「量子論」を楽しむ本(佐藤勝彦監修)【書評#124】
量子力学を数式なしで説明した入門書。監修者が宇宙物理学者だからか、内容は理論寄りで最終的に量子重力論まで話が展開している。また、入門書としては珍しく、ベルの定理の説明が入っている。
(シュレーディンガーは)「観測できるものが実在である。観測されないものは実在しない、よってそんなものは考えない」とするコペンハーゲン解釈にはとうてい納得できませんでした。シュレーディンガーもアインシュタインと同じく、人間の観測に左右されない「実在」があることを信じた一人でした。 シュレーディンガーは後年、電磁気力と重力を統一的に表す研究をおこない、また生物学に関心を持つなどして、物理学の主流となった量子論からは距離を保ち続けました。 p.192
シュレーディンガーがコペンハーゲン解釈に否定的だったのは知らなかった。シュレーディンガー方程式を導いた当の本人が量子論の解釈に否定的なのは意外だった。
フォン・ノイマンは、量子論にも大きな影響を与えています。一九三二年に『量子力学の数学的基礎』という本を出版し、その中で彼はある重要な指摘をおこないました。コペンハーゲン解釈の基本仮定である「波の収縮」は、数学的に説明できないものだというのです。 フォン・ノイマンは量子力学の柱であるシュレーディンガー方程式を検討して、この方程式からは「波の収縮」という現象の発生が導けないことを数学的に証明しました。そもそもシュレーディンガー方程式は、物質波が時間の経過とともにどのように広がっているのかを記述する方程式でした。ではこの方程式を用いて「波が収縮する」というプロセスも表現できるのだろうかと考えてみたところ、それは原理上不可能であることが証明されたのです。 (...) そこでフォン・ノイマンは「波の収縮は人間の意識の中で起こる」と結論づけました。(...) しかし、フォン・ノイマンのこの理論は、現在ではほぼ否定されています。(...)波の収縮は、もしそれが起きるならば、人間の意識の中などではなく実際の物理現象の過程で発生しているだろうと考えるのが現在の通説です。 p.202-204
波の収縮が数学的に否定されていることは初めて知った。『量子力学の数学的基礎』読んで、その論理を理解したい。
また、その後の話の展開で他世界解釈の話が続くが、他世界解釈も直感的にすぐ受け入れられるものではない。やはり、解釈問題はすぐには解決できない難問だ。