に観覧に来ていただき、会議後のネットワーキングイベントも含めて盛況でした。日本語で日本人・日本企業向けに行われているイベントはロンドン等でありますが、今回のような、日本人にターゲットを絞らず、日本とイギリスのコラボレーションに焦点を当てたイベントにもニーズがあることを認識できました。
i-Teams
MBA外とのつながりを作るため、i-Teamsという取組にも参加しました。こちらは、企業の持っている技術の実用化・商用化をサポートする活動で、学部を問わず応募することができます。私の担当になったプロジェクトは、合成ガスの新触媒の実用化で、チーム構成はMBAのほか、工学、マテリアルなど主に理系分野の学生が中心でした。
こんな感じで書くとワクワクするのですが、結果的には途中で離脱をしてしまいました。家族の体調不良等が重なり家庭とのバランスが取れなくなったことと、クライアント(技術者)のモチベーションがあまり高くなく、本人にどうしていきたいのか明確な意思が感じられなかったことが中心です。
ただ、応募をしたこと自体には後悔はしていません。特に日本人だと、一度手を挙げたことは最後まで終えなくてはいけないという意識が強いと思います。一方、1年間の限られたカリキュラムで、尚且つ機会も多いケンブリッジだと、色々なことに手を挙げてみて、面白いと思ったものは続け、役立たないと思ったものはやめるといったような、「一旦手を挙げてみる」考え方の方が得られることが多いと感じました(とはいえ当然ですが、組織の中で特定の役職に就くなど、離脱すると組織運営に大きな悪影響を与える場合は気を付ける必要があります)。
MBAT
以前の記事でも少し触れましたが、MBATはHEC Parisが主催するビジネススクール対抗のスポーツ大会で、パリの少し田舎にあるHECのキャンパスを使って行います。
公式HPによると、15校以上のビジネススクールから計1,500人以上の生徒が集まるようで、かなり盛り上がります。スポーツは、メジャーなサッカーやバスケ、テニスから始まり、綱引きやクリケット、ビリヤードもあります。また、スポーツ以外にも、トリビアやビジネスアイデアのピッチ大会など盛りだくさんです。
この中で私は、ドッジボール、リレー(400m×10人)、ファッションショーに参加しました。特に、ファッションショーではディレクターとして取りまとめ、ランウェイの順番や歩き方を考え、リハーサルを含む当日の段取りを調整し、モデルへの指示等も行いました。当日様々なハプニングも起きた中で、現場で臨機応変に対応する能力がついた気がします。
May ball
最後にMay ballを紹介します。May ballと聞くと5月に開催される球技大会のようですが、実際は6月に開催される学年末の文化祭のようなイメージです。カレッジごとに開催され、夕方に始まり、朝5時に終わります。入場料(中は全て食べ放題・飲み放題)は150〜400ポンドくらいで、200ポンドくらいのところが多いです。
私は所属しているJesus CollegeのMay Ballに参加しました。ケンブリッジとは言え学園祭か、と思われるかもしれませんが、東京ディズニーランド4〜5回分の入場料がかかるのには理由があります。校舎にはプロジェクションマッピングがされ、
空中コースターやゴーカートなど、遊園地のようなアトラクションがあり、
フォーマルホールは装飾がされて映えスポットに変わり、
中庭にはディオールのショーかと思うような展示があり、
ケンブリッジにこんな美味しい店があったっけ?と不思議になるようなレストランが集い、
夜通し続くライブでは、そこらへんのフェス顔負けの盛り上がり方をします。
チケットはケンブリッジの学生でないと取れませんが、特にJesus Collegeはかなり評判がいいので、ぜひ機会があったら行ってみてください。
最終学期の振り返り
2学期目の振り返りの際、最終学期の目標として、学部を超えた繋がりを作ることと、人と比べず自分らしく過ごすことをテーマにしました。
学部を超えたつながりを作る
先ほどご紹介したi-Teamsのチームメンバーに加え、カレッジのフォーマルディナーで隣り合った人と喋ることなどはありましたが、継続的に、深い話ができるような友人を作ることは難しかったです。
その一方で、MBATやJapan Forumなどを通じて、ビジネススクールのメンバーとの関係を深めることはできました。
人と比べず自分らしく
MBATやその後のインターンでは、これまで関心を持っていたものの、関わる機会のなかったファッション分野に飛び込むことができました。
