「リリイ・シュシュのすべて」を見て

アマプラ映画感想日記第12弾。
今回見たのはこちら。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00LGC23D8/ref=atv_dp_share_cu_r


制作の経緯

2001年公開の岩井俊二監督による日本映画。
作られた経緯がなかなか複雑で、もともと日本・台湾・香港の共作で作られましたが、岩井監督自身がしっくり来ずに急遽方針転換。
インターネット掲示板を通じた「ネット小説」として公開されます。

「リリイ・シュシュ」という架空の歌手のファンが開設したネット掲示板を元に物語が展開されます。
管理人の「フィリア」と常連投稿者の「青猫」が主な登場人物。
これらのキャラクターを岩井監督自身が自作自演で書き分けながら、一般にも開放します。
そして一般の方も徐々にこのネット掲示板の意図を察し、「リリイ・シュシュ」のファンになり切ってたくさんの投稿がなされ、実際にそれが映画にも採用されます。
とても実験的な映画ですね。

リリイ・シュシュの歌声は映画でも流れ、MVの映像も流れますが、この人物は後にシンガーソングライターのSalyuとしてデビューします。
SalyuといえばBank Bandとコラボした「to U」が有名。
ということは…そう、この映画の音楽監督は小林武史です。
アイナ・ジ・エンド主演で去年公開された「キリエのうた」でも岩井俊二×小林武史のタッグが見られましたが、ここで既に繋がっていたんですね。

ネットとリアル

物語の舞台はネット掲示板上と現実世界と2軸で構成されています。
現実世界では舞台は中学校。
蓮見雄一(市原隼人)と友人の星野修介(忍成修吾)の2人を中心とし、2人の所属するクラスでの人間関係が描かれています。
現実世界でも、ネット掲示板の世界でも、登場人物をつなぐキーとなるのが「リリイ・シュシュ」。
2つの世界を何度も往還するように、というよりは、現実世界の光景にネット掲示板の書き込みが重なるように展開されていきます。
登場人物が1人で考え込む中で、ネット掲示板の書き込みの内容だけが淡々と画面上に現れてくるのが印象的です。
これは、大画面のスクリーンで見ることにより、掲示板内の人物の心の叫びがよりダイレクトに響いてくるんじゃないかなと思いました。

修介の自我が崩壊し豹変していく様、その修介に振り回され心が荒んでいく雄一。
2人の現実世界に広がる絶望。
それを満たしてくれるリリイ・シュシュの希望が掲示板に描かれ、ホントに対照的です。
だんだんと、「もしかしてこのハンドルネームの人って…?」と少しずつわかってきますが、エンディングで確信に変わります。

救いはあるのか

正直、現実世界の展開は救いようもないです。
学級は終わっています。
人間の闇の部分、見せたくないところが全部曝け出され、多くの人が不幸になる最悪の結末の数々です。

結局リリイ・シュシュは人々のことを救えなかったのか?
掲示板上では、宗教のように神格化していたけど、結局万能ではなかったのか?
まあでもこういうイタい書き込みってあるよな~と思いながら見てました。

物語終盤のリリイ・シュシュのライブ会場でのヲタク同士の会話とか、めちゃくちゃリアルで感心しました。

小山内という教師

それから教育に携わる者として見逃せない登場人物が担任の小山内サチヨ(吉岡麻由子)。
音楽を担当する若手の女性教師なのですが、物語の前半では頑張ってるな~と思うんです。
「〇〇君は学校に来れなくなりました。これはみんなの問題です」
とみんなを巻き込んで考えさせる姿勢を見せますが、やる気が空回りする場面が続く。
そしてどんどんいじめっ子側、声の大きい側に流されてしまい、芯のない薄情な教師に成り下がってしまう。
合唱コンクールをめぐる久野陽子(伊藤歩)への対応は最悪だと思いました。
はっきりいって小山内もいじめに加担しています。
物語終盤での雄一との個人面談はホントにわかりやすく、生徒に興味なくなったんだなというのがすごく伝わります。
「小山内先生はどうしてこうなってしまったんだろうか?」
「小山内先生がどうすればクラスの生徒を救うことができたのだろうか?」

そう考えながら見るとまた違った見え方がしてくると思います。

この作品の異質さ

この作品は「Love Letter」「四月物語」「花とアリス」「ラストレター」のような岩井監督作品特有の美しさはなく、人間の汚いところが濃縮された陰鬱とした作品です。
正直言って評価は分かれると思います。
「賛」側の人は、それこそ作中の掲示板上でのリリイ・シュシュへの思いのようにこの作品への思いを熱弁できると思いますし、「否」側の人は全否定なんじゃないかなあと思います。
自分は「賛」なのか「否」なのか。
う~んまだわからないです。
私はこの作品をどう評価していいのかわからないです。

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