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イモムシに寄生した菌の繁殖

2021年7月、山でサビイロクビオレタケという冬虫夏草を採取した。
本種はキアブという双翅目の昆虫の幼虫に寄生し、そこからオレンジ色のキノコを生やす。

先日、サビイロクビオレタケの深度合成写真を撮るために冷蔵庫から標本を引っ張り出してきたら、思わぬ瞬間に立ち会えた。

胞子放出の瞬間。

人生で初めて見たので大いに喜んだ。
キノコの表面から「子嚢」と呼ばれる胞子を入れた袋が飛び出す瞬間はカメラ越しにきちんと見えた。
本来の目的の写真撮影を始めたころにはキノコの表面が子嚢だらけでもじゃもじゃになっていた。

インパクトのある写真なのでYoutubeに投稿する動画のサムネにしてみたのだが、それでもやっぱり冬虫夏草の動画はあんまり人気がない。
たぶん動かない対象を動画で映しているうえ、僕の伝え方が冗長すぎて視聴維持率が悪く、あまり拡散されないのが原因だろう。

一連の観察のあと、なぜこんなにもタイミングよく胞子の放出が観察できたのか考えてみた。
冬虫夏草の保存は冷蔵庫で行っていて、冷蔵庫から取り出す前はサビイロクビオレタケの活性がとても落ちていた状態だったと思う。

しかしキノコの成熟はゆっくり進んでいたので、条件さえ合えばいつでも胞子放出できる状態で止まっていたのだろう。

当時、標本の写真撮影をするため、取り出した冬虫夏草を水にぬらし、小さなゴミを取り除くクリーニングを行った。室内の高い気温も相まって、この刺激が胞子放出のきっかけになったのではないか。

実は最近、別の冬虫夏草でも胞子放出の瞬間に立ち会えた。

赤いのがホソエノコベニムシタケというガの幼虫に寄生する冬虫夏草。
写真だと大きく見えるが、1cmくらいしかない。
探してもなかなか出会うことのできない珍しい種類だ。
今年の8月、一緒に山に冬虫夏草を探しに行った同行者が発見した。

この写真もよく見ると胞子が出た形跡がある

キノコの先端は「子嚢殻」というブツブツで覆われており、その一つ一つから白くて細い糸のようなものが出ている。
これも上と同じく「子嚢」で、胞子が放出された跡であることがわかる。

どうやらそこそこ成熟した冬虫夏草を冷蔵庫で保管しておき、しばらくしてから取り出して濡らしたり気温の高いところに置いたりすると1時間もかからず胞子を出すようだと分かった。思いがけなく自在に胞子観察する術がわかってラッキーだった。

Fin.

個別にメッセージをお返しします。