(プロローグ:第1話) 売れない漫画家、自律神経が壊れる。

ケヒョッ…ケヒョケヒョ!

わし、布団の上で、目を覚ます。

目を覚ますと同時に、いつもケヒョケヒョと咳をする。なにせ布団の上はホコリだらけ。さらに消しゴムのカス、タバコの灰まで散らばっている。仕事机の真下に布団を敷いているからだ。長く敷きっぱなしで、掃除機なんて2週間もかけていない。

ゆっくりと身体を起こす。背中の筋肉がバキバキに凍ってるみたいだ。腰も痛い。ボーッとした頭のまま、目の前の椅子に座り、タバコに火をつける。ツイッターの通知欄をチェックし、アンチから届いていたクソリプに「うるせえバカ」と短く返信し、描きかけの漫画原稿用紙に手を伸ばす。目を覚まして、ここまで5分。

さあ漫画家の1日の始まりだ。

顔を洗うよりも、歯を磨くよりも、尿たれるよりも先に、まずは漫画を描き始める。どうやらわしは、今日は午後2時に目を覚ましたらしい。いつ寝ていつ起きるかは決まっていない。

ジリジリと日々迫る、連載漫画の〆切りに怯え、紙にガリガリとペンを走らせる。ふと気づくと、時刻はもう午後7時。カーテンをめくる。いつの間にか外は真っ暗だが、そもそも窓を開けないので、わしには関係ない。24時間、つねに仕事部屋の蛍光灯の明かりの下で過ごしている。

せめてメシだけは家族一緒に食おうと夕食。嫁様とムスメの顔を今日初めて見る。座って5分で食べ終わり、そして「仕事あるから」と、そそくさと仕事部屋に帰還。また原稿描きスタート。わしの仕事部屋にアシスタントさんはいない。長年たった一人で原稿を描いており、〆切り直前に、仕上げを嫁様に手伝ってもらっている。

うっすらと眠気を感じてきた。

時計を見ると、午前5時。早朝だ。気づいたらもう15時間も漫画を描き続けている。(あと3時間後くらいには睡魔の限界がくるな…あんまり原稿進まなかったな、ヤバいなあ)なんて思いながら、さらにガリガリ。

もう今が何時かわからない。町内の人たちの声が、閉め切った窓の外からかすかに聞こえる。どうやら出勤や朝のゴミ出しで、町が動き出したらしい。時計を見るのも面倒臭い。たぶん7時か8時。もうダメ。眠い。寝ちゃう。

振り返ればすぐ足元にある、ホコリまみれの布団に、倒れこむように転がる。30秒後には夢の中。そして目を覚ませば、きっとあのいつものケヒョケヒョの咳払い。そして描きかけの原稿が机の上で待っている。

そんな生活を

10年以上。

慣れっこだ。大好きな仕事だもの、メンタル的には辛くない。


でも40代となってオッサンの身体はとっくに限界を迎えておったようだ。身体が(もうやだ!)と悲鳴を上げ始めていた。なのにメンタルはとても明るく元気。その身体の悲鳴に気づかない。

そして限界はある日、突然やってきた。

壊れたわしの自律神経が、暴走を始めるッ…!!

(つづく)


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