また、今年の春から妻と子供がケンブリッジに来て、一緒に住むことになりました。最初はこれまでと同じようにフットワーク軽くイベントに参加できないことに対して焦りもありましたが、徐々にその状況を受け入れて、置かれた環境でどのようなことができるのか、家族と一緒だからこそできることはないかといったマインドセットに変えていくことができました。
一年を振り返って
せっかくなので、一年全体を通じて、設定していた目標が達成できたのか、振り返ってみようと思います。
ビジネスの現場を知る
→できたと思います。
授業を通して理論やケーススタディを学ぶことも役立ちはしましたが、やはり実践の機会を多く持てたことが大きかったです。特に、CVPやGCP、インターンシップでは、実際に会社と向き合って提案を行う機会をいただき、すんなり受け入れてもらえることもあれば、厳しいフィードバックをいただく機会もありました。当初の体系的に学ぶという目標からは少しずれてしまった印象がありますが、実践的な形でプロジェクトを通して学ぶことができました。
色々な部下をマネジメントできるリーダーになる
→結果はまだ分かりませんが、マインドセットはできたと思います。
英語にハンデがあり、分かりやすいような専門知識もない中で、特に前半は、自分がどう価値を出していくべきか悩みました。この中で、久しぶりに弱者側になる経験をしました。
次第に順応し、どうやってチームをまとめようか、成果を出そうかと考える余裕が出てくると、周りのメンバーへの見え方が変わってきます。例えば、GCPの中で、コミュニケーションはとても得意であるものの、抽象的な議論になるとついていけなくなるネイティブのメンバーがいました。私は自分の英語力に自信がないこともあって、議論の進め方などの抽象的な話をするときには、基本的にパワーポイントに落として説明をするのですが、彼女からはそれによって理解がしやすくなり、とてもありがたかったとお礼を言われました。
今後、「自分はできるのになぜ他の人はできないのか?」という気持ちがもし出そうになったら、自分が苦しんでいた瞬間のことを思い出そうと思います。
技術とビジネスのギャップを埋める方法を学ぶ
→得た知識をどう繋げていくか・・、という感じです。
例えば、技術面ではDisruptive Technology and Multi-sided Platforms、ファイナンス面ではNew Venture FinanceやCorporate Finance、起業についてはEntrepreneurshipなど、要素単位では学び、i-Teamsにも挑戦しました。
ただ、入学前に比べて大きく解像度が上がった自信はありません。おそらく「技術」の解像度が低かったことが原因かもしれません。例えば、AIなのか、モビリティなのか、ヘルスケアなのかによって、対応方法は異なると思います。今後、学んだ要素を組み合わせて、実践に活かしていきたいと思います。
そのほかできたこと
コンフォートゾーンを広げることができたことは大きな収穫でした。例えば、ファイナンスへのアレルギーがなくなり、選択科目を履修したクリエイティブ産業や、新興国市場などにも興味が広がりました。広く学べるMBAだからこその利点を活かせたと思います。
後悔を挙げるとしたら
まずは「What」がブレていたことです。改めて振り返って感じましたが、目標設定が「自分がどうなりたいか」という観点で止まっていて、そのために何をするのかというアクションへの落とし込みが不十分でした。その場その場で臨機応変に飛び込む器用さ・貪欲さがあればそれでも十分だと思いますが、私のようなタイプは、「〜〜のような役割を担う」「〜〜分野のコンペに〜〜回出る」といったような具体的な目標設定をしておくべきでした。
また、ネットワーク構築をもっと積極的に行えばよかったという後悔もあります。特に、教授や他学部とのネットワークについては、結果的に得られたものはあったものの、戦略的に広げることはできませんでした。これは、「What」がブレていたこととも重なります。どのような目標のためにどのような教授と繋がるべきかといったところまでブレイクダウンできていると、もっと効率的に広げることができていた気がします。
これからの話
さて、長々と振り返りましたが、総じて充実した一年でした。今後ですが、縁がありロンドンでもう一年、別分野で学生を続けることになりました。どのような意図でどのような分野を学ぶかといった話は、また別の記事でご紹介したいと思います。
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