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自分の開発した技術を特許化して事業にしました。

技術のアイディアはたくさんあっても、どのように収益に変えていくのかは、わからない事が多いのではないでしょうか。
自分の技術が社会に出て、お金として身入りになると、
開発者として社会に役に立ったという実感と得したという幸福感があります。
自分のアイディアを特許にして、収益化するまで6年間を記事にします。その過程で何があったのかどの様な考えがあったのか紹介します。アイディアを持つ方の参考になれば幸いです。

私は自分で起業した株式会社ウイテンの代表取締役をしています。また有限会社内山製陶所という父の経営する会社に所属しています。萬古焼という三重県四日市市の伝統産業のメーカーで主力商品は土鍋です。その前は住友金属鉱山株式会社でリチウムイオン電池の原料に関わる仕事をしていました。

内山製陶所商品


内山製陶所は2016年に入社して、落ち込んでいた売上の回復のために新商品の開発に取り組んでいました。
この状況の中で、一つ大きな潜在的な問題がある事に気づきました。それは原材料のリスクがあるという事です。
土鍋の様な耐熱陶器はペタライトという原料が約半分を占めています。
ペタライトはアフリカ南部のジンバブエ共和国のみに偏在しています。
私が以前所属していた住友金属鉱山では採掘に関する知見もあり、リチウム原料がバッテリーを中心に注目されていることを知っていました。
鉱山について調べたところ、20年以上も掘り続けており、マイニング寿命もわからず、資本も日本の資本ではありません。
この原料が枯渇した瞬間に土鍋は作れなくなると考えました。

左下の赤枠がジンバブエ共和国の位置 引用:統計局

対策としていくつか行った施策の中で代替技術の開発があります。これが後の特許になります。
ペタライトを使った耐熱陶器の製造技術は50年以上前に開発されています。また、この材料より耐熱陶器に適した材料はないと言われていました。
もちろん様々な方が代替化に取り組んでおり、新規性は見込みが薄いというのが、私が内山製陶所に所属していた時の業界全体の考え方だと思います。
しかし、ペタライトのリスクを解決するために何か方法はないかと考え、内山製陶所の技術に注目しました。
難しい用語になるのですが、「熱膨張係数」という数値をコントロールする技術です。
熱を与えると物質は大きくなります。熱膨張係数はそれがどれ位の割合かを数値化したものです。
土鍋の様な陶器はいくつかの層が重なっており、それぞれの層の伸び縮みをコントロールされています。
層と層で熱膨張係数が大きく違ったり、そもそも数値が大きすぎると、火に当てると割れたりしてしまうのです。

土鍋の基本的な層状構造

土鍋は廉価が進み、付加価値が低い商材になっていました。
しかし、熱膨張係数の管理技術は内山製陶所独自のノウハウがあり、技術価値が高いと感じました。
そこで、新たな素材探索をするときに既存の材料選択肢にとらわれず、熱膨張係数のみに注目した探索をしました。
そこで発見したのがシリカという素材です。
この素材は熱膨張係数以外にも幾つかのポイントを持ち合わせていました。
これを使って作った土鍋は、土鍋の安全性基準の中でも一番ハードルの高い、JIS S 2400 直火用(高耐熱)を満たせる性能を発揮しました。
これを受けて私はこの技術の特許化を決意しました。

特許化までは多くの時間を要しました。4年はかかっています。
出願から始まり、特許庁とのやり取りを通じて権利範囲を確定させていきます。特許を取得しているこの期間は赤字採算です。
そして、晴れて特許として権利範囲が認められました。
株式会社ウイテンへの権利移転も行っています。

その頃、2022年に大きな問題が起こります。
ペタライトの需要が高まり、価格が上昇したのです。
これにより、日本へのペタライトの輸入が無くなるリスクがメディアで取り上げられました。
NHK HP
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/ohabiz/articles/2023_1110.html
そこで内山製陶所は土鍋の耐熱原料をペタライトからシリカに切り替える判断をします。
原料を大きく変える事になるので、
まずは取引先への説明を商品選定の半年前から行いました。
ペタライトの状況については取引先でも理解しており、
シリカを使った土鍋の科学的な性能データを示して理解をしてもらいました。
しかし、価格上昇にはかなりの難色が示されました。
材料が変わっても消費者からは何が変わったかが伝わりません。
そこで新たな付加価値としてセラミックコーティングを提案しました。
この技術はすでに商品としての実績があり、
撥水加工でよごれにくいという従来の土鍋の欠点を無くす技術です。
この加工技術を使った土鍋は付加価値が認められており、
価格を上げる理由として採用されました。
この技術も内山製陶所の熱膨張係数の知見が生きています。


セラミックコーティング耐熱陶器の構造

これらの技術の取り組みによって、内山製陶所では1億円を超える売上を1年で達成しました。
ウイテンも特許使用料を収益として得る事ができ、初年度から黒字化を達成しました。
この記事を書いている2024年は実績のついたこの技術を広く使って頂けないか模索しています。
ウイテンと内山製陶所、萬古焼の知見を広めるきっかけにしたいです。


この事を記事にしようと思ったきっかけは三重大学の渡邉明教授の講義に臨時講師として登壇させて頂いたことです。
講義終了後に講義を受けて下さった大学院生の皆様の感想文を見て、技術に熱意を持った多くの学生と先生がいる事を知りました。
私は特許の専門家ではありませんが、実際に自分の行った事業が新たなビジネスの機会になればよいと感じます。

最後に私は開発に携わる中で、技術の開発や特許の取得を行う人は稼ぐべきだと考えています。収益になる事で新たな開発意欲が生まれ、またお金が増えて、開発したくなる。
ウイテンはそういうサイクルを自ら生み出し、お手伝いさせて頂くという目標をもって作った会社です。
会社のテーマは「技術をマネタイズする」


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