見出し画像

『好き』が生むブランド力|クリエイティブの核心に迫る本の気づき

これはいつもは利用しないネット書店で、どこかで紹介をしようと思いますがコンテキスト・デザインという書籍を購入した時に(なぜかそこでしか売っていないため)、デザイン関連でいつもはあまり目にしない書籍も色々と売っていて、思わず購入をした本です。

「ビジネスパーソンのための」と書いてあるので、これまでクリエイティブから離れた場所にいた僕にとっては、とても興味が惹かれた本のタイトルでした。


1.優れたクリエイティブを作るための「直感」

この本がとてもおもしろいと思ったのは、脳についての解説があったところです。大脳新皮質と大脳辺縁系という脳の構造を使って、優れたクリエイティブとはどのように脳に働きかけているのか、というこの説明がとても興味深いところです。

まず広告と販促の説明がありますが、
・広告(Advertising):ブランドを好きにさせること
・販促(Sales Promoton):商品をたくさん売ること
で、広告は生物学、販促は心理学と本書では説明され、広告をつまりはブランディングとして解説がされています。

そして「すぐれたリーダーはどうやって行動を促すのか(TEDのサイモン・シネック)」において、優れたリーダー(広告の世界ではブランドと読み替えて)の情報発信の仕方を、ゴールデン・サークル(What-How-Why)を用いて説明しているという話がとても腹落ちをします。このWhat-How-Whyとは、
・What:自分がしていること(事実):一番外側の円
・How:どのようにしているのか(手法):中間の円
・Why:なぜやっているのか(信念):中心の円
という円で捉えた場合、普通の企業が広告を作るときはたいてい、What→Howを語るだけで、Whyを語らない一方で、Appleのようなブランドは、まずWhyを語り、その後にHowやWhatを語るようです。

仮にWhat→Howという普通の企業がおこなった広告については、人間は入ってくる情報について、
 What(事実)→大脳新皮質(合理的な思考や言語を司る)
 How(手法)/Why(信念)→大脳辺縁系(感情、信頼、忠誠心などを司る)
で処理をします。また大脳辺縁系は人の「行動」を司りすべての意思決定を行うが、言語能力はないという脳の機能的な特徴があります。

そのために普通の企業が作った広告による情報である「一番外側から内側へ向かうWhatからはじめるコミュニケーション」では情報理解を大脳新皮質でできるものの行動にはつながらない(つまりは受け手は動かされない)ということになります。

その一方で、「中心であるWhyから外側へ向かうコミュニケーション」では行動を制御する脳の部分と直接コミュニケーションでき、具体的に動きます。そして合理的な説明や理解は後付けででき、直感的な決定はここからうまれることになります。

つまり優れたクリエイティブをなぜ優れたクリエイティブになるのかを言語的に理解することは限界があり、広告が素晴らしいと思うのは「大脳新皮質」でなく、「大脳辺縁系」。

感情を論理的に言語で説明することは、そもそも不可能。理解に訴えるのではなく「感情に訴える」ことが重要であり、自分という人間の中に、本人自身でも説明できない生き物(大脳辺縁系)を飼っている。そして実際のところ、その人間の行動はその生き物が繰り出す「感情」に支配されている。

こんなことが書かれています。
ビジネスパーソンだと本当に論理的に考えます。プレゼンテーション資料を作る時も。。。でもこのやり方だときっと「好きだ」と思わせる、これやりたいな、と思わせる資料にはならないのだろうなと思います。

そういえば社内でも提案書レビューをしているとこうしたいという信念が最初にかかれて、で具体的に何を、どうすると書いている提案書は通るなって思うし、実際に通ります。

提案書でなくとも最近よくデザイナーのレビューをしますが、なんとなく変だなと思いながら言語化できないからままいいっか、と通してしまったものはたいてい誰かからも指摘がきます。言語化ができないけど立ち止まったというその直感が、大脳辺縁系が反応していたのかもしれません。この大脳辺縁系の気づきが、すなわち「直感」なのだと思います。

