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どこにも属さない時間


飛行機に乗っていると、「ああ、今私はどこにも属してないな」と思うことがある。根っからの自由人なのだろう。
どこにも所属してないことに、居心地の良さを感じる。

空だけでなく、おそらく海もそうなのだろう。
一応、国境や公海などはあるものの、太平洋のど真ん中ならば、そこを飛んでいる飛行機は、どこにも属してないと言うことになる。

ただ空の上の場合は、乗っている航空会社の国の法律が適用される、と聞いていた。
だから、実際には空の上でも、日本の航空会社の飛行機に乗っていれば、日本に属していることになる。
つまり、「どこにも属していない」と言うのは不可能で、そんな感覚がするだけ、と言える。

それでも、地上から離れているだけで、なんとなく自由な気分になるのだから、不思議なものだ。
もちろん、地上から離れているだけで怖くて怖くて仕方がない人もいる
客室乗務員現役時代、私が乗務していた飛行機に爆弾を仕掛けたと言う連絡が入ったことがある。
約7年間の乗務経験で、唯一の「緊急事態」だった。
小さなものならば、急病人が発生したり、天候により引き返したり、代替え空港に行くなどは、何度も経験したが、いわゆる「緊急事態」は、これが初めてだった。
当然このような事態にもマニュアルがあり、全てを丸暗記させられている私たちは、機長とチーフの指示のもと、マニュアル通りに冷静にやるべきことを実施した。

1番大きな仕事は、お客様がパニックになった時のコントロールだ。
チーフの指示でキャビンに出たが、出張に行く会社員ばかりの、グレースーツの中、パニックになったり、質問をしてくるお客様は1人もいなかった。
当時配布されていた朝刊や週刊誌から、目を離すこともなかった。
ホッと一息ついた頃、飛行機は出発空港に引き返した。

万一を想定し、私たちの飛行機はターミナルから遠く離れた場所に駐機させられた。
飛行機の駐機場所には、消防車、救急車、パトカーが止まっていて、飛行機はぐるりと取り囲まれた状態だった。
機長の指示のもと通常降機をしていただいたが、降機完了後すぐに警察官が乗り込んできて、「現場検証します!何も動かさないでください!」と、叫んだ。

簡単な事情聴取を受け、私たちも降機した。

その後ブリーフィングで、「お客様がパニックにならなかったことは、本当によかった」と言うまとめが、チーフから発表されたが、実はお客様は怖いと感じているが、質問するのも怖いし、緊急事態だからクレームも言えない、と言う事情があったのではないか、と言う意見を別の先輩が言ったような記憶がある。

怖いけど、怖いとは言えない。
そんな気持ちも理解しながら、できる限り不安を取り除く言動をすることも、私たちの大きな仕事だと、その時感じた。

飛ぶことを仕事にしなくなって、長い年月が経過したが、仕事として飛んでいても、お客として乗っていても、あの空にいる時間だけは、私は自由を感じていた。
しかし、そうではない人がいたこともふっと思い出した。
この「緊急事態」について書いたことは、一度もないが、もうそろそろ時効だろうと思って書いてみた。

さて、あなたは、空の上が好きですか。それとも、怖いですか。


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