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人が本気になる時
今日は、普段とはちょっと違う話をしよう。
少し前まで私は、年間150回近く講演をしてきた。話をする相手は、高校生と大学生が主だった。彼らとは当然初対面の場合がほとんどだ。
自主的に参加している人は誰もおらず、学校から強制的に参加させられている人たちだ。
そして、たった一回で終わる講演がほとんどのため、フォローもやり直しも、追加もできない、まさに「一期一会」だった。
講演のテーマは学校側の要望に沿ったもので、私がどう進行していくかをレジメにまとめ、事前に了解を得て、当日最終的な打ち合わせをする。
高校の場合は、その学校や先生方とも初対面の場合も多いので最終打ち合わせで内容をガラッと変えたことも数回ある。
講演での私の使命は、「話を聞いてもらうこと」
あわよくば、「本気になってもらうこと」だ。
強制参加させられた講演で、人を本気にさせるのはなかなか難しい。
ましてや相手は15歳から22歳までの若者で、講演をする私は自分の母親またはそれ以上の年齢の「おばさん」だ。
そんな人の話は、普通聞かない。それを聞いてもらうために、あらゆる工夫をしてきた。
第一印象
最初の挨拶
最初の「つかみ」
多くの実例紹介
いつか講演の本を書けるほど、私なりに工夫したものを次から次に繰り出していく。その間も彼らの反応を常に冷静に観察している。ある程度の経験を積んでからは、彼らの反応によって話を変えたり、順番を変えたりしていた。彼らの注目を逸らさないようにするためだ。
うまくいかなったこともある。全く聞いてくれない数人がいて、注意をしたこともある。教室から出て行ってもらったこともある。他の生徒への悪影響を考えた末のことだ。その注意の仕方も、他の生徒たちも見ているためとても重要な場面だ。注意した後も話を聞き続けてもらうために、「こいつは信用できる」と思ってもらう必要がある。若者の前に立ち続けるのは、自分を律していなければなかなかできるものではない、と思っていた。毎回が真剣勝負だった。
しかし、それだけではなかなか話を聞いてもらうことはできない。40分から90分という時間、集中して聞いてもらうために最も大事なことは、「自分ごとだと実感してもらうこと」だ。
学校に言われて強制参加させられた講演は、「聞く必要がないもの」と最初から思っている可能性が高い。いつもの先生の説教や注意と同じだと思っている場合が多い。つまり「完全なる他人事」聞いても聞いてなくても、なんの問題もないもの、と思って参加している人が多い。
だから聞かない。
それを「これは聞いといた方がいい」と思ってもらうためには、「これは自分のことだ」
「これは自分の将来にとって必要な話だ」「これは聞いておかないと損をする」と思ってもらえたら、聞いてもらえる。
実際に「今から、知らないと損をする話をします」と言って話し始めることも多くあった。
さらに彼らが直面しているであろう問題の解決策を伝え、他の学校で実際に見聞き、体験した話をする。一人一人が自分のことだと思ってくれたら、あとは「聞いてくれる環境」が整い、彼らとの1対多のコミュニケーションが始まる。
そんな経験を多い時には週に5回も6回もやっていたので、私にとっては「道場破り」と思っていた。自分の実力を常に試される場。うまくいく保証はどこにもない。経験を駆使して、全力を注ぐ。その仕事を離れて、1年以上が経つが、最近も塾のアルバイトで同じような経験をしている。
1対多ではなく、1対1であったりするが、結局は「何をどう話せば自分ごとと思ってもらえるか」が大事だ。事例紹介は言うまでもなく、私自身の経験を話すこともある。どの話が「刺さる」のかは、人によって違うからだ。先日もある話をした途端、彼らの反応が好転した。
「あ、ツボはここだったか」と、まるでマッサージのツボか何かをとらえたような気がした。
1人の生徒は、明らかに目の色が「真剣モード」に変わった。
一般的にこの反応を「本気になった」と言うのだと思う。
今後その本気が続くかどうかは今後も見守っていきたいが、もちろん最終的には「その人の人生」だ。私はほんの脇役に過ぎない。ただ、「本気になった瞬間の目」を見ることが好きで、私は講演を続けてきたのかもしれない、と、あの講演を続けていた日々を懐かしく思い出していた。
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