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高校現代文教材論②「羅生門」芥川龍之介(高1・国語総合)

対象学年:高校1年生

使用教材:小説「羅生門」芥川龍之介

使用教科書:明治書院 「新 精選 国語総合 〔現代文編〕」

① 小説教材をどのように教えるか

国語が苦手な生徒にとって、小説を読むことは全く楽しくありませんし、時間の無駄だと思っています。学校外では全然それでも構いません。※好きな身としては、読むことで人生が楽しくなるという小説の力を信じています。

しかし、高校現代文においては大学受験という大きな目標が存在します。嫌いだからと言って読まなければ当然点数は上がりませんし、生徒の将来を狭めてしまう結果に繋がってしまいます。

よく例に出すのは部活動です。

「なんで部活動を頑張るの?」「好きだからです」「だから頑張れるんだよね?」「はい!!」「じゃあ全く好きじゃなかったら頑張れる?」「いや、無理ですね・・・。」「じゃあ、小説嫌いだったら読めるようになって、点数上がると思う?」「いや、無理でしょうね・・・。」「だよね。小説も同じで嫌いなままじゃ読めるようにならないんだよ。だから、短い小説でもいい。一冊でもいいから、好きな小説に出会おう。

もちろん、嫌いなものを好きになるのは簡単じゃない。だからこそ、国語を教えるプロとして小説が好きになるような指導を模索するべき。

決して大学受験の為に高校に通って勉強をしているわけではないことは理解していますが、現実に迫ってくる問題として捉えたい。そう考えると、大学受験を動機づけとすることは間違っていないと思います。もちろん、現代文の楽しさを伝えること・日本語の読解力を高めることを根底に置きつつ、生徒の学習意欲を高める動機として大学受験を早いうちから意識させることは大切です。

そうすると、ただ漫然と教員が読解を示すのではなく、受験に必要なテクニック高校現代文における小説の読み方を示していく必要があります。

とりあえず私が小説を「高校現代文として」読む際に指導の際に意識しているのは2点です。1つめは、場面・人物・状況を意識しながら読むことです。空想世界である小説内の状況をしっかりと把握することが問題読解に繋がります。もう1つは、行動・言動・態度(表情)=心情という「三位一体」です。小説の問いは、登場人物(主に視点人物)の心情に関わるものが殆どです。それ以外の問題は描写・語彙で配点は全体の20%と高くありません。主な得点源となる心情把握のルールを身に付けることが大切なのです。

② 小説の導入教材

高校生で初めて触れる小説が「羅生門」という学校も多いでしょう。芥川龍之介という日本文学を代表する作家の作品であり、教科書教材としても森鴎外「舞姫」中島敦「山月記」夏目漱石「こころ」と並んで、高校現代文小説教材の四大巨頭に数えられます(ポケモンでいえば四天王、今の生徒にはワンピースの4皇だと教えています)。書かれた時代は100年以上も前でありながら今尚読み継がれる名作ですが、では教材としての側面はどうなのでしょうか。

定番教材で古臭いという声も聞かれますし、実際に僕も学生の頃はそう考えていました。時代が変われば教材も変わるのがまあ常とも言えるのですが、どのような教材性を羅生門は持っているのか。改めて検討してみます。

③ 下人という人物

下人という視点人物を中心にストーリーは展開されますが、彼の状況や悩みは生徒にとって極端(生死に直面するような状況)でありながらもどこか共感しやすいのです。物事を決めきれない優柔不断な態度、「にきび」と言う描写からわかる若年性とそれを気にする身体性、すぐに変わる心境、悪を憎みつつ自身の為ならば結局悪になり替わる二面性、老婆に対するアンビバレント(欅坂で説明しました)な心持ち。後で述べますが、語り手も相まって読者が下人になり替わる可能性を示唆していると感じます。これは芥川さんの文学性でもあり、「エゴイズムとは誰もが持っている」ことを下人を通じて私たちに問題提起しているわけですね。

