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【映画感想】「フェイブルマンズ」│スピルバーグ初の自伝作品

映画が好きなので、映画監督の話なら多分面白いだろうと軽い気持ちで見に行きました。想像以上に面白かったです。
スティーヴン・スピルバーグの自伝作品ということもあり、映画としての完成度が高くて満足しました。

簡単なあらすじと説明

前提知識として、本作品は超有名映画監督のスティーヴン・スピルバーグ氏の自伝的作品です。
スピルバーグといえば、『ジョーズ』『E.T.』『ジュラシック・パーク』など、多数の有名作品を作り出していますが、本作はその根源となるような幼少期から大学時代までの変遷が描かれています。

主人公は「サミー・フェイブルマン」という人物なのですが、タイトルが「フェイブルマン『ズ」ということもあり、彼とその家族についての内容がメインになっています。
冒頭、サミー少年は両親と共に映画を見に行き、その刺激的な体験に心を奪われるところから物語は始まります。それをきっかけに8ミリカメラで家族の生活を記録し始め、次第に発展していき、妹や友人を巻き込んだアマチュア映画製作から本格的な作品づくりに繋がっていきます。
そんなサミーを芸術家の母は応援しますが、科学者の父は反対します。
しかし、引っ越しをすることで環境が変化することにより、彼を取り巻く人々の状態も大きく変化していき、彼自身の映画に対するスタンスも変わっていきます。

映画を見る前にちょっと注意

映画視聴後にレビューサイトで感想を見たのですが、概ね高評が多い一方で、思っていたよりも評価が低いものも一定数ありました。
まあ、この手のレビューなんて高い評価があれば低い評価があるのも当然ですが、低評価をしている人の共通項を挙げるとすれば、「退屈だった」というコメントが多かったところです。
恐らく、スピルバーグの映画ということで「ジュラシックパーク」や「激突!」のような派手な展開を期待した人にはあわなかったのでしょう。
たしかに、有名作品と比べれば真逆といってもいいほどに地味に感じるかもしれません。
しかし、個人的には良作であると思うので、これから視聴する人はひとつの芸術作品として見ることをおススメします。

感想(※ちょっとだけネタバレあり)

登場人物が魅力的だった

ここがよかった、といえるシーンはたくさんありますが、やはり印象的なのは家族愛と芸術への想いがぶつかり合い、葛藤する主人公の描写でしょう。
8ミリカメラを持ってやんちゃをする子供時代から大学を卒業するまでが描かれていて、それはさながら人生の1ページ1ページをフィルムに収めているかのようでした。

焦点を当てるべきは”人間性”で、『母親』『父親』『妹たち』のそれぞれの立場が環境の変化と共に変化していき、主人公に影響を及ぼしていく流れはまさに芸術的だと思いました。

「家族愛」と一言で言ってしまえば簡単ですが、母親の「子供たちへの感情」「夫への気持ち」「生活の苦しさ」、父親の「嫁や子供を思う気持ち」「仕事への熱意」、サムの「家族への愛」「映画作りの情熱」など、これらのとても大事な感情がぶつかり合う様はまさに人生であり、愛と哀しさが入り混じっていて、感情を揺さぶられました。

一貫して言えるのは、誰一人として悪人はいないということで、母親も父親も極めて優しいし、父の友人も間違いなく優しい人であるのです。終盤に現れるいじめっ子も本質的には優しさを持っています。

しかし、それでも衝突は免れないのです。
これはきっと、仕方がない事なのでしょう。

良かったシーン

特に印象に残ったのは、ロサンゼルスの新居が完成した直後のシーン。
父親と二人の妹は立派で素敵な住居に大喜びではしゃいでいる。
しかし、母親は笑顔を浮かべていてもその瞳は空虚であり、悲しみが溢れています。そして、その様子をサムがカメラで映像に収めているという状況。
これはまさにこの作品の家族愛のテーマ全てを現しているシーンで、なんて上手に映しているのだろうと思いました。
しかも、このシーンだけはサイレントになっていて、なんてすごい演出なんだろう!と感動しました。

また、中盤に母親と喧嘩をして、サムがアリゾナ旅行のときのある映像を母親に見せるシーン。このときの母親の表情の変化してゆく様や、サムとの関係性の変化はすごくいい見せ方だったし、印象に残りました。

他にも色々と人物が登場しますが、その誰もが魅力的な人物であり、主人公に影響を与えていきます。
主人公の感情が揺れるシーンはどこも魅力的であり、個人的には、人が人に影響を与えるというのもひとつのテーマなのかな?と思いました。

家族に関するシーン以外でよかったところ

半分以上が家族をテーマにしている本作ですが、他にも良いシーンはありました。
サムが映画を撮るシーンなどは単純に映画好きとしては面白いものがあり、大勢の子供が砂埃を立てていたり、細かい工夫を凝らして銃撃戦を出来るだけリアルに努力している様は面白みがありました。年齢を重ねるごとに技術力が向上して、才能の片鱗を見せているのはワクワクします。
また、映画を両親や友人たちと共にみんなで視聴するシーンがあり、その時のシーンも回を追うごとに主人公の気持ちが変化していて……。

この映画をみんなで見ているときのシーンと物語の一番最後のシーンを見た時は、藤本タツキの「さよなら絵梨」を彷彿とさせました。
スクリーンをみんなで見ているシーンや劇中劇から連想したのでしょうが、そういう目線で思い直すと中々面白く感じます。

また、旅情がよいというのもひとつの魅力でしょう。
アリゾナやロサンゼルスに引っ越していくのですが、その景色の変化や人々の変化というのはまさに長い距離を経て全く異なる環境に身を置いているという現実をひしひしと感じるほどにリアルでした。
やはりいい作品には旅情があるということなのでしょう。

個人的に、この物語のテーマは自分の境遇と少し重なるところがあり……いえ、自分が映画監督になりたいとかそういうわけではありませんが……、両親の関係性や妹の存在、自分の将来についての葛藤などは、まさに通じるところがあって、ちょっとだけドキリとしました。

たまたま見たのに、「え、噓でしょ?」みたいな。

きっとそういうタイミングだったのでしょう。
魅力的な映画に出会えたのでとても満足です。


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