金融商品会計(中編)企業はなぜ金融商品を保有するのか?
金融商品会計は、実に多様な論点があり得る難易度Aクラスの基準です。
というのも金融商品の多様化、複雑化に対応するために基準も複雑化しています。
金融商品の実際の運用の話は別として、そもそもなぜ企業が金融商品を保有する必要があるのか?という点も踏まえて考えてみると理解しやすいのではないかと思います。
というのも後々論点にしますが、「どういった目的で金融商品を保有しているのか」が測定方法を決める上で重要な要素であったりします。
今回は金融商品の種類、企業が金融商品を保有する理由、について触れていきたいと思います。
1.金融商品の種類
投資系のサイトでは勧誘の色合いは強いですが、こちらのサイトはよくまとめられていてよいですね(中立的にまとまっていますね)。
さて、金融商品とは、
銀行、証券会社、保険会社など金融機関が提供・仲介する各種の預金、投資信託、株式、社債、公債、保険などのこと。
と言われています。
金融商品取引法もチェックしてみるといいですね。というのも金融商品取引法は上場企業に関する情報開示も定めていることでも知られていますが、そもそも金融商品に関する取引について定めている法律です。ですから金融商品そのもの関連する法律、つまり、金融商品を取り扱う業者が負うべき義務もこちらに書かれています。
特に金融機関に勤める人は網羅しておくとよい内容ですし、また金融商品を購入する側も、業者側がどういった義務を負っているかを理解しておくことはとても大切です。
金融資産というと、いわゆる現金預金も含んで範囲は広くなりますが、ここでいう金融商品に関する会計は主に有価証券について定められている会計と考えてよいでしょう。
第二条 この法律において「有価証券」とは、次に掲げるものをいう。
一 国債証券
二 地方債証券
三 特別の法律により法人の発行する債券(次号及び第十一号に掲げるものを除く。)
四 資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)に規定する特定社債券
五 社債券(相互会社の社債券を含む。以下同じ。)
六 特別の法律により設立された法人の発行する出資証券(次号、第八号及び第十一号に掲げるものを除く。)
七 協同組織金融機関の優先出資に関する法律(平成五年法律第四十四号。以下「優先出資法」という。)に規定する優先出資証券
八 資産の流動化に関する法律に規定する優先出資証券又は新優先出資引受権を表示する証券
九 株券又は新株予約権証券
十 投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)に規定する投資信託又は外国投資信託の受益証券
十一 投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資証券、新投資口予約権証券若しくは投資法人債券又は外国投資証券
十二 貸付信託の受益証券
十三 資産の流動化に関する法律に規定する特定目的信託の受益証券
十四 信託法(平成十八年法律第百八号)に規定する受益証券発行信託の受益証券
十五 法人が事業に必要な資金を調達するために発行する約束手形のうち、内閣府令で定めるもの
十六 抵当証券法(昭和六年法律第十五号)に規定する抵当証券
十七 外国又は外国の者の発行する証券又は証書で第一号から第九号まで又は第十二号から前号までに掲げる証券又は証書の性質を有するもの(次号に掲げるものを除く。)
最近は、投資信託に対する理解を深めることは重要だなと感じています。
というのも投資信託は少額での投資も可能なので、投資手段として定着化している、ということとファンドの数が無数にあります。
2020年5月末で13,080本!のファンド数があります。
しかも、投資信託の種類も、公社債、ETF、MMF、投資法人(不動産投資法人、J-REITもその一つ)、株式投信など実に無数にあります。株価全体を指数化している(つまり全株式をインデックス化して運用している)ETFは、今の株価の買い支えにも使われています。
特定の株式を、こうした団体が購入するわけにはいかないので、インデックス化されたETFを購入するわけですね。
とはいえ、色々と触れる始めると、これまた複雑なのでひとまず主要な以下の種類を抑えておきましょう。
この5つを抑えておけばよいかな、と。特に金融商品で話題になるのは、株、社債・国債などの債券、金融商品派生商品の4つでしょう。今回、デリバティブには深入りしませんので、株と債券の二つの種類だけでも意識してもらえればよいと思います。
ただし、外国株式、外国債券である場合は為替リスクにより価格が変動するリスクも生じます。この点は要注意です。
2.なぜ企業は金融商品を保有するのか?
