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「非一般の神社関係者」――資源活用事業#19

植戸万典(うえと かずのり)です。6月はいろいろな締切に追われていました。
締切はクリエイターを追い詰めてくる敵ですが、締切がなければクリエイターは作品を完成させられないので、これからも彼奴とは仲良くやっていきたいと思います。

五輪連休、皆様はいかがお過ごしですか?
我々一般人はモニターの向こうに彼らの悲喜こもごもを見ているだけですが、現に五輪に関わっている方々にとっては、1年前から、直前から、もう少し先に至るまで、気の休まらない日々のことと拝察します。
そうしたなかで思うのは、「関係者以外立入禁止」で開幕を迎えたTOKYO2020において、果たしてその「関係者」には開催国の国民が含まれるのか、ということ。

そんなこともアレコレ考えた今回更新するのは、『神社新報』令和3年6月21日号「杜に想ふ」に寄せたコラム「非一般の神社関係者」です。
ここだけの話ですが、掲載時の歴史的仮名遣ひは現代仮名遣いにあらためています。

コラム「非一般の神社関係者」

 異国の神の加護があるとかで、六月は婚礼の季節と云われる。もっとも、実際の挙式は秋の方が多いらしい。近年はまた祝言宜しく人前式も人気なようだが、遡れば平安時代、貴公子は姫の家に通って三日の夜に三日夜(みかよ)の餅を食べ、露顕(ところあらわし)の宴が催されて成婚を披露していた。神前元服も後代の様式であるように、古代社会一般の婚儀は神に対して誓いを立てる類でなく、専ら当該人の属する社会の中で必要とされたものだった。
 存外それは今も同じかもしれない。庶民の場合は親族や友人知人、職場の同僚に告げるくらいだが、国民的に知られる人ともなれば結婚するにもマスメディアを介して世に披露せねばならない。すると世間は○○ロスだと騒いだり、彼らの縁者でも知り合いでもないのに祝福したり貶したりと忙しくなる。現実はなかなかどうして、婚姻は両性の合意のみに基づくとはゆかないものだ。
 著名人の結婚相手はしばしば「一般男性/女性」と報道される。便利だが改めて考えると不思議な言い回しだ。お相手が「非一般」のことがあるのだろうか。芸能人は歌舞音曲その他に秀でた才能で大衆を沸かすにせよ、特殊な身分ではない。その意味で紛う方なく“非一般男性”と結ばれたと云い得る俳優はグレース・ケリーだろう。
 芸能人以外を「一般」と表すのは、芸能界の視点に立つからだ。ある属性を持った特定集団の立場から見て、その枠外にいる大多数の人が「一般」なので、視点が変わればその対象も変わる。神社界も、神社関係者以外をよく「一般」と呼んでいるが、もちろん斯界が特権階級なわけではない。
 そう云えば斯界が好むこの「神社関係者」という表現も、よくよく思案すると妙な響きに感じるのは気にし過ぎか。神職氏子崇敬者云々では煩瑣だからであろうが、では「神社関係者」とは誰なのか。
 「関係者」も“関係する者”以上の情報を明確にはせず、場に応じて対象を変え、故にそのままでは英語などにも翻訳しづらい表現である。具体的ではないから、芸能関係者や医療関係者などと云うときは概ね他称的か、敢えて曖昧にしたいときだ。一方で、斯界は「全国神社関係者大会」などと自称的。理念としては神社に関与する者の立場に際限など無いのだから他に表しようもないのはわかるが、これほどにも曖昧な表現が大手を振って使われていると、世間が思うニュアンスとの微妙な食い違いに可笑しみも覚える。
 「斯界」も“この業界”くらいの主観的な意味が本来だが、日常語では耳慣れない故か神社界隈では“神社界”を指すときの用語と化しつつある。さまざまな国民的問題にも公を自負して取り組む神社界は主客の境も曖昧なのかと、これはあまり一般的ではない神社関係者としての単なる小感。平素本欄に載るオピニオンとは似て非なるものだ。
(ライター・史学徒)
※『神社新報』(令和3年6月21日号)より

「非一般の神社関係者」のオーディオコメンタリーめいたもの

このコラムを書いた頃は、国民的に話題となったテレビドラマの主演俳優たちであるとか、人気のアナウンサーであるとか、著名人の結婚がニュースを賑わしていました。

以前から、女性芸能人が一般男性と結婚するというニュース見るたびに非一般男性とはどんな立場なんだろうと思案していたのですが、あれこれ考えた結論としては皇族かな、となりました。
記事の見出しとしてはこんな感じ。

“女優のグレース・ケリーさん結婚。お相手はモナコの非一般男性”

最近は五輪関係者という単語も散々聞きました。
「関係者」とは便利な言葉ですが、使い勝手の良さとは対称的に、とても曖昧な表現です。いや、それこそがこの単語の便利な点なのかもしれません。

そうしたなかでも「神社関係者」という表現は、業界ではかなり積極的に使われている反面、それが何者なのかイマイチ漠然としています。
まるで「神社関係者」と呼ばれる人とは、仮面をかぶっているかのようではないでしょうか。

まったく別の話になりますが、↑こちらの仮面をつけた“神社関係者”氏の作品は次にどうなるものか、楽しみにしています。
くれぐれも締切という敵には追い詰められませんように、と絵馬に願ひつつ……。

#コラム #私の仕事 #ライター #史学徒 #資源活用事業 #神社 #SoundHorizon #業界あるある

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植戸 万典
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