【211】日本で一番有名な音楽”破壊神”のテーマの作曲者「伊福部昭」さん、そして物語の原作者「香山滋」さんのこと 2024.6.2
*タイトル写真は左が伊福部昭さん、右が香山滋さんです。
1 伊福部昭さん作曲の破壊神のテーマ
前回芥川也寸志さんの記事で予告した伊福部昭さんについて書いてみます。
まずは聴いてみてください。
いかがですか?
日本の作曲家が作った音楽で、日本人なら誰もが知り、世界的にも今や最も知れ渡った音楽といったらこれではないでしょうか。
この曲を作曲した伊福部昭さんは前回紹介した芥川也寸志さんの師匠であり、也寸志さんに大きな影響を与えた人でもあります。
前半の有名なテーマのあと、4分45秒から始まる抒情的な旋律を聴けば伊福部さんが芥川也寸志さんに与えた大きな影響がよくわかると思います。
それにしてもこの有名な ”破壊神”のテーマ、何度聴いてもゾクゾクします。
映画を見ていると、この音楽がシーンが替わると途切れてしまうのが残念で、無限に聞いていたいと欲求不満になるのですが、こうしてきちんと演奏していただけるとスカッとします。
このゴジラのテーマですが、西洋のクラシックでは有得ない多くのユニークな作曲上の秘密があります。
この秘密について、一体どこが凄いのか、詳しく解説している下の動画を見つけました。
これ、ああそうなんだと、感心するすごく面白い解説で必見です。
2 一番怖い:初代ゴジラの衝撃
ゴジラはご承知のように初代ゴジラが大ヒットしたことで、シリーズ化されてハリウッド製ゴジラまで現われ、最新作『ゴジラ-1.0』までつながっています。
「歴代のゴジラの中で、最もリアルで最も怖いのはどれか?」
色々意見はあるでしょうが、私は第1作をおいて他にないと思います。
東京を火の海にしてそそり立つゴジラの怖さ、必死に戦い、逃げ惑う人々のリアリティ、白黒で画質が粗いことがむしろリアリティを増して、本当のニュース放送のように思え、自分も逃げなきゃと思わされる程でした。
私は夜のビルの谷間を横切るゴジラの姿を夢に見たことが有りますが、圧倒的に怖かったですね。
初代ゴジラは本当に夢に見るほど怖かった。
ゴジラ第1作のこのリアリティを70年前の1954年に作り出したというのは驚くべきこと、凄すぎます。
第1作のゴジラの初登場シーンには思わず震えました。
上の動画はリンクが切れたので別な動画に差し替えましたが、歴代ゴジラの中で第1作の異質な凄みがわかると思います。
思うに第1作ではゴジラは確固たるドラマの背景の中にあり、決して主役ではなかったのです。
2作目以降はゴジラというキャラクターの人気に頼ったエンターテインメントになってしまったということではないでしょうか。
シンゴジラ、ー1.0では初代の怖さに回帰しようとしているように思えますが、あまりに緻密な画像になることで、逆にリアリティが薄れてしまうというようなことが起きてしまっているのかというような気もします。
初代ゴジラの怖さを見せつける下の動画もご覧ください。
3 「ゴジラ」の原作者 香山滋という人
初代ゴジラには原作があり、それを書いたのが香山滋という人であることはあまり知られていないように思います。
戦前から戦後にかけて、いわゆる文壇の本流ではなく、推理小説、科学冒険小説、怪奇幻想小説等の分野には、海野十三1897年生まれ、小栗虫太郎1901年生まれ、香山滋1904年生まれ等の異端の系譜が存在していました。1889年生まれでドグラマグラで有名な夢野久作、1902年生まれの横溝正史、1894年生まれの江戸川乱歩などもこの系譜に連なるものと考えても良いかもしれません。
香山滋さんは、中学時代に横山又次郎『前世界史』を読んだことをきっかけに、恐竜をはじめとした古生物に魅せられて独学で地質学や古生物学を学んだそうで、それを生かした空想小説、秘境探険小説を多数書き、その中で多くの珍獣、怪獣を登場させていました。
デビュー作の「オラン・ペンデクの復讐」ではスマトラ島に居るといわれる伝説の類猿人「オラン・ペンデク」に出合う話を描いています。
