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一日一頁:松村圭一郎『くらしのアナキズム』ミシマ社、2021年。②

読了した。なぜ、この本を刊行時に手に取らなかったことが悔やまれるほどの名著。ここから未来が始まる快著とはこのこと。

時間がなくても1日1頁でも読みないことには進まない。

 なんのために、ぼくらは生きているのか、働いているのか。どんな社会で子どもを育て、仲間とともに暮らしていきたいのか。くらしのアナキズムのそもそもへの問いかけは、かならずしも自分の内なる思いや身近な他者の生きる日常が既存のルールや理想と一致しない現実をあぶりだす。そのとき、ぼくらはなにに真面目であるべきなのか?
 だれかが決めた規則や理念に無批判に従うことと、大きな仕組みや制度に自分たちの生活をゆだねて他人まかせにしてしまうことはつながっている。アナキズムは、そこで立ち止まって考えることを求める。自分たちの暮らしをみつめなおし、内なる声とその外側にある多様な声に耳を傾けてみようとうながす。その対話が身近な人を巻きこんでいく。「私たちそんなことやるために生きているわけじゃないよね?」と。
 ぼくらはときに真面目であるべき対象をとり違えてしまう。大切な暮らしを守るために、日々の生活でいやなことにはちゃんと不真面目になる。ルールや「正しさ」や国家のために一人ひとりの暮らしが犠牲にされる。それこそがぼくらの生活を脅かしてきた倒錯だ。
 ひとりで問題に対処できなくなるまえに、一緒に不真面目になってくれる仲間をみつけ、そのささやかなつながりの場や関係を耕しておく。それが、くらしのアナキズムへの一歩だ。

松村圭一郎『くらしのアナキズム』ミシマ社、2021年、227-228頁。

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氏家 法雄 ujike.norio
氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。