第1回:「面白くもない仕事だけど、とっても簡単さ」
というわけで、今日の「金曜日更新」はアゼルバイジャン語のお話をひとつ。シリーズ企画としてやっていこうと思います。
『星の王子さま』には、アゼルバイジャン語訳もあります。日本語でも内藤濯訳のほかに多くの訳があるのと同様に、アゼルバイジャン語でもいくつかの異なる訳本があるのですが、このシリーズでは以下の訳本の例文を引用しながら話を進めていこうと思います。
今回は、「AはBだ」の構文について。シンプルな文の構造からスタートしていきましょう。
この例文には文が3つ入っているのですが、最初の文は主語がなく、形容詞düz「正しい」という語の母音部分üにあわせて、「~である」の部分に相当する(一般に「コピュラ」「繋辞」などと呼ばれるものです)=dürという語尾がくっついています。
このように、述語に語尾がつくというのがアゼルバイジャン語の特徴の一つなのですが、次の文も主語は省略されている(意味上の主語は「バオバブ(の根)を抜くこと」です)のですが、述語は名詞iş「仕事」になります。で、この名詞も母音はiですので、この母音に合わせて述語につく語尾は=dirとなっているわけです。
最初の述語の語尾は=dür, その次は=dirでした。さて、アゼルバイジャン語にはこの2種類だけが存在するのでしょうか。以下、(2)を見てみましょう。
(2)の例文では、名詞ではなく形容詞が述語になっています。lazım「必要だ」の最後の母音はı, いわゆる「点のないi」です。この母音に合わせて、述語に付加される語尾は今度は=dırになっています。
ほかにはどうでしょうか。実はあと一つありまして…
(3)で、述語になっている名詞はqurğu. ここでは「装置」という意味で解釈できます。主人公の「ぼく」が王子さまにあってすぐのくだりで、飛行機の説明をするシーンからの引用です。この名詞の最後の母音は、u. ここでもこれに合わせて、述語の語尾は=durとなっています。
ということで、アゼルバイジャン語の名詞述語文には「~である;~だ」に相当する語尾が必要だということ、またその語尾は、くっついている述語の最後の母音が何かによって4通りに変化するということがわかりました。
ここ、試験に出ますからね。バッチリ覚えておいてください!
なお、「~ではない」を表す文も実はすでに目にしましたね。そうです。(1)の例の最後の部分。再掲しましょう。
amma以下の部分、形容詞çətinは「難しい」の意味ですが、その後のdeyilが、「~ではない」という意味を表す、いわば否定をあらわす語として役割を果たしています。このdeyilは独立した語なので、どのような述語が前にあっても、形はdeyilのままです。
(4)の例ではdeyilの前の語はmaraqlı「面白い」で、最後の母音はıですね。この母音に全く影響されず、deyilの語形はやはりdeyilのままというわけです。ということで、前の母音に従って続く接辞や語尾の母音部分も変化するという現象を、業界用語では母音調和といいます。
この現象はトルコ系の諸言語(テュルク諸語)の多くに見られる現象ですが、アゼルバイジャン語もやはりその例にもれず、「~である」をあらわす=dIr語尾(以後の記事でも、代表形として母音部分を大文字で表記することにします)をはじめとして多くの接辞・語尾がこのルールに従います。
まさしく"Azərbaycan dili çətindir, amma maraqlıdır." (アゼルバイジャン語は難しいですが面白いです)といったところですね。
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