なぜ企業は金融商品を保有するのでしょうか?次の4つの理由が考えられます。
関係会社への出資のため、ですね。提携を結ぶとその提携の証として株を持つ(お互いに持つ、こともある)というのはよくあることです。
ついにトヨタとスズキが資本提携を行った。8月28日の両社発表によると、トヨタはスズキに960億円を出資してスズキ株の4.94%を取得し、スズキはトヨタに480億円を出資してトヨタ株の0.2%を取得するという“株持ち合い”というかたちでの資本提携だ。事業協力については、今年3月の業務提携時に発表したとおり、(1)トヨタの強みである電動化技術および電動車の供給(2)スズキの強みである小型車およびパワートレーンの供給(3)両社の強みを生かした開発・生産領域での協業の3点が中心である。
このような形もありますね。
そう考えると①と②の違いはあまりないともいえますが、大企業が中企業の株を、取引関係を強めるために持つ(一方的に)、ということもありえます。
戦国時代に例えると、同盟の証というところですね。人質もかねて娘を相手の息子に嫁がせる(政略結婚!)ということもありましたよね。それを株でやっている、と考えると分かりやすいのではないでしょうか?
今も水面下で政略結婚が行われているかどうかは知りません。
とはいえ、こうした持ち合い、つまり政策目的の株式保有は批判の対象になります。その功罪をあげると3つあると思います。
①企業間の関係性を深め合う効果がある。
②企業間で結託して、企業防衛手段としても使える(議決権のある株式をお互いに持ち合うことを通じて、プロキシーファイトになったときに有利にことが運べる)。
③過剰な企業防衛に資金を投じていることは資金効率の点からも問題であり、投資家の目線で考えても不利益が多い(投資家の意向を聴く必要がなくなる)。
特に③の理由は大きいですね。現在は、投資家保護の観点から、無用に株を持ち合うということは好ましくない、と考えられています。一時期、この株式の持ち合いということが問題視されていた時期がありました。
下の図は株式の持ち合い比率の時系列推移になります。
(出所)野村資本市場研究所の以下のサイトより。丸印は筆者が追加http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2019/2019aut01web.pdf
1990年代は保険会社を含めた保有額をみれば50%であった(除いた額とでも35%)わけです。バブル崩壊後、企業に資産効率化が求められたこと、金融ビッグバンによる金融自由化、時価評価導入などの影響により低下しています。
今は10%台ですが、これを低いとみるか、まだ高いとみるか?
その判断は分かれるかもしれませんね。
さらなる削減は求められています。たとえば、コーポレートガバナンスコードにおいては、保有し続けるのであれば説明する必要が生じています。
2018年6月1日に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは企業の持ち合い株式について、保有する利点やリスクを開示するように求めています。理由なき持ち合いは認められない、ということですね。
最後に運用のために金融商品を持っている、に触れたいと思います。
金融機関が運用のために金融商品を持つのは当たり前かもしれませんが、金融機関以外でも余剰資金で金融商品を購入することはあり得ます。代表的な事例はAppleでしょう。以下はAppleのバランスシートです。
Appleは総資産の2分の1近くを売買可能な有価証券で運用しています。Appleはいわゆるキャッシュリッチで知られている企業ですから、現金で持っているよりはこの方がよい、と考えてこうした運用をしているのかもしれません。
こうしたことで思い出すのは、余剰資金を運用して大赤字を出した大学法人ですね。キャッシュリッチになっているから、といってこうした商品に手を出すと後でとんでもないことになります。
運用は計画的に、ですね。
現金で寝かせておくのがもったいないから、という理由で金融商品を保有する場合は、その目的に応じた運用すべきでしょう。
常識的に考えれば、無理な(リスクを取る)運用はする意味がありませんし、資金の性質上、好ましくないと思います。
アップルも極めて低リスクの運用を行っていたと記憶しています。学校法人は何を考えてリスクの高い金融商品に手を出していたかは謎です。
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