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【旅日記】東京2024秋|4.渋谷 〈 トップ 道玄坂店 〉

ほどの良い、店


今朝も(といってももうすぐ昼、の時間だけれど)渋谷へ。

なんと今日のツアー最終公演、完売していたチケットが急きょ機材席開放で追加販売されることになり、昨日の深夜に取れてしまった。なんという幸運。なので、今夜もライブへ行けることになったのだ。

実はなんとなく最終日も行けるんじゃないかなあと思っていて(アテなんてひとつもないのに!)、旅はあえて2泊にしておいた。とはいえ確証はなく、旅の直前になってもチケット完売の事実は変わらなかったので、東京在住の友人に「会わない?」と声をかけてみたりもした。けれどちょうど彼女にも予定が入っていて、だからわたしの旅・2泊目の夜はすっかり空いたままになっていたのだった。

この頃、じぶんがコントロールしなくてもすべてはうまくいくようになっている、という考え方に共感する場面が増えている。だからチケットが追加販売されると知ったときも「来た!やっぱり!」と思った。わたしが最終公演を観るということは、きっとはじめから決まっていたんだろうな、と思った。

渋谷の街は相変わらず人が多くて、昨日よりさらに外国人の割合が高くなったような感じだった。いろんな言語が飛び交って、いろんな格好の人が混在する。それが、今の渋谷なんだろう。

スクランブル交差点で、みんなが写真を撮っていた。友人同士や家族で自撮りする人たちの中に一眼レフを構えて「街を切り取っている」という人もいて、みな各々の目的でカメラを構えるのだなあ、としみじみ思った。
つられてわたしも動画を撮った。人が入らないように、ビルの上の部分と空を、360度ぐるりと撮った。じぶんの回転するスピードが速すぎて、目が回ってしまった。

調べておいた3つの喫茶店の中から、今日は「渋谷トップ 道玄坂店」を選んだ。今日もGoogle Map様が大活躍している。
渋谷はもう、どこまでが駅でどこからが街なのか、どこまでが完成していてどこからが工事中なのか、分からない場所になっている。それは、どこまでが過去でどこからが未来なのかを掴めないことと、良く似ているなあと思った。

道玄坂入口、の交差点で”渋谷らしからぬ”男性2人組を見かけた。
坂だらけの道をぐんぐん歩き、店が入っている建物を発見。「B1F」と書いてある。
入ろうとすると、さっきの2人組がわたしの横を取り抜け、階段を下っていった。あ、行き先、同じだったんだ。3人で連れ立つように、店に入った。

そこは喫煙できる店、だった。まあ、そうだろうなとは思っていた。たしかに少し、においが気になる。けれど今日のわたしなら、これぐらいは大丈夫そう。

席に着くと、黒いマスク姿の若いスタッフがお冷を持ってきてくれた。メニューからツナサンドと、「当店の伝統的な味」と書かれたトップMIXというコーヒーを注文する。

店内にはわたし以外、男性客しかいなかった。60年代から70年代辺りのソウルやフォーク、カントリーの音楽が流れている。

しばらくして、注文した品が運ばれてきた。真っ白なソーサの上のカップに焦げ茶色のコーヒー、楕円形のお皿には思ったよりも小ぶりのツナサンドが4切れ載っている。佇まいが、美しい。
まずはコーヒーから。口に含んだとたん、ガツンと個性が主張した。酸味と、深み。昨日のウィリアム・モリスとは対照的な味だ。そしてツナサンド。添えてあったレモンを搾る。ひとくち食べた。あ、優しい。
ツナサンドのパンの両面にはほど良く焼き目がついていた。具は、ツナに小さく切ったきゅうりが混ぜ込んであって、しっとり一つにまとまっている。ああ、なるほど。コーヒーとサンドイッチでちゃんとバランスが取ってあるんだな。さすがだ。

カウンターにはマスターらしき男性が立っていて、お客さまに向けるまなざしに、なんとなく「ほどの良さ」を感じる。マスター以外のスタッフは若い人が多く、みなが誇りを持って仕事をしているという雰囲気があった。あるお客さまが店の変遷について尋ねていて、その時もスタッフの方はじぶんの言葉で、じぶんの歴史を語るような口ぶりで説明をしていた。おそらくここは、彼が生まれる前から続く店。なんだかいいなあ、いい店だなあ、と思った。

すべてを気分良く平らげた。さあて、そろそろ出ようかな。
支払いは、現金のみだった。「ごちそうさまでした」。わたしはレシートをもらって、店を後にした。


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上野イクヨ
本の出版を目標に執筆を続けています📙📕📘よろしければお力をお貸しください🐆🦒🦓🦩🦚🌬️🫧