デジタル小作人初心者と眺めるゲーム配信者界隈
1.はじめに
先日話題にした炎上問題において、ゲーム配信者は重要なポジションを占めていた。
その中には、小規模なマスメディアに匹敵する影響力を持つ人も存在する。
今や動画配信者や投稿者は、我々の日常に不可欠な存在となっていると考えられるだろう。
そんなゲーム配信者の活躍によって、我々にどのような影響がもたらされるのか。
デジタル小作人の初歩的な観点を中心に、この影響を考察していく。
2.小作人とは
本題に入る前に、小作人という言葉について取り上げたい。
現代社会においてはあまりになじみがなく、教科書で見たことはあるけれど意味までは覚えていないという方も多いのではないだろうか。
辞書によると、小作とは
とあり、小作人は、
とある。
これだけでは想像がつかないかもしれない。
より具体的に説明すると、以下のようになる。
・土地は小作人のものではなく、地主から借りたもの
・借りた土地で生産した生産物の一部もしくは金銭を、地主に納める
この関係が、どれだけ恐ろしいものが、想像できるだろうか。
・地主は働かなくても、小作人が勝手に物や金を納めてくれる
・地主は、より多くの収入が欲しければ、小作人から搾り取れば良い
・地主は、気に入らない小作人を入れ替えることができる
・地主は、周辺の地主や有力者と血縁関係があることも少なくない
小作人は、常に地主の機嫌を取らなければいけない。嫌われたら土地を貸してもらえなくなる可能性があり、地主に納める物や金額が増えてしまう可能性もあった。
物や金がなくなれば、それを貸してくれる人を探さなければならない。小作人がそのような人を見つけることは信用上難しい。結果、地主や質屋を頼ることになる。そして、ますます地主に頭が上がらなくなる。
その土地から逃げようとすると、周辺にある地主の親戚を避け、噂の届かないはるばる遠方まで移動しなければならない。
やや過激な表現をするのであれば、地主がどんな無茶を言おうと、それに笑顔で応えなければいけない関係性だ。
時代によってやや異なるものの、小作人とは、基本的に地主に隷属する被支配者階級だったとされる。
なお、ほぼ同じ意味を持つ言葉に「農奴」が存在する。
3.デジタルインフラとは
小作人は地主から土地を借り、物や金を納める関係だった。
では、デジタル小作人とは何か。
簡単に説明すると、デジタルインフラという「土地」を借りて仕事をし、金銭を納める人や事業者のことだ。
ここでは、デジタル小作人を扱う前に、デジタルインフラについて説明していく。
デジタルインフラというと、事業者側からすれば、Webサービスを提供するためには欠かせないクラウドサーバ(以降、クラウド)を指すことが多い。
では、そのクラウドという「土地」を所有する「地主」は誰だろうか。
クラウドにおいては、Amazon、Microsoftが2大巨頭であり、Alphabet(以降、Google)がそれに追随する。この3社で世界中の6,7割を占め、日本でも約6割を占める、Webサービスにおける圧倒的な「地主」だ。
極端な例えをするならば、世界の土地の6,7割を3つの組織が握っている状態ということになる。まさに地球規模の三国志だ。
クラウドという「土地」を借りながら、その「土地」に「建物」を建て「建物」を貸しているのが、ネットショッピングサービス(以降、EC)や動画共有・配信サービスといったWebサービスだ。
ただ、こういった、Webサービス、あるいはそれらのサービスを利用するために欠かせないオンライン決済システムも、消費者側からすると重要なデジタルインフラではある。末端の入居者からすれば、地主も大家も大差ないのだ。
なお、AmazonやTwitch、Youtubeなどのように、ECや動画共有、配信サービスにおいても先ほど挙げた3大「地主」の一部が大きな地位を占めている。
Webサービスはクラウドほど独占的ではなく、国によって大きな差があるようだ。
日本においては、NTTドコモやKDDI、ソフトバンク、楽天も重要な「地主」といえるだろう。この4社は、通信事業、金融、決済事業、EC等のデジタルインフラを提供している。一般消費者からすれば、楽天市場やLINEが有名だろう。日本で有名なデジタルインフラとして、ニコニコ動画を付け加えてもいいかもしれない。