2.「好き」ということの重要性

そのような脳の仕組みの話が出てきた後に、「好き」という感情の重要性がさらに説明されます。

特に気になった解説部分には次のようなことが書かれています。「好き」があつまって「共感」されて、それが大きな波になるということだと思います。これまでビジネスで「好き」という感情を意識したことがない中で、これを意識することの重要性が本当に繰り返し述べられています。


「好き」は同じ「好き」を共有するほかの人間と新しい結びつきや連帯をつくるものとして機能する。これを一般的に「共感」と呼び、人間の脳に内蔵された「好きというプログラム」は「共感」を通じて「連帯」を作り出す機能を持っている。そして「好き」に対する「共感」は、時に非常に大きな力を持つ。
そして「好き」から広がる共感も、その出発点は「個人的な好き」というちっぽけな感情に過ぎない。広告もAppleやNikeなどのブランドは、自己紹介はせず、自分が愛すものについての語る。
iPhoneやスターバックスなどは、ブランドの(多くは創業者の)「好き」を明快に表明する、そしてその「個人的な好き」に「共感」があつまる。

広告は人間の脳に仕込まれた「好きというプログラム」の応用技術である。つまり広告は、生物学。一方の販促はどちらかというと心理学に近い。

「好きにさせる」「愛される」ことこそがブランディングの本質。心を焼き焦がすほど鮮烈に、つまり感情的に残すことこそが、本当のブランディングだ。
縦軸を「尊敬(Respect)」横軸を「愛(Love)」とするグラフに企業やブランドをマッピングすると、AppleやNikeは愛され、尊敬されているブランド。日本の企業の大部分は「尊敬はされているが、あまり愛されていないブランド」
広告は「好告」である。「自分自身」についてではなく、「自分が好きなもの」について語ること。これによって、人間の「好きというプログラム」にダイレクトに働きかけ、人を動かす技術。

ブランディングとは「生物学」と述べているところに、深さを感じる内容です。
ブランドDNAの書籍などにまとまっている内容は、つまりは好きになってもらうために自分の好きなことをまとめるための思考整理術、とも捉えられるのかなと思いました。

3.ブランディングのコツ

ブランディングのコツが3つ整理されています。最後の地声で語ること。自分の企業らしい言葉遣いってなんなのか。まさにVoice & Toneの重要性がここでも述べられている気がします。

  1. 「ちょっといい未来」を語れ(「過去における、ちょっといい未来」よりも「現在における、ちょっといい未来」の方が説得力がある)

  2. 個人的に語れ(個人的に感じたことは、たぶん多くの人が感じていること。まず「個人的な好き」から始めてみる。その向こう側に大きな未来が待っているかもしれない)

  3. 地声で語れ(人間と同じく、ブランドにもその個性を示すブランドボイスが存在する。「自社にしか言えないこと」ではなく、「自社の声で語ること」が重要)

4.気づきとまとめ

これまでブランディングの本などを読んでいると自分との対話をさせられることが非常に多かったのですが、それがなぜなのか、自分が好きなことは何なのかをまずは明確にせよ、という意味がこの本ではわかりやすく書かれていたと思います。そして大脳辺縁系に訴えることの重要性や、自分の好きと感じるということ、あとは最後に方に寝ることの重要性(寝ているときも脳は働く、意識外にアイデアが蓄積され、リラックスしているときにそのアイデアが意識のもとに来る)など、なにか新しい気付きをえた気がします。
#寝ることやリラックスの重要性は、また別の有名な本でも述べられていたので、また紹介できればと思います。

この本を通じて、クリエイティブの核心である「好き」や「共感」の力、そして感情を大切にしたブランディングの重要性を改めて実感しました。ビジネスにおいて論理的に考えることももちろん大事ですが、感情に訴える力を持つブランディングや広告は、脳の深い部分で人を動かす力を持っています。これからも「自分の好き」に向き合い、クリエイティブをさらに深めていきたいと思います。



いいなと思ったら応援しよう!