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【255】ファビオ・ルイージ指揮トーンキュンストラー管弦楽団によるブルックナー交響曲第8番初稿の演奏は素晴らしかった!!!!           それからマタチッチさんN響の8番も物凄かった!!!!  2024.11.05


1 180度変わった初稿とルイージさんの印象

  前々回【253】の記事では、ルイージさんN響によるブルックナー交響曲第8番初稿の演奏について、あまりにも退屈で途中で眠ってしまい椅子から転げ落ちてしまったという話をしましたが、その記事の最後に、今回取り上げるトーンキュンストラー管弦楽団との演奏による8番初稿を少しだけ聴いたら驚いたことにとても良かったので、ルイージさんへの評価、稿の問題への評価については、後日、改めてこの演奏をゆっくり聞いた後で論じます、と書きました。

 早速、今日改めて全曲を聴いてみました。
 
 ファビオ・ルイージ指揮 ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団
 2022年8月19日 グラフェネッグ城ヴォルケントゥルムにて収録のものです。

 ちなみに演奏会場のグラフェネッグ城というのはウィーンの西方60kmの所にあり、広大な公園はお城を中心とした複合施設となっていて、その多数の施設の中に「ヴォルケントゥルム(雲の塔)」という野外ステージがあり、トーンキュンストラー管弦楽団はヴォルケントゥルムのハウスオーケストラなのだそうです。

 そんな素晴らしいロケーションの中で行われたコンサートですが、聴いてみて初稿の印象がN響との演奏とは180度と言ってもよい位変わりました。

 8番の初稿面白いですねえ!! 
 ルイージさんいいですねえ!!!!

 第2稿が悲劇的な印象を受けるのに対し初稿は賛歌という印象を受けました。
 全編豊かなメロディーに溢れているのです。
 3番の初稿に触れたときにも思ったのですが、ブルックナーという人は実に豊饒なメロディーの宝庫のような人だったんだなと思いました。

 ああここはこう来るのかと全曲通してスリリングであっという間におわってしまいました。
 
 もちろん居眠りする隙などありはしませんでした。

 実はその後ブロムシュテットさんパリ管の8番第2稿を聴いているのですが、なんかシンプル過ぎて物足りなくなっている自分がいます。

2 再評価

 前回と同じ項目で評価を見直していきましょう。

1)稿の問題

 2稿とは表情が全く違う、豊饒なメロディーの宝庫。
次に何が出てくるかスリリングでほんとうにおもしろい。
 第2稿とどちらがよいかなどは簡単には言えないが、初稿はあってよい、埋もれさせてはいけない。

2)指揮の問題

 ルイージさんの指揮は素晴らしい。メロディーが次々に現れる複雑な初稿を見事に把握し切って、自然で大きな起伏を作り出している。
ブルックナーの音楽には向いていないと言ったことは撤回させていただきます。

3)4)オーケストラの問題、宗教性の問題

 トーンキュンストラー管弦楽団は、実力はそれほど高くないというような記事を見かけましたが、ブルックナーと同国オーストリアの歴史のある楽団であるということで、ブルックナーの音楽に対する愛情と理解、共感は指揮者・楽員全員が共有しており、その音色は聴いた瞬間からブルックナーの音でした。
 そこには音楽をする沸き立つような歓びがありました。
 
 オーケストラと舞台が変わっただけで、まさに180度印象が変わってしまうというのは驚きでした。

 ということはN響が悪いのか?
 気になって、古いですが、1984年のマタチッチさんとの演奏を探してきて今聴いているのですが、この演奏はすごくよいです。
 間違いないブルックナーの巨大な世界が展開されています。

 熱演、快演、聴いていて手に汗握る壮快かつ豪壮な演奏、間違いなくこれ8番のベストテンの上位に入ってくるのじゃないかな。

 ということは、N響の力不足とは言い切れない。
 この演奏では、ルイージさんとまだわかりあえていなかったのだろうか?

3 終わりに

 というわけで今夜は、ルイージ、ブロムシュテット、マタチッチさんと8番の3連続をしてしまって疲れました。

 マタチッチさんは改めて聴くことにして途中でやめて、そろそろおやすみしようかと思いましたが、この演奏は止めることを許してくれず、目は冴えるばかり・・・
 
 結局最後まで聴き通してしまいました。
 フィナーレも凄かった。

 こうしてマタチッチさんとか聴いていると版の問題とかどうでもよくなりますね。
 良いものは良い。それだけだけだと思えてきます。

 これをいうのもなんですが、ブロムシュテットさんパリ管の演奏がテンポ設定なども含め私的にはあまりピンとこなかったのも9番がよかっただけに期待外れの驚きでした。

 ところで8番のベストの演奏ですが、先ほど気になって確認してみましたが、僕にとってのベストの座はレミ・バローさんの奇跡のブルックナーで変わりはありませんでした。

4 補足:次の日に考えたこと。

 一晩明けた朝になって、ブロムシュテットさんパリ管の8番について考えてみたことなのですが、8番の演奏は少しテンポが速すぎ、急ぎ過ぎなのではないかと私は感じるのです。

 けれどそれはこの演奏に限ったことなのだろうか、そんな疑問がわいてきて、ブロムシュテットさんの7番や5番、4番などをチェックしてみました。  
 すると、曲によって違いますが、一体に速めなのです。
 速すぎるとまではいえませんが、ほんの少しだけ速い、それがブロムシュテットさんの本来のスタイルで、私的にはもう少し悠然と構えて欲しいなと思うところがあって、それが今まであまり評価を高くしていなかった理由だったのだということに気付いたのです。

 何を言いたいかというと、ゆっくりとしたテンポを刻む今回の9番の方が特異なのかもしれないということで、その違いは老境に差し掛かったゆえの変化ではないとすると、会場がザンクトフロリアンであったということが影響していたのかもしれないという仮説です。

 きっとそうに違いないと思いつつ念のためブロムシュテットさんの他の9番を検証してみると、
 今回のバンベルク版  1:01:46  2024.7.11
に対し、
 トーンハレ版     1:01:21  2014.11.03
 ゲヴァントハウス版  0:58:46  2011.11.24  
ということで、演奏時間にさほど大きな差異はなかったのです。
 そして聴いてみるとどれも悠然とした歩みの名演なのでした。

 ということは、残るのは曲との相性の問題です。

 困ったことに、ブルックナーの場合、一人の指揮者が全部の曲にいいということが無いんです。

 この人なら間違いない、これが決定版だと思って全集を買ってみたものの、結局そのきっかけとなった演奏以外は、それほどよいと思えず、ほとんど聴かなかったりすることを何度繰り返したことか。

 その結果、今、私の手元には、8種のレコード、CDの交響曲全集(又は主要交響曲集)があります。

 そのような一人ではカバーしきれないような音楽の大きさというものがまたブルックナーの不思議であり魅力なのだとも思えるのです。



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