SFプロトタイピング小説「北部回廊」5
5.正
経済回復の目途がついたシー国は、さらにアフリカへの関与を強める。目立たぬように。
まず、東南部アフリカでの『ベルト&ロード』プロジェクトのみならず、アフリカ全土での新規・対外融資プロジェクトについて、❶貸出金利を最大で150ベーシスポイント緩め、❷返済期間を最長40年に延長、さらに❸返済猶予期間グレース・ピリオドを、プロジェクトの種類に関わらず一律10年延ばした。
すなわち、平均年利 2.85パーセントに及んでいたシー国の対アフリカ巨額融資プロジェクトの貸出金利は、世界銀行やアフリカ開発銀行などの国際開発金融 MDBsに匹敵する、年利 1.5パーセント程度まで低下。さらに「元本の返済開始まで、なんと10年も待ってもらえる」という状況は、基幹インフラ整備の途上にあったアフリカ諸国の首脳を、さらにシー国へ靡かせた。
この措置により、当時グローバル・イシューとなっていたシー国の『債務のわな』問題は、2023年をピークにひとまず鎮静化した。返済の当事者であるアフリカ諸国が「なんだ、余裕で返せるじゃん」と、騒がなくなったからである。各国の財政当局は、グローバル感染症からのV字回復に伴い、高度経済成長軌道への回帰を確信。積み上がっていた既存の対シー国債務の返済についても、自信を深めていった。
こうして「借金のカタに、途上国のインフラ運営権をシー国がかすめ取る」という、とんでもない“わらしべ交換ゲー”は、デフォルト国が発生しなければ一生”確変突入”せず、だんだんと有耶無耶にされていったのである。2020年までにバレた、スリランカとザンビアの実例を除いて。
一方、アフリカにおけるシー国の『ベルト&ロード』プロジェクトの拡大防止や、シー国のアフリカでのプレゼンスそのものに楔を打つべく、2020年頃から『シー国じんわり包囲網』を構築しようとしていたユーエス国・ IMF/世銀らの目論見は、あっさり崩れた。アフリカ経済が急回復したことに加え、西側の債権者が懸念していたサブサハラ・アフリカ低所得国の『隠れ債務』が、高度経済成長がもたらす歳入増ポテンシャルに比べ「ぜんぜん大した水準に無い」と判明したからである。( IMFはとうの昔にそれに気づいていたが)
加えて、「シー国を巻き込み、シー国に当事者意識を植え付け、シー国を吊し上げる」という隠れアジェンダのもと立ち上がった『債務返済猶予ディー・エス・エス・イニシアティブ DSSI 』は2022年、シー国と同じく当時グループ・オブ・トゥウェンティの一員だったターキー国の絶不調が引き金となり、民間金融やハゲタカを中心にグループ内で見苦しい内輪揉めが激化。後継枠組み CF コモン・フレームワークの有名無実化とともに、完全に瓦解する。
DSSI の無残な大失敗は、ミュンヘン安全保障会議の長年の主催者・欧州が最も恐れていた『ウェストレスネス Westlessness』を加速させるという、皮肉な副作用をも生んだ。
結局シー国は、『債務のわな』問題から西側諸国の目を逸らすことに、まんまと成功したのである。
並行してシー国は、V字回復を経て再び高度経済成長期に入ったアフリカ各国に対して、デジタル・シーユアンを貸し付けまくり、インターナショナル・インベストメント・ポジション IIP を次第に高めていった。併せて、それまで貸し付けていた莫大な既存債務を、2025年までに「シーユアン建て」からすべて「デジタル・シーユアン建て」に借り換えるよう、アフリカ各国にしれっと強要した。西側諸国に目立たないよう、デジタル・シーユアンのグローバル流通を図ったのである。
ただし、シー国の本当の狙いは、これだけじゃなかった。
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