【旅日記】東京2024秋|2.渋谷 〈 ウィリアム モリス 珈琲&ギャラリー 〉
東京に来た
ベッドに横になって頭を解放したら、体がポカポカとあたたまってきた。しばらく心地よさを味わって、よし、そろそろ動こう。荷物を身軽にして、部屋を出た。
山手線で渋谷へゆく。
渋谷駅。すごい人だ。ほんとうに、すごい人。外国人がとにかく多い。すれ違う人のほとんどが外国人なのではないかと思うほど、外国人の街になっている。
旅に向かうとき、あまり細かいところまで予定を立てない。けれどこの旅の目的を果たすには渋谷に行くことが必須だったので、立ち寄れる喫茶店を3つだけ調べておいた。
その中から今の気分で、「ウィリアム モリス」へ行く。
Google Mapで道を確認しながら、傾斜のある道を数本歩いた。それにしてもめちゃくちゃ歩くな、東京。日頃から運動不足の体がよろこんでいる。だよねぇ、もっと動きたいよねぇ。首元からだらだらと汗を流し、店へたどり着いた。
「珈琲 2F」。軒先に出ていた看板に、一気に気分が上がる。あぁこのセンス。間違いなかった、と思う。建物にはエレベーターもあるようだったけれど、通路の奥にライトブルーの階段が見えた。かわいい色。迷わず、階段を上がる。
店に入ると先客が2組いて、カウンターには誰もいなかった。
「こんにちは」。わたしが声をかけると、奥の方から店主らしき人が顔を出した。ショートカットの女性。「どうぞ」と言われて席に着く。
メニューに「ケーキセット」とあったのでケーキはなにかと尋ねると、「チーズケーキ」との答えだった。「じゃあ、ケーキセットをお願いします」。コーヒーはホットにした。汗だくだったからアイスにも惹かれた。けれど普段から、初めて行く店ではなるだけその店のブレンドをホットでいただくようにしている。だから今日もホットで。
それほど広くない店内に、さまざまなアート作品が飾られていた。味わい深くこっくりとした茶色のカウンターとテーブル、揃いのチェア。すべて木製だった。壁や梁は白と赤と青の配色で塗られていて、洗練されているのにぬくもりがある。音楽は、インストゥルメンタルのジャズだった。
しばらくするとコーヒーとチーズケーキが運ばれてきた。写真は撮らないことにして、ひとくち、コーヒーをいただく。あまい。豆の甘さ。いつも飲んでいるものよりスッキリとしている。チーズケーキは見たことのない風貌をしていた。薄いクリーム色の表面に、ポツポツと穴が開いている。フォークを入れてひとくち。その瞬間、わたしは「あ」と思った。「東京に来たんだ」という感覚が、じわじわとわたしを満たしていく。コーヒーもケーキも、それぞれが主張しすぎずに調和を保っていた。
両方をまんべんなく食べたあとは、ノートを開き、今日のここまでを書き留めた。
店主(と思われる女性)が「これ、じゃまでしょう」と言って、食べ終えた器を下げてくれた。おいしかったと伝えると、その人はこちらを見て「正解!」と笑い、「でも好みがあるから」と付け加えた。わたしは思いがうまく伝わっていないような気がして、「わたしには合いました」と念を押した。ほんとうは「東京に来たという感じがしました」とまで言いたいくらいだったけれど、きっとこの方にとってはなんのことやら?だろうと思って、黙っておいた。地方から来ていることも話さなかった。話したら、この味の評価にドラマチックな背景があるからだと誤解されそうで嫌だった。わたしはただ純粋に、丁寧につくられたこのコーヒーとケーキがおいしかった、ということを伝えたかった。
店主らしき女性と、展示中だったステンシルの作品についていくつかの言葉を交わし、その後、お手洗いを借りて店を出た。また東京に来るときに立ち寄れる場所ができたな、そう思った。わたしが地方に住んでいて、飛行機に乗って来ていると話すのは、いつでもいい。とても自然にそう思えて、なんだかうれしかった。
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