以上のように、デジタルインフラというとあまりにも幅が広く、複数の定義が存在する。
ここでは、ネットに関わる仕事をするうえで必要な土台くらいに考えてもらいたい。
また、定義が一部において被るITインフラという言葉も存在するが、今回はデジタルインフラという言葉を採用する。
4.デジタル小作人とは
改めて、デジタル小作人とは誰か。
デジタルインフラという「土地」は、一般的にはクラウドを指す。つまり、その利用者が直接的な意味でのデジタル小作人ということになる。
ただ実際には、デジタル小作人という言葉は、ECや動画共有、配信サービス、オンライン決済、SNSなど、広義のデジタルインフラの利用者を指すことが多い。
デジタルインフラで圧倒的な地位を占める海外勢(特に米国)の「地主」と、それを利用せざるを得ず、外国企業の意向に従わざるを得ず、国外に富が流出していく国内の現状を、デジタル小作人と表現した方がいらっしゃったわけである。
このような過激な表現をした背景も、なんとなく推し量ることはできなくはない。
「日本人が日本人にお金を渡すことですら、外国企業に手数料を大量に支払っている状態」と表現すれば、その現状の一端を伝えることができるかもしれない。
2024/10/22追記
「地主」の意向に従わざるを得ない現状について、参考までに以下の記事のリンクを貼っておく。
追記は以上になる。
5.ゲーム配信者とお金の流れ
デジタル小作人と言われても、結局よくわからないと言う人も多いだろう。
そこで、ゲーム配信者を取り巻くお金の流れについて、よくある具体的な例を提示する。
日本企業は外国企業にお金を払い、配信サービスに日本人向けの広告を出す。
配信者がSteamで海外のゲームを購入する。海外のゲーム企業はSteamに手数料を支払う。決済にVISAのクレジットカードを使う場合、SteamはVISAに手数料を支払う。
配信者がYoutubeを経由して日本人視聴者からお金を受け取る場合、手数料を3割取られた状態で受け取る。
日本人視聴者がYoutubeを経由して配信者にお金を渡す際、オンライン決済を利用する。決済にVISAを使う場合、YoutubeはVISAに手数料を支払う。
配信者は配信時間が重要なので、外に出る時間を減らす人も多く、AmazonやUberをを利用する機会が多い。決済にVISAを用いれば、AmazonやUberはVISAに手数料を支払う。
なお、現在の主要なWebサービスにはだいたいクラウドが利用されている。オンライン決済サービスも同様だ。
加えて、日本はエネルギーの9割を輸入する国だ。
PCゲームを配信する人は特に整った配信環境が必要であり、ゲーミングPCは相応の電力を消費する。配信サイトやゲームのためのサーバの数々、それらをつなぐ通信機器等も忘れてはならない。
配信に関わるお金の流れをまとめると、以下のようになる。
日本企業は、日本人向け広告を、外国企業にお金を払って出稿する。
配信者は、日本人向け配信を、外国企業を通じて行う。
日本人視聴者は、配信者へのお金を、外国企業を通じて支払う。なお、手数料は取られており、その割合は3~6割程度だ。
配信者は、買い物に外国企業を利用する機会が多い。
オンライン決済でクレジットカードを利用する場合、クレジットカードでの支払いを受け付ける店からクレジットカードブランドへと手数料が支払われる。なお、日本におけるクレジットカード国際ブランドのシェア率は、海外ブランドが約8割を占めている。
ゲーム配信には多くのエネルギーを消費する。なお、エネルギーの9割は輸入に依存している。
6.結論
ゲーム配信者に関わるデジタル小作人問題について極端で雑なまとめ方をすると、「日本人が日本人を応援すると日本人が貧乏になる」ということになる。
特に、海外のPCゲームをプレイするゲーム配信者を応援すると、国外への資金流出を加速させるということだ。
2023年のデジタル赤字は5.3兆円、インバウンドの黒字が3.6兆円だそうだ。
