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発達障害について考えよう(1)

なぜ、こんなに増えているのか?

               植草学園大学 発達教育学部 教授 野澤和弘          

 通常の学級に在籍する小中学生のうち、発達障害の可能性がある子どもが8・8%を占めるという文部科学省の調査結果に衝撃を受けた人は多いはずです。8・8%とは、つまり11人に1人が発達障害ということです。特別支援学校や支援学級に通う児童・生徒も増えていますが、通常学級に在籍する子どもたちの間でも発達障害がこんなに増えているというのです。
 10年前の前回調査では6・5%でした。調査方法が一部変わったとはいえ、たった10年でこんなに発達障害が増えるというのはおかしいと思いませんか。子どもたちの間で何が起きているのでしょう。学校はどうなっているのでしょう。

「8・8%」の衝撃

 文部科学省は2022年1月から2月にかけて全国の公立の小中学校と高校に抽出調査を行い、1600校余りの7万4919人について回答を得ました。その結果、読み書きや計算など学習面の困難さ、不注意や対人関係を築きにくいといった行動面の困難さが見られるなど、発達障害の可能性がある児童生徒は小中学校の通常学級に8.8%、高校では2・2%に上ることがわかったというのです。
 質問に答えたのは担任の先生であり、発達障害があるとみなされた子どもが必ずしも医学的な診断を受けているわけではありません。先生の目から見て学習や行動面に困難さがあり、学校生活を送る上で何らかの支援が必要とされる子どもたちが小中学校では1クラスに平均3人近くいるということなのです。
 この調査は通常学級を対象に行われたものであることをもう一度考えないといけません。それ以外に特別支援学校や特別支援学級には多くの障害児が通っています。どの特別支援学校も近年は児童生徒数が急増し、教室が足りなくて図書館や音楽室を改装したり、廊下などの空いているスペースに机を並べたりしている光景がよく見られます。

春、植草学園大のキャンパス(千葉市若葉区)はサクラで埋め尽くされる。

早期発見・早期支援とは

 いったい、発達障害の増加傾向はいつから始まったのでしょう。
実は、発達障害者支援法という法律が施行されたのが2004年ですが、このころから子どもの行動の中に発達障害のように見られる要素が注目されるようになりました。この法律の目的は、発達障害の「早期発見・早期支援」だからです。幼少期や学齢期から診断の機会が増え、早期に発見しようということが大きな要因となっているのです。
 ただ、早期に発見(診断)されても、必要な支援につながらなければ、「発達障害」のレッテルを貼られるだけとの批判は当初からありました。医学的な所見がなくても、勉強についていけない、集団行動が苦手というだけで、安易に「発達障害」とみなされ、やっかいな子どものように見られることへの懸念も渦巻いていました。
 早期発見が学校現場でちょっと変わった振る舞いをする子ども、集団行動が苦手な子どもたちが「区別」「排除」されるのではないかというのです。

さまざまなタイプが…

 発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」(発達障害者支援法2条)と日本では定義されています。
 国際的な診断基準の改正で、自閉症とアスペルガー症候群が一つになって「自閉スペクトラム症(ASD)」となりました。今は、チック・トゥレット症候群、吃音も発達障害に含まれるようになりました。
 自閉スペクトラム症(ASD)は、言葉や視線、表情、身振りなどでやりとり、自分の気持ちを伝える、相手の気持ちを読み取ることが苦手で、特定のことに強い関心を持つ、こだわりが強いなどの特性がよく見られます。視覚や聴覚など感覚が過敏な人もいます。
 注意欠陥多動性障害(ADHD)は、落ち着きがない、待てない(多動性・衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)などの特性が挙げられます。
 学習障害(LD)は全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習が困難という特性があります。

植草学園大学L棟3階の教職・公務員支援センターで。

世界各地で増えている

 「発達障害」が増えているのは日本だけではありません。各国の調査でも自閉スペクトラム症などは近年著しく増加しています。
米国の自閉症支援のNGO「オーティズム・スピークス」(本部・ニューヨーク)を10年前に訪れた時のことです。先進国や途上国などで行われている疫学調査で自閉症の子どもの数が右肩上がりで増えていることを紹介されました。
 確たる理由はありませんが、「先進国では高齢出産が増えており、それに伴って何らかの障害や疾患を持って生まれてくる子の確率は高くなっていることが発達障害の増加をもたらしているのは間違いない」と言われました。
医療技術の進歩もあって障害のある子の命が救えるようになり、日本では出産の現場に立ち会う医療関係者の間で障害があっても生まれてきた子どもの命を救おうという機運が高まってきたのだといいます。
それ以外に自然増の要因として考えられるは、食品添加物や何らかの化学物資が影響している可能性です。
しかし、多くは一般社会の関心の高まりや診断機会の増加、診断できる児童精神科医が増えているなど社会的な要因が大きい、というのが同NGOの見解です。
 米国ではADHDと診断された子どもに多量の治療薬が投与されている問題が以前から指摘されています。製薬会社が診断基準や治療ガイドラインに影響力を及ぼし、薬が処方される子どもたちが増えた結果、営業利益を伸ばしているというのです。そうしたビジネス絡みの要因も背景にあるのかもしれません。
 ただ、それだけが原因なのでしょうか。少なくとも日本における発達障害の急増は家庭や学校などで起きている問題を抜きにしては考えにくいと思います。
                              つづく
        (毎日新聞の連載「令和の幸福論」を加筆再編しました) 

野澤和弘 植草学園大学副学長(教授) 静岡県熱海市出身。早稲田大学法学部卒、1983年毎日新聞社入社。いじめ、ひきこもり、児童虐待、障害者虐待など担当。論説委員として社会保障担当。2020年から現職。一般社団法人スローコミュニケーション代表、社会保障審議会障害者部会委員、東京大学「障害者のリアルに迫る」ゼミ顧問。上智大学非常勤講師、近著に「弱さを愛せる社会に~分断の時代を超える『令和の幸福論』」(中央法規)。「スローコミュニケーション~わかりやすい文章・わかちあう文化」(スローコミュニケーション)、「条例のある街」(ぶどう社)、「障害者のリアル×東大生のリアル」(〃)など。https://www.uekusa.ac.jp/university/dev_ed/dev_ed_spe/page-61105

5月26日、オープンキャンパスです。

学校説明会・オープンキャンパス | 植草学園大学・植草学園短期大学 (uekusa.ac.jp)
   



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