伝記(偉人)の取り扱い方 〜中学年〜
本シリーズでは、道徳科の授業で多くの先生方が「どの学年でも扱うけど、もう一歩踏み込めない・・」と感じることの多い伝記(偉人)教材に焦点を当て、その魅力的な活用法を探っていきます。今回は、中学年の教材を活用して、具体的な授業づくりのアイデアを共有します。
*ぜひ、前号と併せてお読みいただけると幸いです。
1 教材「りんご農家 木村秋則さん」で考える
本号で取り扱う教材のテーマは、りんご農家「木村秋則さん」の物語です。この教材では、木村さんが無農薬栽培に挑戦し、多くの困難に直面しながらも9年間の長い年月をかけて「奇跡のりんご」を実らせるまでのストーリーを描いた内容です。
内容項目は「希望・勇気、努力と強い意志」です。
*参考教科書:学研4年「へこたれない きせきのりんご」
2 教材の見方・考え方
この教材では、木村さんの生き方を通して「努力は必ず成功する」というメッセージを伝える典型的な成功物語として描かれています。
しかし、現実は必ずしもそうではなく、子供たちもそのことを肌で感じています。
さらに、木村さんが達成した偉業は誰も成し遂げていない大偉業であり、見方を変えると「無謀な挑戦」とも言えるのです。
そのことを考えると、子供たちにそのまま受けらせるには現実的とは言えません。
では、この教材を通して、どのような視点から「強い意志」や「粘り強くやり抜くこと」の大切さを子供と一緒に考えることができるのでしょうか。
その視点とは・・
木村さんの「努力や成功」という行為(結果)ではなく、木村さんが大切にしていた「考え方」にこそヒントがあるのではないでしょうか。
多くの農家が、従来の農法を続けることで安定した生活を送る中、木村さんは、安定した生活を捨て多くのもの(お金や信用など)を犠牲にしました。
それでも諦めなかった・・
なぜ・・?
一体、何を大切にしていたのか(考え方とは)。
それは「妻への愛情」や「こだわり」「揺るぎない信念」を守り抜きたいという想いがあったからです。
この視点から考えると、「困難や不幸」に見える生き方も、「本人にとって」自分の深淵や大切な思いを守り続けることで、むしろ充実した人生へと繋がっているのです。
このような前提に立って、授業をを構成してくことで、子供に無理なく、そして深い学びを促すことができるのではないでしょうか。
「本当に守りたいものは何か」
「強い意志で守り続けることは、何を与えてくれるのか」
という問いを通じて、子供にとっても意味のある学びになるはずです。
3 本時のねらい設定
上記のようなことを踏まえると、ねらいは次のようになります。
【本時のねらい】
木村さんが大切にしてきた「考え方」や「守り抜きたい思い」に焦点を当てることで、周りに流されて生きるよりも、自分の信念や大切にしたいモノを貫き通すことの本当の価値に気づき、自分らしい強い意志を持ち、自分の人生を切り開いていこうとする態度を育てる。
4 授業展開
以下の主発問で、ねらいに迫ってみます。また、導入や終末の発問は省略します。
T:一般的なりんご農家と、木村さんの違いは何ですか。
C:農薬を使わない。
C:りんごがなかなか取れない。
C:難しい農業
T:木村さんは、無農薬のりんごを作るまでに、何年掛かりましたか。
C:9年間
*簡単に、木村さんの農業の特徴を押さえて、次の発問へ。
T:木村さんは無農薬を9年間続けることで、どんなことを失いましたか。
C:お金
C:子供への贅沢
C:周りの人からの信用
*できる限り、失ってしまったものを発言させる。
T:こんなに多くのモノを失ってまで、続けたのは、どんな考えがあったのか。
C:奥さんと一緒にりんごを育てたい
C:みんなに優しい農業を成功させたい
C:きっと、無農薬でもりんごができるという信念
【問い返し(Aは○○だけど、Bは〜)】
T:従来の農法を続けることで安定した生活を送ることができるけど、周りに合わせずに、自分の考えを大切にしてやり続ける木村さんの生き方は、誰にどんな影響を与えると思いますか。
C:家族→絆
C:周りの農家→成功させた時には、驚きと嬉しさ
C:私たち→希望
C:自分→やりがい
(思考の整理)
T:みんなと同じような農業の中で工夫することも大切だけど、自分の考えを大切にすることで、人に笑われてもやり続けることできるんだね。そして、それが自分や多くの人に色んな影響を与えるんだね。
以上のように、偉人が実現した結果そのものではなく、その人の大切にしてきた「考え方」に焦点を当てることで、内容項目をより深く掘り下げて考えることができます。
そして、子供にとっても新しい気づきや発見をもたらし、より豊かで意義のある学びを展開することができるのではないでしょうか。
次号では、高学年の伝記(偉人)教材の授業づくりを行ってみたいと思います。
*ご無沙汰しておりました。長い間更新が滞ってしまい、申し訳ありませんでした。これからはできる限り定期的に投稿していきたいと思いますので、ぜひフォローしていただけると嬉しいです。引き続きよろしくお願いいたします!