外国人観光客をせっせと受け入れて歓待し、必死に稼いだお金が軽く吹き飛んでいる。
この問題がいかに影響が大きい問題か、EUをはじめとする国々が積極的に法整備を進めている現状からも理解できるのではないか。
日本は食料とエネルギーだけでなく、デジタルインフラまで海外に強く依存している。日本人が日本で生活するだけで大量の資金が海外に流出する現状は、持続不可能ということだ。
7.国外への資金流出を抑えるために
資金流出などという巨大な問題に対して個人ができることは、可能な範囲で国内企業が提供しているサービスを利用することくらいしかない。
しかし、現代的な生活を送るだけで資金は自動的に国外流出していくので、ほんのわずかに抑制することしかできない。
個人で実現できる極端な例であれば次のようになる。
配信視聴をやめ、PCやスマホから離れ、実際に人と対面しつつ国内製造のアナログなボードゲームやTRPGなどをやり、買い物は実店舗にて行い現金で支払う、といったものだ。
実に健康的な生活といえるだろう。
現状を維持しつつ最大限頑張る例であれば、動画はニコニコ動画を利用し、日本企業製のゲームを楽しみ、ECは楽天やYahoo!ショッピング等を利用し、オンライン決済はできる限りネットバンキングを利用し、クレジットカードが必要ならJCBを利用する、といったようになる。
2024/10/22追記
「オンライン決済はできる限りネットバンキングを利用」と記述した理由を説明する。
短くまとめるならば、できるだけ関わる「大家」を減らすためだ。
Webサービスという「大家」を経由するほど、その「大家」が「地主」にお金を支払う機会が発生してしまう。国内の「地主」の6割は海外企業であることを忘れてはいけない。
最悪な支払方法は、〇〇Payのクレジットカード払いだ。これで決済する場合、以下のような流れになる。
1.ECで購入
2.〇〇Payで処理
3.クレジットカードで処理
4.銀行で処理
5.決済完了
EC、〇〇Pay、クレジットカード会社、銀行という4つもの「大家」を経由してしまうことになる。しかも、国内におけるクレジットカードの海外ブランドシェアは8割だ。
ネットバンキング(銀行)を利用すれば、EC、銀行という2つの「大家」を経由するだけで済み、海外ブランドが牛耳るクレジットカードも使用せずに済むのだ。
追記は以上になる。
好きな配信者がいる方は、以下の記事が参考になるかもしれない。
この問題は一瞬無理をして解決する問題ではなく、継続して対応する必要があるもので、絶対にやる必要があるといったものでもない。
ただ、どこまで無理なく置き換えることができるのか、考えてみると面白いかもしれない。
8.おわりに
このようなことを書いていると、まるで配信者やゲーム業界が嫌いなのか、人種や国籍にうるさい人なのかと勘違いされそうだが、まったくの逆である。AoEやCivで育ち、かつてはHoIを好み、今はLoLやPoEを楽しむ、生粋の洋ゲー愛好家だ。日本では少数派の洋ゲーをプレイする配信者をよく応援している。学生時代にはラオス人の友人がおり、中国人や韓国人とも良く関わった。かつての職場ではペルーやブラジル、フィリピン人とも良く関わったし、アフリカ系もいた。彼らには非常に好印象を持っている。
ただ、資金の流れという重苦しい事実が常に頭の端にひっかかり、楽しいはずの娯楽を楽しみ切れず、どこかで冷めてしまう時があるので、思わず書いてしまっただけなのだ。
こんなことを考えなくて済むようになるためには、資金流出以上に流入が大きくなれば良いわけである。筆者のような愚物にはどうにもならない問題なので、日本企業や才能あふれる人々の活躍に期待したい。
この問題を気にせず、純粋に楽しめる日が来ることを切に願っている。
参考
https://www.publickey1.jp/blog/24/aws20234synergy_research.html
https://deha.co.jp/magazine/cloudshare-2024/
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