レストランが行う滞日アジア人女性支援
プロジェクト90% #4
取材日:2024年7月22日
取材先:神戸アジアン食堂バルSALA
レストランを通した社会問題への取り組み⁈
国連・外交サークルproject90%の取材も今回が4回目となります。今回はSDGsゴール10「人や国の不平等をなくそう」とゴール16「平和と公正をすべての人に」に関する内容です。JR元町駅から徒歩3分のターコスブルーを基調としたお店「神戸アジアン食堂バルSALA」に取材に行きました。滞日アジア人女性の問題について認知し異文化理解を深めたいという思いから今回お話を聞きに行かせていただきました。
このプロジェクトが始まって2回目のレストラン取材ですが、前回のイタリアンレストランとは取り組みや内容が大きく異なっています。前回はフードロス削減や持続可能な経営という内容でしたが、今回はレストランを通した社会問題への取り組みという面でお伝えします。
神戸アジアン食堂バルSALAができるまで。
神戸アジアン食堂バルSALAでは「Empowerment OF All People」をコンセプトとして「国籍、性別、立場、環境などを超えてみんなが互いの価値観を認め合い、自分の価値も認められる社会」のためにSALAがきっかけになりたいと考えています。特に就労が困難な滞日アジア人女性の「自分の強みで働ける」雇用の場を多く創出することを目指しています。取材させていただいた店長の奥尚子さんは大学時代に授業で社会問題について学んでいましたが実際に当事者に会ったことはなく、当事者を取り巻く社会問題についての実感がわきませんでした。そのような中大阪でアジア出身の女性相談支援を受けているNGOを訪問する機会があり、「夫の転勤に伴い来日するも言葉や文化がわからず知り合いもいないために自宅に引きこもる女性」や「日本人男性と結婚し子どもも日本社会で育っていくなか、言葉や文化の壁があり家族の中で自分だけが取り残され孤独を抱える女性」などさまざまな女性に出会いました。母国では普通にできていることが日本に住むことで当たり前にできていたことができなくなってしまう現実を目の当たりにします。そんな時彼女たちからご飯を作ってもらう機会があり、それがきっかけとなり大学のイベントで屋台を出すことになります。結果は大成功に終わり、彼女たち自身も自分たちの母国料理がお客さんに喜んでもらえる姿からハッピーになりました。その後奥さんは社会人として数年勤務したのち現在のレストランを立ち上げ滞日アジア人女性の雇用支援を行っています。
問題を考えるときに大切なこと
奥さんはアジア人女性と関わっていく中で「全て自分で解決しようと思わない」という考え方を大切にしています。これは学生時代に学んだことで積極的に専門家に相談に行くという考え方です。相談から働く場所の提供まで一挙に対応すれば問題はすぐ解決するかもしれませんが実際はそのようにはいきません。各分野に専門家がいるように、素人が対応しようと思っても限界があり、かえって問題を複雑にしてしますケースもあります。「SALAは働く場所」と決め、問題があった場合は市役所に行ったり専門家に届けたりするなどしています。
また現在の課題の一つに、本当に困っている滞日外国人にどのようにSALAの存在を知ってもらうかということがあります。現在日本には滞日外国人を支援するNGO・NPOが増えてきている一方、依然として情報が届きにくい現状があります。どの滞日外国人グループにも情報を伝達する人がおり、その人が中心となって情報が伝わる仕組みが存在しているため、情報を伝えるためにはその人にいかにして情報を伝えるかということがポイントになります。「きれいなチラシを作ってもそれが彼らに届かなければ意味はありません」。そう話していた奥さんの言葉に支援する側とされる側の現実が伝わってきました。
“今”目の前の人を、、
取材を行っていてもう一つ印象的だった言葉があります。それは私たちのサークル活動において、また社会問題を取り組むすべての人に当てはまるのではないかと思います。「社会問題の解決よりも、目の前の困っている人を助けたい」。奥さんがこのレストランで働き滞日アジア人女性とかかわる中で感じたことです。日本社会に来たことで、母国にいた時にできていた読み書きや友達との会話、困りごとの相談などの当たり前の生活ができなくなり社会との接点がなくなってしまった人たち。今目の前にいるその人たちがどのようにより良く生きていけるかということを考えることが大切なのです。
アジア人女性が生きやすい社会とは
神戸アジアン食堂バルSALAが開業してから8年。滞日アジア人女性にかかわってきた奥さんは彼女たちが生きやすい社会とは「本当に小さなことでも、より多くの人がそれらをできる社会」と考えています。母国から離れ異郷の地に暮らす彼女たちはそれまでできていた普通の生活ができなくなります。そうした生活の中でもなにか小さなことができるようになり社会との接点が増えるきっかけになることがとても大切なのです。
私たちができること
社会問題に取り組む事や自分が疑問に感じている問題について社会をよりよくするために行動することは、時に0から1を作ることであり難しく感じます。それでは実際に取り組むにあたり何が必要なのでしょうか。奥さんは「自分の強みを強く発信すること」が大切だと考えています。SALAでは「食」を通して目の前の問題に対して取り組んでいますが、それぞれ自分の強みを武器にしてアプローチしていくことが重要です。
今回は、レストランを通した社会問題への取り組みという面で取材をさせていただきました。普段あまりクローズアップされない滞日アジア人女性問題。しかし近年来日・滞日するアジア人は増加しています。同じ土地で生活している外国人が何か問題を抱えていて生活しづらい環境にあるかもしれないということを今回の取材を通して学ばせていただきました。そして何か行動を起こそうとするときにどのように考え実践していくのか今回の記事がお役に立てれば幸いです。(守屋耕平)