ちなみにオランウータンは現地語でオランは人、ウータンは森なので、「森の人」という意味になるのだそうであり、ペンデクは背が低いという意味なので「背の低い人」という意味になります。
オランペンデクを始め、香山さんの描く秘境物はかなり妖しい独特の雰囲気を持っています。私は古本屋なので見つけると買い何冊かは読んでいますが、中でも「妖蝶記」はゴビ砂漠の中央にあるネメゲトウ盆地の中の「アルタン・ウラ」という「龍の墓」からやってきたモンゴルの遊牧民と思しき男が持ち込んだ巨大な瀕死の蝶が蠱惑的な美少女に化身するという荒唐無稽なお話なのですが、その妖美さと怖さにはドキドキさせられたことを思い出します。
思うに、小栗虫太郎さんの「人外魔境」など世界の秘境を舞台にした小説が自然に生まれていたというのは、やはり今のように国内だけに閉じこもるのでなく、世界の中の日本であり世界がもっと身近であった戦前の空気だから有得たことだったのかもしれません。
ゴジラはその他の香山さんの小説とは違って妖美という要素は全く無く、科学小説的な部分が強いように思います。
ゴジラは香山さんのファンであった東宝プロデューサー田中友幸さんに、1954年に『G作品』(ゴジラ)のストーリー作りを任されて、原案を作成提供したのだそうですが、毛色が変わっているのは、すでにある程度基本構想自体は有ってそれに基づいてストーリーを書いたからということなのかもしれませんね。
4 小説版ゴジラ
小説版『怪獣ゴジラ』はを映画化後に刊行されています。
私が育った家にはこの小説ゴジラの本があり、私は映画を見る前に原作の方を読んでいました。
その本には映画のいくつかのシーンのカットが挿入されていて、それを見ては映画についてどんなだろうと空想を逞しくしたものでした。
小説の中で、すごく印象に残っているシーンがあります。
ゴジラがまだ姿を現す前に、硫黄島の南の海上で船舶の原因不明の事故が次々と発生し、遭難地点に近い大戸島(架空)では謎の災害が発生するのです。
急遽派遣された調査団は島で巨大な放射能を帯びた足跡を発見するのです。そして、その足跡の中でピチピチ跳ねるあるものを見つけた調査団の山根教授は
「あっ、トリロバイトだ!」
と叫ぶのです。
私はその頃まだ小学生だったと思いますが、トリロバイトが三葉虫のことであることを私はそのとき初めて知り、それは今も記憶の中に深く刻み込まれています。
生きた三葉虫がゴジラの足跡の中にいたというこのエピソードはその後の期待を高める名シーンだったように思います。
5 天才科学者芹沢博士VSゴジラ
初代ゴジラのストーリーの中心は、自らが作り出してしまった最終兵器:オキシジェント・ディストロイヤーが武器として戦争に使われるのを恐れる天才科学者芹沢と、彼が密かに恋する山根恵美子、芹沢の親友で恵美子の交際相手尾形との人間模様にあります。
ゴジラによる大破壊を目にし、ゴジラを倒す可能性があることを知りつつもオキシジェント・ディストロイヤーの人類に与える危険性から、これを隠し続ける芹沢は恵美子にだけはその存在を話してしまう。恵美子は芹沢との約束を破ってそれを尾形に話してしまう。尾形はゴジラを倒すためにそれを使ってくれと必死に芹沢に懇願する。
ゴジラの破壊の凄惨さに、ついにオキシジェント・ディストロイヤーを使うことを了承した芹沢は、それを設置するために潜水具を付けて自ら海に潜るのです。
そして、その設置後、芹沢は脱出しようとせず、ゴジラと共にわが身とオキシジェント・ディストロイヤーの技術を抹消することを選ぶ。
愛する恵美子は尾形を愛しており、自分との恋が実らないことを知りつつ、恵美子を含む人々の幸せを護るために自分の命を投げ出すこの天才科学者芹沢の葛藤が胸を打ちます。
そんな人間たちの想いなどとは無関係に、何を考えているのか全く解らないままに破壊の限りを尽くす破壊神ゴジラの対比が初代ゴジラの凄さだったと思います。
*ゴジラや伊福部さんや香山滋さんなどについてウィキペデイアなどを参照させていただきました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?