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震災の教訓を伝え、防災意識を高める授業を
阪神・淡路大震災から26年。
私が住んでいるのは兵庫県。この時期は、避難訓練などが実施され、各校で震災を忘れないようさまざまな取り組みが行われる。
私は兵庫の先生で作る学校支援チーム「Earth」の隊員だ。
Earthでは、阪神淡路大震災の教訓を生かし、子どもたちへ防災の授業を行ったり、発災時には派遣されて避難所運営や子どもたちへの接し方などにアドバイスをするなどの支援を行う活動を行う。また実際に他校へ行って授業を行う研修も行っている。
今年もありがたいことに、授業をさせていただく機会をいただき、ストレスを軽減する方法などを紹介した。また、在籍校の5年生でも、持ち出し袋の中身を考える授業を行った。
実践を積む中で、防災の授業を行うのに大切だと感じたことを、以下にまとめてみる。
最初の黙祷
まず、授業は黙祷から始める。これは、Earthの先輩から教わったことだ。
「震災で亡くなられた命を忘れないために。無駄にしないために。」
このことを伝え黙祷する。子どもの眼が変わる。教師の真剣さに、「命の授業をするんだ」と言わなくても、子どもたちなりに感じているようだ。
子どもが震災を自分ごととして想像するために
そして、「もし自分がここにいたら、どんな気持ちになるだろう」と問いかけて、次の4枚の写真をスライドで見せた。
震災について話すときに大切なのは共感すること、つまり、子どもたちがどれだけ「自分事」に感じるかだ。
今までは動画を見せたり教師が話をしたりしていたが、それだと子どもたちが想像する余地が減り他人事のようにとらえてしまうことが多かった。そこで、今回は4枚にしぼり、説明を極力しないようにして見せた。
その後、近くの友だちと感想を話し合う時間を取った。たった4枚でも恐ろしさを十分感じている意見が出ていたが、自分の経験を話しさらに深めていく。そして、「ここには倒れている人間が写っていない」こと、報道では、見る人への配慮として遺体などはうつさないことを伝えた。
写真や映像を見て、私たちはどうしてもわかったつもりになってしまう。だが本当は、亡くなった方の遺体やむせかえるような匂い、さまざまな音など、ニュースやテレビでは伝えられない過酷な現実があるのだ。そのことを考えて初めて、被災者に寄り添うことができると思う。
このことは、東日本大震災のボランティアで大船渡市に行ったときに、ある被災した方と話をしたときに言われて知ったことだ。そのことを「戻ったら学校で子どもたちに伝えてほしい」とおっしゃっていたことが忘れられない。
その経験が授業に生きた。匂い・音などの五感を想起させる、人がいることを想像させる。発問から「共感」を生む一つのポイントだと分かった。
そして、活動に移る。
持ち出し袋の中身を考える
この授業自体は、EARTHの研修会でたびたび実践されているものであり、自分のオリジナルではない。しかし、何回か行う中で、少しずつ自分流にアレンジしながら行っているものだ。今回は、5年生で実施した。
まず、災害が発生した場合、ライフラインの復旧にはかなりの時間を要し、救援物資が届くのに最低3日はかかることを伝える。その3日間を生き抜くための「非常持ち出し袋」を考える内容だ。
本当は、班ごとにアイテムのカードを配りグループで考えさせたいのだが、今回は非常事態宣言下ということで、ワークシートを配って一人で考え、それを交流する形にした。
さまざまな意見が出た後、私から震災での教訓を伝える。
ふろの残り湯やサランラップを使うなど、水を節約する方法。ラップは、手洗いの必要がなくなったり体に巻いて寒さをしのいだりして役に立ったこと。ラジオから情報を得ることの有用性(ネットやSNSには、虚偽の情報が含まれることがあること)を話した。
これを聞いて、「いるなあ」と言いながら袋の中身にラップや携帯ラジオを追加する子たちがたくさん出てくる。
ちなみに、このデータは兵庫県教委の副読本「明日に生きる」のもの。県教委のHPからPDFファイルで誰でも見ることができる。「明日に生きる」には、EARTH隊員が中心となって、授業に役立つ資料や教訓、授業展開例がまとめられている。
授業の最後に、次のようにまとめた。
復興の願いを具現化する「はばタン」
最後に「はばタン」の話をした。
兵庫県のこどもはほとんどみんな知っている「はばタン」。兵庫国体が行われたときにつくられたマスコットだが、その高い人気故にその後県のマスコットとなり、今も愛されている。
ところではばタンは何の鳥か?
ひよこだと思っている子がいるが、そうではない。
答えは「不死鳥」。震災からの復興への願いが込められている。
私が熊本地震のボランティアに行ったとき、その人形をもっていった。そして熊本の子どもたちに、兵庫の話をした。「兵庫も震災で大きな傷を負った。でも、そこからよみがえった。熊本もいつかは、復興できる。」
そのことを、完全には理解できないかもしれない。でも、子どもたちはとにかくはばタンをかわいがっていた。その人形は、その教室に残してきた。話や私のことは覚えていなくても、はばタンを見て元気を出してくれればいいなと思った。…そんな経験を話した。
低学年の子どもたちに話すときは、「はばタン」の話から導入するのは、いい方法だと思う。
震災の教訓は、すべての時代に通じる知恵
授業後、子どもたちからたくさんの感想をもらった。
震災の経験を知ることの大切さ→「震災の怖さがわかった」「これは命の授業だった」
自分にできることをやりたい→「自分もボランティアに行ってみたい」「持ち出し袋を用意したい」「家でも話し合ってみたい」
実際、持ち出し袋を準備している家庭は、半分もいなかった。この授業を通して、家で防災の意識を高めることにつながってほしいということも、授業の狙いである。(参観日に実施するのもいい)
コロナ禍により災害は複合化している。パンデミックへの不安、避難所運営やボランティア活動の制約を受けるなど、新たな課題が生まれている。
阪神淡路大震災の経験は、私たちに多くの「知恵」を与えた。それは、コロナ禍の今も生きている「知恵」だ。
その「知恵」を活かし、今の難局を乗り越えていくこと。それが、亡くなられた命を無駄にしないことにつながる。そう思って、少しでも自分の考えを若い教職員や地域・保護者に伝えていきたいと思う。
最後に、2021年1月17日に兵庫安全の日推進県民会議のメッセージから、次の言葉を引用する。
忘れない 伝える 活かす 備える 阪神淡路大震災の教訓を