④ 描写の効果

特徴的なのは、まず「語り手の存在」です。小説における人称の問題に触れるのに適していると言えます。小説の基本は一人称と三人称。それぞれの特徴について説明することで、これまであまり意識することがなかった語り手の存在に生徒は気付きます。「神の視点」と呼ばれる語り手の視点は、ただ読むだけではなかなか伝わりにくいのですが、図式化して説明すると納得してくれます。下人が羅生門の下で雨やみを待っている状況を読者に語っているのは誰か。そこで初めて、明確に語り手と言う存在が意識されます。語り手の意志は通常読んでいる際には意識しづらいものですが、気付かせてくれる貴重な小説であると言えます。

さらに、語り手のさらに外から言及してくる第2の語り手の存在。彼は神よりさらに上の創作者の立場(芥川?)から読者に語りかけます。それが物語を重厚にするというか困難にする。「仕掛け」という意味で小説の面白さに気付くきっかけにもなります。こんな読み方も出来るんだって、気付いた時の生徒の顔は国語科教員にとっての励みです。

もう1つ注目したいのは、情景です。史実の引用により世界観がはっきりする。そして、動物に関する描写です。動物=生々しさを感じる。普段生活する中では感じないことですが、文章にしてみるとなぜこんなにも意識されるのか。キリギリス、鴉、やもり、猫、ひきがえる、猿。人間とは別の近くで生きている存在を自覚するとどこか怖くなる。なぜなら、彼らの事は理解しえないから。そんな得体のしれないもの。しかし、他者の思考を理解することは出来ないと考えると、同じ人間であっても理解しえない部分があるのではないでしょうか。人間を以て描くのではなく、動物を用いることで意識化させた芥川は天才であると思います。

⑤ 本文外の要素

 本文以外にも、様々な伏線がちりばめられているのが「羅生門」です。末尾の改変問題には触れざるを得ません。2度の改変で下人の行く末は変化します。生徒から改変の意図について聞くと、悪に傾く→完全な悪→「下人の行方は、誰も知らない。」芥川の意図を想像する活動で、生徒の印象は大きく変わります。

 さらには、種本である「今昔物語集」との比較。違う箇所はたくさんありますが、大きく言えば、悪についての記述が異なります。説話・昔話・教訓である「今昔物語」と違うのは、より鮮明に表される人間性です。サンチマンタリスムを持った平安時代の下人という矛盾した設定は、近代思想と日本を絶妙に感じさせてくれる。アンバランスで違和感を感じ乍ら、どこか受け入れられる不思議な感じ。

⑥ メモ

久しぶりに読み直した「羅生門」ですが、なんとも不思議で読みごたえがある作品で、教材としての二面性を感じました。

ただ筋を追ってだらだら本文解説をするとものすごくつまらないけど、小説が持つ(内在する・含む)要素を知ると急に面白くなる。定番教材であると同時に、国語教員としての力量を問われるのです。

今回は、本文読解後に結末の改変問題と今昔物語との比較、中田敦彦さん(オリラジのあっちゃん)のYoutube大学(https://youtu.be/i5jZQb3bz-M)の視聴を経て、レポートの提出を実施しました。羅生門について、芥川の思いその他感じたことを課題としています。形式を重視しましたが、内容は自身が感じたことと根拠の組み合わせです。

勤務校では、ipadを一人一台配布しており、Microsoft Teamsを用いています。これまでは紙媒体で提出させていたものをword形式で提出させました。これは大学での課題、社会人となった後の公式文書や企画書を意識し、形式を伴う文書の作成を求めました。これまでは文章化のみで終わっていたものを、ICTを用いて文書化させました。

例では、オーソドックスなもの以外に、先日の投稿を基にしたサカナクションの楽曲と羅生門の接続を試みた論を示しました。「このような書き方も出来るんだよ」ってことを伝えたかった。小説、もとい文学教育の目的として現実世界との接続を意識しています。それを実現する一歩として大好きなサカナクションを引用させてもらいました。

表現、展開、その他文学事項。多くの点で、国語教育の可能性を秘めている教材が「羅生門」という事を改めて実感しました。

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